変わってしまった、変わらない日常
「ねえ見て見て! リアルエルフ写真集、初版でもうプレミアついてるんだけど!」
制服姿の少女・うきが、スマホを友人のまひるに突きつけた。
放課後の駅前カフェ。
制服の学生、ノートパソコンを広げたフリーランス、翻訳イヤホンで会話する異世界観光客。
混ざり合った言葉と音が、ガラス越しの夕焼けに溶けていた。
「えー、また買ったの? 何冊目?」
「毎月新刊出るんだもん! ほら見て、この耳の角度……尊すぎない?」
「もうエルフと結婚しなよ。てか最近、異世界農産スムージーばっか飲んでない?」
まひるは得意げにカップを掲げた。
紫がかった液体が光を弾く。
「だって美味しいんだもん。あのぶどうっぽいの? 糖度二十超えだよ!」
「それ糖尿の向こう側だよ」
二人は笑いながらメニューを眺める。
翻訳端末付きのタブレットには、《異世界語/日本語》が交互に表示され、カフェでは最近、異世界産のハーブティーや香辛料スイーツが人気だ。
「てか、異世界流占いって知ってる? 水晶に魔素通して見るやつ」
「うん、クラスの子がやってた。めっちゃ当たるらしいよ」
「魔素って便利すぎない? 国家機密とかにならないの?」
「なる前に民間に流れるのがこの国だよ、すごいよね」
まどかの冗談に、まひるがふふっと吹き出した。
「てか今、語学留学より“異世界留学”の方が人気らしいよ? 魔法使えると就職強いって。いっそ私達も習っとく?」
「いいね~、ふたりで魔法少女、なっちゃおうか」
笑いながらも、二人の視線が店の外へ向かう。
通りを、無音の警備ドローンが滑るように横切っていった。
その背後には、軽装アーマーをまとった警備隊員。腰には魔導警棒とSMG。
「……なんかさ、最近ちょっと物騒じゃない?」
「うん。学校でも“避難訓練”じゃなくて、“襲撃想定訓練”って言うようになった」
「でも、ここは大都市だし、でかい壁あるし。大丈夫でしょ」
根拠のない楽観。
でも、それが現実をやり過ごす唯一の防壁でもあった。
異世界とつながった地球。
少しずつ、“非日常”が“日常”になっていく。
メニューには「エルフ直伝レシピ! ハーブティー」「アーヴェリス直送ハチミツ」の文字。
通貨換算表の下には、小さく書かれた注意書き。
※一部商品に魔素反応物質を含みます。非適性者は摂取を控えてください。
そんな世界でも、放課後のカフェは相変わらずだった。
「ねえ、今夜テレビで“異世界レシピ特集”やるんだって」
「見る! 絶対見る!」
世界が変わっても、彼女たちの放課後はまだ続いていた。
――けれど、その空の続く下では、たしかに魔王軍と人類が戦っているのだ。




