あえて嫌われた英雄
英雄はあえて嫌われる道を選ぶ。
英雄は、とても凄くて、皆から慕われている。
でも、その分だけ、良くない感情も多い。
敵意。嫉妬。憎悪。
人間の良くない感情はいつも英雄を狙っていた。
英雄を不幸にしようとしていた。
それが英雄だけに向けられていたなら、対処できたかもしれない。
しかし、それらの良くないものは英雄の友達や家族、恩人などにも向けれた。
だから英雄は嫌われる道を選ぶ。
けれど、英雄の身近な人はとても優しくて暖かい。
「何か理由があるんだよね?」
「そうしなくちゃいけない理由があるんだろう?」
「俺たちのせいで、そんなやりたくもない態度をとっているんだよな」
彼らは英雄をなかなか嫌ってくれなかった。
だから英雄は、最後の手段をとる。
そんな優しくて暖かい彼等に不幸になってほしくないから。
世界のどこか、苦労して見つけたとっておきの魔法で。
そんな彼らに、英雄を嫌いになってもらったのだ。
「お前なんかとは絶好だよ」
友達に嫌われてもいい。
「金輪際、息子などとは思わない。他の人間が産まれてくれればよかった」
家族に嫌われていい。
「困っているところを助けなけりゃよかった。俺より有名になる剣士なんて、弟子にするんじゃなかった。愚かで愚図だったらよかったのに」
恩人に嫌われてもいい。
それから英雄はたくさんの人たちにも嫌いになってもらった。
自分を慕ってくれる市民達も守るために。
そうして英雄は敵だらけの一人ぼっちになった。
英雄なのに世界で一番嫌われた英雄になってしまった。
英雄はとてもかなしくて辛くなった。
自分でも気づかなかった心に気付いた。
その結果、途中で心が挫けて、魔法を解除したいと思う事もあった。
けれど、その魔法は一生とけないものだったから。
英雄は寂しい心を自覚した後、その気持ちと向き合いながら、ずっと生きていく事になった。