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議決

書き溜めて多分はまだまだあるので結構一気に行きます!

 ――時は少し遡る。


 高天井の議事堂に、陽光がステンドグラス越しに射し込んでいた。

 淡い光の帯が床をなぞり、まるで境界のように議員たちを分け隔てている。


 ここは、アーヴェリス王都アーヴェリス

 五大貴族と有力ギルド、聖職会議、都市代表が合同で国政を担う《統合評議会》。

 今日の議題は――地球との()()()条約であった。


「――我らが“地球”なる異界と、どこまで関わるつもりかという話だ」


 白髭を湛えた初老の男が立ち上がる。

 ロドリグ=ダル・エンデ侯爵。保守派の長老にして、伝統と血統を何より重んずる男だ。


「魔王軍の侵攻は鎮まりつつあるとはいえ、我らの民はこの異端の文明に毒されつつある。魔法を使わぬ治癒。呪文を知らずに動く金属の塊。神をも嘲る政治思想。挙げ句の果てには、地球語を学ぶ子どもまで出てきた。これを堕落と言わずして何と言う!」


「堕落、ですか?」


 澄んだ声が、議場を切り裂いた。

 黄金の髪を揺らし、若き令嬢が立つ。

 イリア=ヴェル=オルディア。

 五大貴族の一角にして、都市派・ギルド派を代表する革新の旗手。


「もし堕落とは“生き延びる術を学ぶこと”を指すのならば、私は喜んで堕落しましょう」


 議場がざわめく。

 だが、彼女は微笑んだまま、受け流す。

「魔王軍との戦争で、地球側は本来の“世界の形”を失いました。海は海魔に閉ざされ、地上も魔物が跋扈し、交易の鎖は千切れた。彼らは技術を惜しまず輸出しています――兵器も、機械も、知識も。見返りに欲しているのは、食料と資源と魔法です」


 議員たちの間にどよめきが走る。

 老貴族の一人が叫ぶ。

「つまり、奴らは我らを“採掘地”と見なしているというのか!」


「違います」

 イリアの声は凛としていた。

「彼らは必死なのです。戦争を続けるために。そして――我らもまた、同じです」


 そこへ、商人ギルドを束ねる壮年の男が立ち上がった。

 銀糸の襟飾りが光を弾く。

「確かに。低位の魔物に対しては、地球製の火器が絶対的な制圧力を持つ。誰にでも扱え、命を削る魔力も不要。王国軍の若者が一夜で銃兵になり、一人でゴブリンの巣を制圧する――そんな時代が来る」


「神聖なる戦いを、ただの鉄で置き換えるつもりか!」

 ロドリグ侯が机を叩く。


「鉄ではなく、“現実”です」

 ギルド長は微笑んだ。

「現実こそが、神より強い時もある」


 イリアは静かに周囲を見渡した。

 議員たちの表情は半分が恐怖で、半分が渇望だった。

 人は未知を拒みながら、同時にそれを求める。


「私たちは、地球との交易を拒むことはできません。むしろ、積極的に門戸を開くべきです。異界の技術を取り込み、共に戦線を築く。それが――生き残る唯一の道です」


「だが、彼らは異界の兵器を与える代わりに、我らの魔導技術を奪う気だ!」

 聖職者の一人が怒声を浴びせる。しかし、イリアは動じない。


「いいえ」

 イリアは一歩前へ出た。

 ステンドグラスの光が彼女の背を照らし、影が議場の床を走る。


「奪うのではなく、混ざり合うのです。火薬と魔素、鉄と呪文――それを融合できる文明だけが、次の時代を作る」


 議場が再びざわめいた。

 守旧派が声を上げ、革新派が呼応する。

 鐘が鳴る。投票の時だ。


 イリアは胸の前に一枚の書状を掲げた。

 地球側からの提案――《境界前哨基地》への正式な代表派遣要請。

 異世界側から魔導師・外交官・技術者の派遣を求めるもの。


「この書状を受け入れれば、我らは変わる。魔王軍との戦いの“共同参戦者”ではなく、“同盟”になる……それも密接な。――そして、それはもう後戻りできない変化です」


 議場を包む沈黙。

 老書記官が小声で囁いた。

「……言葉が、時代を動かしますぞ、イリア様」


「ええ。けれど――動かせなければ、時代に殺されるだけです」


 鐘が再び鳴り響く。

 投票の槌が降りる音が、王都の空に鈍く響いた。

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