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プロローグ

一年ぶりの投稿です。

前のシリーズの記憶なくなったので新シリーズです。

ミリタリー×異世界が書きたくて始めました。

 

 《境界消失日》


 その日、日本列島の北端が世界から消えた――

 最初の異常は、宗谷地方に設置された監視レーダーの沈黙だった。

 緊急の通報が入ったのは、午前四時一八分。

 北方総軍・第七方面通信司令部は、複数のルートを通じて再接続を試みたが、すべてが失敗に終わった。

 衛星通信も繋がらず、上空の可視衛星は、"地形の変化"らしき現象を記録していた。


 ――地形そのものが、変わっている?


 だが、それは隕石落下でも地震でもなかった。

 地面は崩れず、建造物の影だけが消えていた。

 線が引かれたように、ある区間から向こうが見えない。

 映像は、まるで一枚の絵のように――“止まっていた”。


 政府より先に異常を捉えたのは、海外のOSINT(公開情報分析)コミュニティだった。

 SNSに流出した衛星画像と、海上レーダーの遮断ログを突き合わせ、彼らは「宗谷に何かが起きている」と結論づけた。

 国内でも、投資家や軍事ジャーナリストを中心に情報が広がり始めた。


 一方、四時三五分。首相官邸地下でNSCが招集された。

 机上には、北海道北部に関するすべての映像、通信ログ、現地司令部の配置図が並んでいた。

 しかし、北部とのすべての連絡が断たれていることは明白だった。

 官邸の空気は凍っていた。


「……まさか、“あの”国が動いたか?」

 誰かが呟いた。


 防衛相は即座に否定した。

 かの世界最大の国とのホットラインは維持されており、逆に向こうからの連絡が先だった。「そちらではない。我々も、あの現象に巻き込まれている」


 世界各国の軍事衛星が“あの空白”を観測していた。

 重力、磁場、星の位置――すべてが、そこだけ"ずれて"いた。


 ※


 ――同時刻。宗谷駐屯地。


「本部、こちら宗谷駐屯地……応答せよ。……クソ、ダメだ」

 無線の周波を変えるたび、雑音が不規則に耳を刺す。

 仲間の一人が窓から外を見て、呟いた。

「……あれ、太陽の位置、おかしくねえか?」


 地平線の向こうに、ありえない建築物が見えた。

 尖塔の群れ。明滅する、見慣れぬ光の灯り。

「こっちが……侵食されてる?」


 ※


 ――朝、都内。ニュース番組。


「臨時ニュースです。北海道の一部地域にて、大規模な通信障害が――」


 食卓で朝食をつまむ家族。息子はスマホをいじりながら聞き流す。

「また演習じゃね? 北って毎年やってるし」


 しかしその日の夕方、スーパーの棚からは保存食を中心にありとあらゆるものがごっそり消えていた。

 張り紙には「誤情報による買い占め防止にご協力を」。

 しかし、誰も信じてはいなかった。


 ※

 SNSにて


 【#裂け目 #異世界 #コラ画像乙】

 【お前らマジで信じてんの?w】

 【稚内消失マ?今月のラノベの新刊かよ】


 画面に流れる映像。

「えっこれ、リアル? これマジなら終わりじゃん」

 ※


 ――北海道南部某所。郊外の住宅地。


 空が、おかしい。

 青く澄んでいるはずの朝の空に、ほのかな“ひび”のようなものが走っている。


「……なあ、美月。あれ……見える?」

 彼の妹――美月と呼ばれた少女はのんきに答える。

「んー? それより遅刻だよ、ち、こ、く!」

 兄である少年は、これが何かの始まりなんじゃないかと、ほのかに感じていた。

 美月の目には、まだ“日常”が映っていた。けれど、彼には違って見えた。


 ※


 事態は急速に悪化していった。

 五日後、全世界で“同様の現象”が断続的に報告される。

 モスクワ郊外、アルプス山中、アメリカ中西部、インド洋の孤島――

 共通していたのは、「空に縫い目のような裂け目」が出現したことだった。


 日本の“裂け目”が開いたのは、その翌日だった。

 北海道北部――本来ならば稚内や宗谷岬があるはずの位置に、

 突如として異なる世界の都市群が現れた。


 それでも政府は隠蔽した。

 パニックを防ぐため、報道統制とSNSの自動フィルタが作動。

 しかし“裂け目”の存在は世界に知れ渡り始めていた。


 国防軍は予備動員を開始し、北海道中央部への展開を始める。

 しかし――本当の“敵”はまだ現れていなかった。


 ※


 そして、一週間目の夜。

 世界各地の空に、同時に音もなく裂け目が走った。


 裂け目から現れたのは、戦闘機でもミサイルでもなかった。

 剣を携えた死者の兵、四足の獣、空を飛ぶ影、火を噴く翼。


 それは、物語にしか存在しないはずの存在たち。


 ――それでも、現実にそれは“降ってきた”。


 あの日を、後に人々はこう呼んだ。

 《境界消失日》。

 世界が、現実をやめた日である。



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