5口目 ステータス、オープン!
「おはようございます」
「……おはよう、ございます……君は朝から元気だね……」
私の名前は好本依吹。ある日事故に遭ったと思ったらゲームの世界に転生(?)していました。行く当てがないので助けて頂いたノルンさんの元で居座り、もとい住み込みで家事の手伝いをしています。
「カーテン開けますよ?」
リビングの床で寝っ転がっていたノルンさんが悲鳴を上げた。
「うわぁぁ……やめてぇ……まぶしい……うう…」
住み込みで家事をやり始めてから色々発見があった。
まず、ノルンさんはめちゃくちゃ自堕落な人だった。治療とご飯の時は必ず部屋に来てくれていたのでしっかりした人だと思っていたが……朝から晩までよく分からない研究三昧、いつ寝ているのか分からない……。
綺麗だったのは私がいた部屋だけだったようで廊下は床のあちこちにガラス瓶やら本が落ちており極めつけはリビング……もはやゴミ屋敷状態だった。
『ノルンさん……この部屋は……物置とか……?』
『……リビングです』
私は半日かけてなんとか歩けるくらいまで掃除をした
なにを研究しているのかは教えてくれなかったが仕事で必要な実験をしているらしい。それなら仕方ない……が、それと部屋を散らかしたままなのは別問題だ。
家事を初めて数日経つが片付けてもまた新しい研究を始めるので床にはいつも物が転がっている。あと、寝ているノルンさんも落ちている。自分の部屋まで戻るのが面倒らしい
「朝ごはん、食べれそうなら起きてください」
「うぅん……」
療養中食べていた甘すぎる栄養スープはノルンさんが作ったものだった。これからは私が食事を作るということでいろいろ必要な薬草などを教えてもらいこの世界に来て初めてまともな普通の料理をした。
普通と言っても日本で使うような食材は1つもなく近いものをそれっぽく作った新しい料理なのだが……。
「今日の朝ごはんは何…ですか…?」
「今日は玉子の料理です」
この家にはあまり食材がなかった……というよりどれがどんな味のものなのか区別がつかなかった。
しかし不思議なことに調味料は日本と同じものが多かった、塩、コショウ、砂糖……種類は少ないがノルンさんに聞くと名称は同じだった。元は日本が作ったゲームの世界だからそういう設定はゆるいのだろうか…?
そういえばゲームには調理実習のミニゲームがあった、よく分からない果物や野菜を使うのに調理器具や調味料は日本っぽくてネタにされてたっけ……
「いただきます」
「いただきます…」
……う〜ん、我ながら完璧な焼き具合。
卵は焼くのも楽しいし食べても美味しいから好きだ、まあ、これが何の卵なのか分からないけど……。『リュースの卵』と言われたがリュースがよく分からなかった。青くて大きな鳥らしいが……まあ味はおいしいので気にしない
「ん……これ……ビジットの葉…?しゃりしゃりしてる……」
「はい、お口に合いましたか?」
「うん……美味しい……」
寝ぼけ眼でもしゃもしゃと食べるノルンさんと初対面で息を呑むほど美しかったノルンさんが同一人物だとは……目の前にしても信じられない
私の見た目が女児だからなのか、ノルンさんはこの数日でだいぶ心を開いてくれた、というかボロが隠せなくなっていた。
ザクザクと大きいパンを切っているとノルンさんは「あ、そうだ……」と呟いてこちらを見た
「…これ食べたら街に行きます…君も来ますか…?」
「街、ですか?」
街かぁ……正直用事がなければ半年引き込もれる私は別に外に出たい願望とかはないからなぁ……
「いえ、留守番してます。掃除して待ってますね」
ノルンさんは「そっかぁ」と言うと立ち上がり最後の卵焼きを頬張り自分の部屋へ戻っていった。
私もパンを食べきりノルンさんの分も食器を片付け掃除の準備を始める。
「そろそろ出ます。何もないと思いますが、一応ドアは閉めておいてください」
部屋から出てきたノルンさんは寝起きとは打って変わりいつものシャキッとした美人なノルンさんに戻っていた
1つ違ったのは、王子様みたいな格好をしていた。
「…ん?顔赤いですけど、体調良くないですか?」
「その…すごい綺麗だったので……びっくりしました」
「…?ああ、少し堅苦しい場に行くので正装したんです。」
白に金色と紫で刺繍されたいかにも高級そうな生地の服。上から大きなローブを羽織っているがそれも真っ白でノルンさんの黄緑色の髪もあって天使だと言われても疑わないような綺麗さだった。
「では、夕方くらいに帰ってくるのでお昼は1人で済ませてください」
「分かりました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」
ノルンさんがぽかんとした
あれ?何か変なこと言ったかな?
「……い、いって、きます」
ノルンさんが扉を閉めると鍵穴がないドアからガチャリと施錠音が聞こえた。外側に鍵が付いているのだろうか?
「……はあ……すごい綺麗だった……あんなのお金払って見るべきだよ……」
私は温まった頬をぺちぺちと叩き気を引き締める
「よし!ノルンさんが帰ってくるまでにご飯の用意しとこう!」
……でも、ノルンさん、よく私に留守番許したなあ
私を拾ってきてもう1ヶ月くらい経つとは言え……手伝いをし始めたのは数日前だ。そんな子供を自分の家に1人きりにする…?普通……
私が土下座で押し切った時も思ったけど、なんかノルンさんって騙されやすそうな人だよなあ……優しいんだろうけど
私は台所から地下に繋がる保管庫へ降りた。
今日の食材もここから貰ったものだ。一見廃れているように見えるが長い時間が経っても腐りにくい食材ばかり貯蓄しているらしく、種類の見分けはつかなくとも腐敗の心配がないのは安心だ
「食材は自由に使っていいって言われたし……味の把握用に味見しつくしちゃおう」
しかし……人並みに料理はできるが材料に詳しい訳では無い、そもそもそれぞれの名称が分からないしこの数を覚えるのは無理がある
うーん……ゲームの中だと説明あったしなぁ……なんかそれっぽい呪文唱えたら見えないかな?
私は両手を大きく広げ詠唱した
「……ステータスオープン!……なんちゃっ……は!?」
『ステータスオープン』と言った瞬間目の前に無数のパネルが現れた
『ビジット』『クーケランの角』『ショシュダーエルの皮』……パネルに書かれていたのはそれぞれの食材の名前のようだった
「え……何これ、マジでゲームじゃん……」
襲ってきた男達が使っていた白い光る円陣、あれを見た時からゲームと同様の魔法があるのかもしれないとは思っていたが説明パネルが普通に見れるなんて……
私魔法使えるってこと!?いや…ゲームの世界って分かってるから見えるとか…?いや誰でも見れるものなのかな………じゃあ……それなら……
私は自分の体に手を当てた
「す、ステータスオープン!」
今度は顔の近くに別のパネルが出てきた
「うわっ近っまぶしい!」
やけに眩しいそのパネルはゲームでいつも見ていたキャラクターのステータス画面とそっくりで、1つ違うとするならばそこには私の名前が書かれてあった
「うわ、本当に出た……なになに……好本依吹……属性が水、火、地、風、空、聖……闇………んんん?」
私が知る『マジホリ』では主人公は聖属性持ちだった。属性とは魔法の種類のことで、火、水、地、風、空の五大元素、そして聖、闇が存在する。聖属性持ちが少ないサクラサク王国は主人公を逃すまいと学園に入学させるのだ。
主人公は聖属性以外はからっきしでそれを補うために攻略対象もといパーティメンバーと共にバトルをする……というシステムなのだが……
……このパネルが私のこの体のステータスだとしたら、主人公よりも強いということになる
聖属性は遺伝しない、突然変異の属性だ。
サクラサク王国は国民の中から神託を使って聖属性持ちを見つけ強制的に奉公させるやり方で数百年の歴史を紡いできたらしい。
聖属性は見つかったらブラック就職確定の超珍しいレア人種、というだけなのだが……問題は『闇』属性だ
闇属性は主人公はおろか攻略対象にも持っているものはいなかった。魔王とその配下達のステータスに乗っていた気がするが魔王は討伐対象であり仲間にすることは出来なかったので使ったことがない
聖属性と闇属性はお互いにとって弱点で闇属性を極めた存在である魔王は聖属性持ちの主人公でしか倒せない……
サクラサク王国は闇属性を持つ敵の総称を『魔物』としていた。闇属性持ちは全員魔物……
私、なんで聖属性と闇属性を一緒に持ってるの!?
ていうか聖属性持ちなんてゲームでも主人公以外いなかったのに!
そもそも五大元素の方もなんで全部揃って持ってるの私!?
「…………………………と……とりあえず今は、食材の確認しよう。うん。」
私は深く考えるのをやめた。
「よいしょっと……えっ!もう夕方!?」
食材を抱え地下室から上がると窓から見える空はオレンジ色になっていた。どうやらかなりの時間地下に籠もっていたらしい
「ノルンさんが帰ってきちゃう!早く作らなきゃ!」
食材のステータスが見れるようになったのは大きかった、何故なら私が知っている食材と似ているものは代用可能と表示されていたのだ!
肉や魚などの生物は無かったがそれ以外はかなり充実していることが分かった。ノルンさんはあんな甘い料理を作っていたけれど食に興味がない訳では無いようだ
「よーし!久しぶりにアレ、作っちゃうぞ!」
お菓子作りまで行きませんでした
次からご飯出る