3リオンはマザコン?
騎士隊は小高い丘の上にある王宮から見下ろせるところにあって教会から繁華街を抜けるとすぐのところにある。
なのにリオンは騎士隊の建物がある道路に入らずにそのまま真っ直ぐに進んだ。
「あの、リオン。騎士隊に行くんじゃないの?」
「あっ、ああ、今日は場所が違うんだ」
「そうなんだ。別の場所を借りて謝恩パーティーなんて、今年は豪華じゃない?」
私は何にも疑うこともなくそんな事を口にする。
「ああ、そうだよな。それよりブリジットその髪すぐくいいね。あのリボンがこんなふうになるなんて思わなかった」
「そう?だってこんな素敵なワンピースだから、少しは身ぎれいにしなきゃいけないかと思ったの」
「ああ、すごく似合ってる。ブリジット‥実は…話が」
「ガタン!」
「痛い!」
乗っていた馬車が轍にはまり大きな音を立てた。
「どう。どう。どう…お客さん、すみません。すぐに立て直しますんで」
御車が申し訳なさそうに謝る。
「大丈夫か?おりたほうがよさそうなら降りてもいいが」
「ガタ!…いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
何とか車輪が動き始める。
「驚いたわ」
「ああ。でも良かった」
「そういえばレオン話がどうとか?」
「あっ!いい、いいんだ。それよりもうすぐだから」
「ええ、わかったわ」
***
馬車が目的地に着いたらしく止まった。
「さあ、ブリジット」
リオンが珍しい行動に出る。馬車から先に降りると手を差し出して来た。
「どうしたのりオン」
「いいからブリジット手を…」
(ああ、そういう事か…しばらく貴族らしい生活をしていなかったから、それに馬車に乗ることもなかったし、すっかりマナーを忘れてたわ)
眩しいほど美しい翠色の瞳が私を見つめる。ドクンと胸がときめいた。
(何でもないわ。ちょっと調子が狂っただけ)
気恥ずかしさを隠しながら私はリオンに手を出した。
「脚元気を付けて…」
「きゃっ!」
馬車を下りるとき、脚がつるッとすべりリオンの腕に抱きかかえられる。
「ご、ごめんなさい」
「い、いいんだ。ブリジットって柔らかいな」
「な、何を言ってるのよ。もう、いやだ」
私はほとんど感じたこともない羞恥と言う感情を思い出す。
(リオンって恋人と言うほどでもないけど…でも、私もそろそろ結婚、考えなきゃいけないんだし…)
そんな事を思っていると。
「ブリジット。実は今日は我が家に招待したいんだ。今日は家族も揃ってるし君を紹介したいと思って…」
「…ど、どうしよう…」
「もしかして怒った?」
「リオンそれってもしかして…その、私と正式にお付き合いしてるって家族に?」
「正式って?俺達付き合ってるだから正式に家族に紹介したいって思うのが普通だろう。もちろん俺は本気なんだ。ブリジットはどう?」
リオンの頬は少しはにかんだのか薄っすら赤くなる。
(そうだけど…そんなの嫌だなんて言えるわけもないし…)
「どうって…私もそろそろって思ってるわよ。もちろん…けど」
「じゃあ、いいんだね?」
「ええ、まぁ…」
「そう言ってくれるって信じてたよ」
リオンは私の手を取ると大喜びでルタサール伯爵家の屋敷に入って行く。
「ママただいま~」
(ママ?気持ち悪いけど…)
「お帰り~リオン。まあ、寒かったでしょう。こんなに手が冷たくなってるじゃない。ほら。ほっぺも」
リオンのお母さんが出迎えてくれたがその手はリオンの頬を両手で挟んでいる。
リオンはそんなお母さんと抱き合い再会を喜び合うと今度はお母さんがリオンの手を撫ぜ撫ぜしているではないか。
(気持ちわるぅ。って言うか。まあ、仲の良い家族なんだろうな。でも、ちょっとやりすぎ。)
私は少し引き気味にその光景をただ眺めている。
(それにしてもお母さん若くない?見かけだけだけど。私とお揃いとでも言いたくなるような真っ赤なフリフリのワンピース。髪はリオンと同じ金髪で腰まであるその髪の上には真っ赤なリボンがありストレートに流してて…
お顔には笑い皺やほうれい線もしっかりあるけどそれをものともせずまつ毛は上向き口紅は真っ赤で…もしリオンと結婚したらこの人が義理母…どうなんだろう?)
私は唖然としたままそこに立ち尽くす。
「あっ、そうだママ。紹介する。ブリジット・アンブロス男爵令嬢だよ」
「ああ…ブリジット・アンブロスと申します。今日はお招きありがとうございます」
「いいえ、よくいらしたわ。私はリオンの母のマーシャよ。よろしくねブリジット」
「はい、よろしくお願いします」
挨拶が終わるとお母さんはすぐにリオンの方に向いた。
「さあ、リオン、あなたの好物がたくさんあるわよ。ママあなたが帰って来るから張り切ったんだから」
「そうなの?ありがとうママ~」
また二人で抱擁。
(レオンってもしかしてマザコンなの?なんだかな…これじゃ結婚考え直さなきゃいけないかも…)
私の脳内はすでに拒否反応を起こしつつある。