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出発

一章終わりです

 そして、出発の日が来た。


 病院のロビーに、黒塗りの軍用バンが停まっていた。

 ドアには国防軍の紋章。そしてそのすぐ下には、怪しく光る魔導式警戒装置のシンボルが刻まれている。

 これまで散々見てきたが、魔法だのファンタジーだと思っていたものが日常に組み込まれているのを目の当たりにすると改めて衝撃を受ける。


「じゃ、いってきまーす!」


 美月が、軽く手を挙げて病院スタッフに笑顔を向ける。

 その明るさが、妙に浮いているように感じた。


 ユウはリュックを肩にかけたまま、足元をちらと見た。

 この数日で自分に起きたこと――そして今から向かう場所のことを、まだ現実として完全には呑み込めていなかった。


「お兄ちゃん、早く早く」

「……わかってるよ」


 バンの中は思ったよりも静かだった。

 運転手は無言。助手席には、防弾ベスト姿の護衛兵。しっかりと魔防具? のようなものもつけている。

 そして後部座席の二人は、制服のまま、窓の外をじっと見つめていた。


 要塞都市を出て、山間の道をしばらく走る。

「あの日」以来街から出たのは初めてだ。

 舗装が追いついていない道路、廃墟、放置された車列。

 それらを無視するように車は進んでいく。


 車内で聞いた話によると、異世界融合地点に近いこの地域には、既にいくつかの“前哨基地”が建設されているらしい。

 そのひとつが、これから自分たちが向かう場所だった。

 正式名称は長ったらしくて覚えていないが、最大の規模の基地らしい。

 だが、美月は「境界前哨基地! かっこよくない?」とノリノリだった。


「ほんとに、お前ワクワクしてるんだな、あいかわらず能天気でなにより」


「だってさあ……魔法の訓練とか、異世界の教官とか、絶対おもしろいって! あと一言余計!」


「いや、それで済めばいいけどな……」


 ユウはため息をついたが、その胸の奥にも、確かに同じ“何か”があった。

 怖さと、不安と、そして……ほんの少しの期待。それを否定はできなかった。


 山を抜け、警戒ゲートを通り過ぎる。


 やがて前方に、金属と魔術で編まれた巨大な門が見えてきた。

 単なる軍事基地のゲートではない。なにか呪文のようなものが刻まれたゲート。

 ここが、単なる軍事基地ではないことを嫌でも理解させられた。

 そこには、異世界からやってきた教官たちの姿もあるという。


 緊張感が、否応なく高まる。


 バンが減速し、門の前で止まった。

 兵士がこちらに歩いてくる。手にはリスト端末。確認作業。


「神名ユウ、神名美月。仮登録確認。通行を許可する」


 重い鉄と魔術の結界が動き出す。音が、世界の空気を切り裂いた。

 ユウは深く息を吸った。

 隣で、美月がにっこり笑っている。

 そして、車は――門の向こうへと、進んだ。


 その瞬間、彼の“日常”は、音を立てて崩れていった。


 ──第一章 了──

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