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宇宙喫茶で弟子になる。  作者: 五角形の人
3/5

写し鏡

熱で休んでました。治りました。

店内に入るとマスターらしき獣人はこっちを優しい目で見ながら

「いらっしゃいませ。宇宙の迷い人よ。宇宙喫茶店パペブルへようこそ」と言った。

私はもちろん戸惑った。何しろ人ではない獣人が、しかも日本語を使って私に話しかけてきたからだ。

しかも、その獣人によればここは喫茶店ときた。信じられるわけがない。これは夢だ。そうに違いない。

「あなたはこのいま起きている出来事を夢だと思っておられますね。ひとまず疑いをすべて捨て、こちらにどうぞ」とその獣人はモフっとした手でカウンターの席を案内してくれた。

ここまで不可解なことが起きているんだ。考えても無駄だと確信した。

そのため私はその獣人の言うことを信じた。そして古臭い木造の床に足を踏み入れたその瞬間だった。

一瞬で私の身に着けていた宇宙服は、弾けるように消えた。

私は死んでしまう!と背筋が凍り付く。しかし何も起こらなかった。

息もできるし気温も適温。なんなら宇宙服がないおかげで動きやすくもなった。

「大丈夫ですよ。ここはどんな生物でも生存しやすい環境なのですから。さあ、コーヒーが冷めてしまいます。」そう言い、私のいない席にコーヒーを置く。そして早く座れ。と言わんばかりに笑顔でこちらを見てくる。

慌てて席にゆっくりと腰掛ける。革でつくられた椅子はとても私の体にフィットした。

目の前のコーヒーを前にして、その芳醇な香ばしい香りを前に疑いなどすべて晴れた。

 

私はゆっくりと店内を見回したあと。そのコーヒーを口に運ぶ。

自分の好きな味だった。どこか懐かしくて、コーヒー好きの父が淹れてくれた、あの味。

私の父は宇宙飛行士だった。そして私は程なくして父を亡くした。事故だった。

私たちが乗っていた、たかとびは、1号があり。1号は大気圏が入る前に爆発し失敗に終わった。

その時に乗っていた飛行士の一人が私の父だ。

当時私は15歳だっただろうか。思春期で父に攻撃的だったときに起こった事故だ。

あの時素直に別れを言えていたら。あの時もっと話していたら。そんな悔いがずっと残っていた。

その悔いは、どんどんと繊維のように集まっていき。

そして私は決めた。宇宙飛行士になり、父の想いを紡ぐと。

でもその願いも、今回の事故で、ほどけるように朽ち果てた。


そんなこと思い出しながらコーヒーに歪んで映る、悲しそうな私を見る。

ほかのみんなは生きているのだろうか。それとも私だけが生きているのだろうか。あるいは、死んでいるのかもしれない。そんな疑問がまた心の中からにじみ出る。

 


「疑問や悩みは人の原動力になるときがあります。でも大きくなりすぎると受け止めきれなくなってしまいます。ケーキでも同じです。最初は甘くてもおいしくても、量をいっぱい食べようとすると甘すぎて嫌になってしまいます。だから時間を置くんです。もう少し食べたい。というところで終わらせては、また別の日に食べる。そうすることで量が多くてもケーキをおいしく食べきることができる。疑問や悩みでも、その時に全部解決しようとせず、時間をゆっくりとかけては、色んなことを感じ取りながら解決する。焦る必要はありませんよ。」

そういいながら、獣人は目の前にちょうどいいサイズのケーキを目の前においてくれた。

「チョコとマカダミアナッツをベースに、オーロラの層をスポンジに仕上げたケーキです。どうぞ」

 白い皿に置かれたケーキ。きれいなムラのない四角いビジュアルに、夜空のような黒いソース。そして夜空に星が浮かんでいるように、上からふりかけられたナッツ。金色のフォークでケーキを開いた。中をみればオーロラのようにきれいな層で、少し翡翠色を放つしっとり系のスポンジ。

それはまさに、星空に帯びるオーロラの景色そのものだった。

その美しさに圧倒されながらも、迷いなく口へと迎える。

おいしい。ただただおいしい。舌の上で味がマーブル模様のように混ざり切っていないはずなのに、そこがいい。

「おいしいです!とても。こんな味、初めて食べました!」

私は無意識にマスターに感謝を述べていた。

「それは、作り手としてもこの上ない喜びです。そちらの星のオーロラはとても魅力的な味をしていて。本当に作っていて楽しかったですよ。」とマスターは笑みを浮かばしていた。


「オーロラの味?あー、オーロラの層のような味。ってことですか?」

「いえ、オーロラの味ですが」

その言葉を聞いた瞬間。理解が追い付かなかった。

「その中のスポンジは、地球のオーロラを特別な方法で束ねて押し込んで、スポンジにしているんです。」

訳が分からない。オーロラはそもそも粒子からなる。それを集めるなんて。到底できるようなことじゃない。

でもここまで、不可解なことが起きているんだ。きっと本当に特別なことで自分はオーロラを食べているんだな。そうだよきっと。

私はもう考えることも、疑うこともやめて。目の前にある景色をゆっくりと味わうことにした。























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