夜の女子会
夜の訓練所は静かだった。
外では夜間警備の照明が淡く瞬き、虫の声さえも遠い。
女子寮の一室。
カーテンを閉め、机を囲んで4人が座っていた。
湯気の立つマグカップからは、支給品のハーブティーとココアの香り。
大掛かりな魔術よりも、こういう時間のほうが心も癒える。
「でさー! マジで今日、足まだ震えてるんだけど!」
最初に騒ぎ出したのは莉音だ。
毛布をマントみたいに被りながら、両足をさすっている。
「射撃の前にまず“筋肉痛にならない魔法”教えてくれって感じ!」
「莉音ちゃん、あなた途中で“もう帰る”って言ってませんでしたっけ?」
美咲がくすくす笑いながら言う。
「言った! でも帰れなかった! 地獄!」
「まあ、帰れたら訓練じゃないしね~」
美月が肩をすくめながら、スプーンでココアを混ぜる。
「そういえば、美月ちゃんの班って戦闘班と一緒のとこでしょ?」
「うん。兄ちゃんがね、今日ちょっとすごいことしたんだよ」
「すごいこと?」
「なんか……撃つ前に当てた」
「え? なにそれバグ?」
莉音がマグカップを落としそうになる。
美月は肩をすくめて、湯気を見つめた。
「“因果が逆転した”とかエリュナ先生が言ってたけど、本人は“わからない”って。ほんと謎」
しずくが静かに紅茶を口にした。
「……神名くん、やっぱりおもしろい」
その声音はいつも通り淡々としている。
だが、一瞬だけ、彼女の目が遠くを見るように揺れた。
「時守さん、知り合いなんですよね?」
美咲が訊く。
「同じクラスでした。……いいえ、大親友でいつも一緒にワルしてました」
「ええ!? ユウさんってそういう人だったんだ……」
「嘘です」
にこりともせず、しずくは紅茶を置いた。
美月が小さく息をつく。
「この人、ほんと掴み所がないなぁ……」
「はいはい、難しい話は終わり!」
莉音が両手をパンと叩く。
「せっかくの自由時間なんだから、ガールズトークしようよ!」
「……また始まった」
「いいじゃん! じゃあ質問! みんな、好きなタイプ!」
「えっ!? い、いきなり!?」
美咲の顔が真っ赤になる。
「わたしはねー、優しくて背が高くて筋肉あって~」
「めっちゃ具体的だな!」
美月が吹き出す。
「でも、あんたの好みわかりやすいわ。鷹真くんでしょ?」
「なっ……!?」
「声のトーンが1オクターブ上がった、でも正解は教官ですね」
しずくの分析が即答で刺さる。
「うわー! 適当すぎる!」
「……私は、話していて静かな人がいいです」
美咲が小さく呟く。
「そ、それって直人!? ま、まさかの理論派カップル!?」
莉音が目を輝かせる。
「わ、違いますってば!」
「じゃあ、しずくさんは?」
全員の視線が一斉に集まる。
彼女は少し考えてから、紅茶の表面を見つめた。
「――“ユウくんみたいな人”」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ揺れた。
ほんの一瞬の静寂。
でも、莉音がすぐに明るく笑う。
「えっなにそれ! ユウくんではないってこと!? そういうのズルくない!?」
笑い声が広がる。
窓の外では、警戒灯が夜霧に滲んでいた。
明日になればまた地獄の訓練が待っている。
それでも――この一瞬だけは、彼女たちはただの少女でいられた。




