夢の資源
「――正直、もう石油じゃ持ちません」
開口一番、資源課長の言葉だった。
部屋にいた誰も、驚かなかった。
驚く余裕が、もうなかった。
「そりゃあそうだろ。シーレーンが死んでる。北太平洋ルートは、昨日また海魔に喰われた。燃料タンカーごとだ」
防衛技術顧問が淡々と書類をめくる。
指先に油汚れ――いや、魔導炉の煤が残っている。
「他国からの“対価資源”も足りませんね」
若い分析官がタブレットを見ながら口を開いた。
「輸入契約は形だけです。現物は、港に届く前に沈む」
「……それで、例の“火炎魔法発電”の進捗は?」
「順調ですよ。理屈は無茶ですが」
答えたのは、白衣のまま呼ばれた研究官。
寝癖のままコーヒーを啜っている。
「魔導適性者を発電炉に接続して、熱量を抽出する方式。本人たちは“詠唱してるだけ”で、都市ひとつ分の電力が出ます」
「本人たちの体調は?」
「だいたい三日で寝込みますね。精神疲労がすごい。でも、石油よりは安定してますよ」
会議室が静まる。
誰も笑えなかった。
「……結局、“人力発電”じゃないか」
防衛顧問が呟く。
「違います、“信仰発電”です」
研究官が、さらりと返した。
誰もツッコまなかった。
「エーテル機関の方は?」
「出力は申し分ないが、触媒が異世界産。錬金術師がいないと効率が半分以下に落ちます」
「あいつら、理論書読んでくれないんだよな……」
「代わりに詩を書きますけどね」
会議室に乾いた笑い。
窓の外、霞がかった都市を横切るのは、黒い煙柱。
火炎魔法発電所が稼働を始めた合図だ。
「皮肉だな」
資源課長がぼそりと呟く。
「科学の国が、魔法に生かされてる」
「でも、それで子どもたちの電灯が点くなら、いいじゃないですか」
分析官が静かに言った。
「“火”の意味が変わっただけです」
「……そうかもしれんな」
課長は目を閉じた。
「火を盗んだのは昔の神話だが、火を再発明したのは――俺たちか」
誰も返事をしなかった。
ただ机の上の魔導灯が、淡く光をゆらめかせていた。
その灯りの下で、議事録だけが静かに記録を続けていた。




