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8口目 闇鍋マンドラゴラ薬


「ノルンさーん、ご飯できました」


ふふん、今回のご飯は特にすごく上出来だ

ノルンさんは今のところ好き嫌いなさそうだし、どんな反応してくれるか楽しみだ





「とても甘い香りがしますね」


「さっきの薬の改良品の匂いです、では……」


ノルンさんが席についたので私は料理をお皿に置いていく

今日のご飯は3種類だ


「いただきます!」



「では…まず薬から味見しましょう」


「はい!こちらです!」


私は瓶に入れた薬を出した


「作り方は同じなんですが、入れる材料を少し入れ替えてみました。これをパンに塗って……」


私はバターナイフで切ったパンに薬を塗る


「どうぞ!マンドラゴラのジャムです!」


「ジャム…?この薬が?」


ノルンさんは半信半疑のようだが甘い匂いに釣られたのかパンを受け取り結構大きめに齧り付いた


「………!」


「どうですか?」


「すごく、美味しいです……!ここまで変わるなんて……それに、効能も落ちるどころか、上がっていませんか?」


「え?そうなんですか?」


やっぱり代用品だと何か変わってしまうのかな?


「どうやって作ったのですか?」


「ええと、マンドラゴラを細かく刻むのと、カイリュ液をリースと変えて…あと、砂糖を加えました。それ以外はノルンさんのレシピ通りに作りました」


闇鍋薬を食べた時、途中で入れたどぎつい匂いを放つ喉や鼻に良いとされる液体(カイリュ液)、あれをレモンに変え甘くしたらジャムの作り方になるんじゃないかと気がついた

地下室でステータスを確認してみたがレモンには薬として代用できるような効能は無かったので同じ効能がある酸っぱめの液体を入れてみたけれど……


「……被検をしなければなりませんが、誤差くらいなので問題ないと思います。それにしても……マンドラゴラをこんな風に食べれるなんて…」


ステータスで調べたら、マンドラゴラはこの世界では漢方薬として使われることが多く大抵が粉末状で摂取するらしい


「私の祖母がよくマンドラゴラに似た野菜で作ってくれたんです……なので私が考えたって訳じゃないんですけど、美味しく食べてもらえて嬉しいです」


おばあちゃんがよく作ってくれたのは茄子の料理だ。茄子は昔から好きになれなくて濃く味付けされいるものでも嫌いだった私だったが、おばあちゃん特製の茄子のジャムは美味しく食べれた。

もう10年以上は食べてなかったが、マンドラゴラを味見した時の茄子っぽい味のおかげで思い出すことができた。

正確には茄子と大根の間くらいでほんのりごぼうっぽい味がする…気がする

この世界でマンドラゴラを料理に使うことはあまりないらしいけど、たくさん応用が利きそうな野菜だ


作り方を教わったことは無かったけれど、案外記憶に残ってるもんなんだなあ


「……てことは、この薬の改良は成功、という…?」


「そうですね、世代問わず食べやすい味ですし、前より服用者が増えそうですね。ありがとうございます」


ノルンさんは柔らかく笑った後、パチンと指を鳴らした

すると机にスイカくらいの大きさの麻袋が出てきた


……もう急に魔法を使われたって驚かないぞ


「これは?」


「今回の報酬です」


「………?」


ほ、報酬……?家に住まわせてもらうことが報酬じゃないの…?

家人から居候へのただお願いを聞いただけのつもりだったんだけど……


恐る恐る袋を開けると、中には金色の硬貨がずっしりと入っていた

目がチカチカする


「これくらいあれば君も……」


「う、受け取れません!」


「えっ、何故ですか?正当な報酬ですよ」


ノルンさんはきょとんとした顔をしているが、知らない硬貨でもこんなのとんでもない大金なのは分かる

……いや、よく見たらゲーム内の硬貨と同じ…?


「私、ここに置いてもらえてるだけで充分ですし……ただ料理しただけです!こ、こんなに…」


マジホリでは金貨、銀貨、銅貨が存在していた

1金貨は10000、1銀貨は1000、1銅貨が500…と日本人には分かりやすい額のもので、地域ごとに物価価値は所々おかしかったが……

この袋はどう見ても数十枚…いや百枚以上入っていてもおかしくない。ジャム作っただけでこんな大金、受け取れるわけ無いって!


「……では、君はあまり僕について知らないようですから、この際はっきりとお伝えしておきましょう」


「へ?」


「僕はこの国、サクラサク王国の皇族であり、最高魔導士です」


「…………は」


「なので、僕の作る薬というものは非常に価値があり、たとえそれがどんなに酷い出来だとしても民はそれに縋るんです」


「………???」


「貴女のおかげで、今まで僕の薬を服用したいと自分に無理を聞かせていた者たちへ少しでも負担を減らすことが出来たのです」


「……ま、まって」


「ですから、貴女には報酬を…」


「ま、待って下さい!!!」


「はい?」


「こっこここ皇族って、こ、こ、皇族って!?」


「はい、太陽の神メルンと月の神ノエルの子孫で、今の皇族は僕一人だけです」


「………………少し、頭を整理しても…?」


「どうぞ、僕はパンを食べていますね」



………………………………


………………………………


…………………………!?


こ、皇族って何!?!?

皇族って、えっ?めちゃめちゃ、高貴な人ってこと…?

顔立ちだけじゃなくて所作も綺麗な人だと思っていた、けど………

私めちゃめちゃ高貴な人に怪我治してもらって、居候して、ご飯食べさせてたってこと…?

……不敬罪で処されない…?私……


いいや、それよりも気にしなければいけないことがある


ここでおさらいするが、マジホリの世界には『魔王』という存在がいた

バトルではいかにもな怪物!モンスター!というビジュアルで、会話は無くひたすら闇魔法を放ってくる、キャラクター名もただの『魔王』で正直特に思い入れのない敵キャラだった。

しかし、そんな詳細の分からない魔王でも1つだけバックボーンのような要素があった


『魔王が出現したと同時に結界を張るはずの皇族が消息を絶った』

『そのお方が魔王に成った者なのではないか』


これはNPCが言っていた何気ない会話の一節で、当初、魔王はその皇族なのではと言われていた

界隈では魔王が攻略キャラとして実装されるのではと騒がれたが魔王討伐後のストーリーにも魔王の面影は出ること無かった


ノルンさんは言った、『今の皇族は僕1人』だけ、と………


それってつまり、そういうこと?


ノルンさんは、皇族として国の結界を張る役目をしていて、行方不明になって…?

そしてもしかして魔王になる人……ってこと?


それって、ヤバくない?


………いやいや、私がいるのはマジホリとほぼ同じ世界だけれど、時間軸とか分からないし……たぶん何世代か違う可能性だって……うん、うん………。


「……ノルンさん」


「はい」


ノルンさんは2枚目のパンを手に取ろうとしていた


「私……ここにいて、いいんでしょうか…」


「……この報酬を受け取ってくれるなら、君が大人になるまでは生活に困ることは無いでしょう」


「いえ、そうじゃなく…皇族ってすごい、高貴な方なんですよね…?私、ふ、不敬罪とか…」


「…そんな事を気にする俗物ならば、わざわざ森の中で暮らしていません。君にはもう無理に出てけとは言いませんし、礼儀を教えるために身分を明かしたわけではありませんよ」


「…?」


「君は、まだ子供です。そして、僕は偉いです」


「は、はい」


「僕には民を護り導く義務があります、この報酬は、これから君の今後に役立つ大事な資金の一部です。ここを出るにしても出ないにしても、頼れる人がいない君には大事なものになるはずです。なので、受け取ってください。」


確かにこの世界では今のところノルンさんしか信用できる人がいないし、ノルンさんにだっていつ見限られるか分からないし……

生きていくにはお金が必要だ。日本なら金欠になってもバイトですぐ稼げるが、この世界でそう行くとは限らない


ノルンさん……

つまり私は………

………これからはお金にがめつくいった方が良いってことですね!



「分かりました、受け取ります!」


麻袋を手に取ると、ずっしり重かったがなんとか持ち上げた


「ありがとうございます!これからも頑張ります!」


「はい、期待しています」


ノルンさんがふっと笑った。

この笑顔だけでたぶん美術館が増える


ノルンさんは2枚目のパンを食べ終わった様子で、なんと3枚目にまで手を出そうとしていた



「ちょ、ちょっとまってください!3枚目もいくんですか」


「え……だって、美味しかったので……」


笑顔だったノルンさんが若干しゅんとしてしまった


「食べるのは良いですけど、まだ薬の味見をしただけで、ご飯食べてませんよ?」


「……そうでした、では、残りは明日の朝にでも食べます」


この人、結構食いしん坊だよなあ

まあ成人男性(?)の食欲を私の基準で考えちゃだめだよね、もっと腹持ちの良さとかも考えたほうが良いのかも?




「どうぞ、マンドラゴラを使ったシチューと、ジュースです」


「マンドラゴラづくしですね」



シチューをルーから作ったのは初めてだったけど、意外といけるものなんだなあ

牛乳とかは流石に無かったので、代用品のなんちゃってシチューだけど


「シチューは分かりますが、マンドラゴラのジュースですか」


「ジャムを作ったのと似た要領で作ってみました。果実を入れてすっきりしているので濃いめのシチューと相性良いと思います」


色は、闇鍋薬を水に溶かしたような…あまり食欲を唆る見た目ではないが味はリンゴを入れた青汁のような感じでこれが結構美味しい。私、店出せるかも。


「マンドラゴラって奥が深いんですね、薬にもおかずにも甘いものにもできるなんて」


「……ふ」


「?ノルンさん?お口に合いませんでしたか?」


「…ふ、ふふっ、あははっ」


「えっ」


ノルンさんが口に手をあてたと思ったら急に笑い出した


「す、すみません…マンドラゴラをこんなに美味しいさせる人なんて、見たこと無かったので……」


……薬用の素材をご飯に使いまくったのがツボったのかな

まあ確かに、漢方薬をご飯に使いました!なんてしないもんな…それで美味しいのも…


「ふっ、ふふ、とても美味しいです、っふ」


「…良かったです!」


まあ、美味しかったなら別にいっか

こう見ると、良い意味でノルンさんって高貴な人に見えないなあ

…これからもこうやって過ごせるのかな。


……あれ、そういえば、なんか途中で無理に出てけとは言わないみたいなこと言ってなかった?

…私、ここにいて良いってこと…!?


「……へへ」


自然と口角が上がっていく


「ふふっ…ふ…ふふ……」


「へへ…えへへ……」


やっぱり、人と食べるご飯は美味しい!

明日からも、やれることを頑張ろう


……魔王とかの事は、あとで考えよう!後で!


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