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須藤優佳(すどうゆうか)

もう一つの別視点です。

ここまでやる必要があったのかと今は思っています。

勢いで書いたので粗はたくさんあると思います。

 私は今自分の気持ちに整理がつかない。これまで何事もなく生きてきたことが大きな犠牲の元でなされていたのだと親友に教えてもらったところだから。自分の愚かさ、器の小ささ、無知さに反吐が出そう。それと同時にもう一度彼と——直君と繋がりたい——そんな資格ないのに、分かってるのに、今まで蓋をしていた感情が溢れてくる。


 私、須藤優佳と後藤直樹君こと直君が出会ったのは3歳の時。お母さんに連れられて公園に初めて遊びに行った時に出会った。どちらかというと人見知りだった私に対して優しく接してくれて気がついたら一緒にいるようになった。


 それは小学校に入学してからも同じだった。登下校、休み時間、放課後と一緒にいなかった時間の方が少ないと言ってもいいほど直君は私にべったりだった(私も直君にべったりだった)。私が直君のことを好きだと気づいたのは小学3年生の時だった。できれば二人で一緒にいたかった私は仲良くなった子たちには悪いけど遊びを断っていた。


 それが小学4年に上がった時に状況が変わった。まず直君がなぜかは分からないけど宿題を忘れるようになって居残りをさせられることが増えたこと。


 そしてある日を境に直君が放課後一緒に遊んでくれなくなったこと。私は遊んでくれなくなったことが悲しかった。そんな私のそばにいてくれるようになったのが青山芽衣だ。芽衣は直君と入れ替わるように私と一緒にいるようになっていつの間にか親友と呼べるくらいの仲になった。



※※



「なんで直君、放課後遊んでくれなくなったんだろ?」


 直君は放課後は遊んでくれなくなったけど、登校時や学校ではそばにいてくれる。でもそれは今までのようにずっと一緒というわけじゃないし、特に放課後の時間は一番楽しい時間だ。その時間を直君と過ごせないから私は少しずつ不満が溜まっていった。


 思わず声に出てしまった不満を聞かれ、芽衣から『直君絶縁宣言』をしたらどうかと言われた。正直よく分からなかったけど、一度突き放したら私がいることのありがたみが分かるというようなことを言っていた。


 芽衣から言われたのといい加減放課後に相手をしてほしかったのもあって不満が爆発した私は勢いで『直君絶縁宣言』をしてしまった。


 登校時も休み時間も話しかけてくる直君を無視した。自分から話しかけることもしなくなると直君は関わることを諦めたのか全く私に絡んでくることがなくなってしまった。自分で無視しといて絡んでこなくなると悲しくて仕方がなかったし、芽衣の言われたことを真に受けてするんじゃなかったと後悔した。


 そうして直君はどんどん落ちぶれていった。宿題忘れはなくなったけど勉強は全くできなくて授業中に先生に叱られることが多くなった。友達もたくさんいたのにどんどん直君から離れていった。最終的にいつも一人でいるようになった。


 好きな人がだんだんダメになっていってるのを見てなんとかしてあげたいとか力を貸してあげたいと思ったけど、自分から『絶縁宣言』しているし、無視してしまった手前、今さら感があったから何もできなかった。


 このころから私は思春期に入ったんだと思う。体の面では人よりも成長が早かったみたいで小学5年生の時には中学生と間違われることも度々あった。心の面では恋愛とかにも敏感に意識するようになって、余計に直君に対してどう対応したらいいのか分からなくしまっていた。


 もうあの頃のように直君と一緒にいることはできない。そうしたのは私だ。『絶縁宣言』なんてしてしまったのだから。謝ればいい。それだけのこと。だけど私のしょうもないプライドが許さず、直君への恋心に蓋をしていった。


「優佳、これから私がいつもそばにいるからどんどん頼ってね!」


 直君と関わらなくなった代わりに親友になった芽衣。芽衣は落ち込んでる私を励ましてくれるようになり、遊びに行く時は一緒に行動をすることが常となった。芽衣のアドバイスなんかは的確で、仲良くなりたい女の子のことを相談すると


「あの子はとても性格がいいし、優佳とも気が合うから仲良くしても大丈夫だよ!」


 とまるでその子のことを知ってるかのような感じで教えてくれて、実際に付き合ってみるととてもいい子ですぐに仲良くなることができたりしたので、全面的に芽衣を信頼するようになった。


 芽衣との交友を深めつつ、直君のことを遠くから気にかけつつという生活をしていくにつれて私を見る周囲の目が変わっていくのを感じた。特に男子からは何かやらしい目で見られていると言えばいいのか、とてもいい気分ではない見られ方をしているなと感じていた。


「優佳は自分では気がつかないかもしれないけど、スタイルもいいし、可愛いの。それにみんなを虜にしてしまう不思議な魅力があるの。特にそれで男子なんかはエッチな目で見るようになってるから男子には気をつけてね。この前もこの周辺に不審者が出たらしいから私から離れないようにね」


 少し男子のことが怖いと思うようになった私に寄りそうにように言葉をかけてくれる芽衣にとても安心した。


 直君は私のことをどう見てるのかな?とふと思ったので直君をしばらく観察してみると、直君からはやらしい目で見られているということはなく、むしろ全くといっていいほど私に興味がない感じだった。もう私なんて眼中にないんだ……。私は直君への恋心に完全に蓋をしてしまった。


 そして中学に進み、私はテニス部に入部。芽衣も同じ部に入ってくれたのでさらに彼女との仲は深まった。学校の授業は楽しくてテストは常に上位5位以内をキープすることができた。


 思えば中学が一番充実していたかもしれない。


 ひとつ不満があるとすれば、男子とそこまで仲良くなれなかったことかな。あくまで友達としてだからね。でもそれは芽衣からなるべく男子との接触は避けるように言われていたし、私自身も男子が向けてくる邪な視線が嫌だったのもあるから仕方なかった部分はある。


 直君はというと、髪はボサボサ、前髪で顔はよく見えない、完全に陰キャというべき存在になっていた。芽衣がたまに話しかけているのを見る以外は誰とも関わらないというか周りが直君を認識していないという感じだった。


 今、直君は何を考えているのだろう、何に夢中になっているのだろう、何か共通の話題とかないかな、なんて考えたりして蓋をしていた恋心がたまに溢れてくることもあった。でも結局中学時代は一度も話しかけることはできなかった。


 学年が上がるにつれて私の人気は徐々に高まっていったみたい。みたいというのは芽衣からそう聞いたから。実際、芽衣と遊びに行った時なんかは毎回と言っていいほどナンパをされた。そのたびに通りすがりの優しい人が助けてくれて何事もなかったけど。


 でも本当に人気だったなら告白とかされてもおかしくないはずなのに、なぜか私は告白されることがなかったから多分芽衣が大げさに言ってただけだと思う。


 充実していた中学校での生活はあっという間に時間が過ぎて受験に突入した。私は学年でも上位をキープしていたから県下トップの高校も視野に入れていた。でも私には下心があった。芽衣と同じ高校に行きたいなと。芽衣は私よりも少し勉強ができないくらいだから芽衣のレベルに合わせて高校を選んだ。でもまさか直君も同じ高校に進学することになるとは思ってもみなかった。


 高校へ進学すると私はたちまち人気者になった。休み時間になると多くの人たちに囲まれるし、お昼ご飯を一緒にとりたい、放課後一緒に遊びたいなどお誘いも増えた。女子だけでなく男子からも。私は今までは芽衣から人気があると聞かされてただけで実感がなかったから純粋に嬉しかった。かなり浮かれていたと今では思う。もっと交友を広めたいと思ったけど、芽衣がそれを許さなかった。


 これまで私は芽衣を通して友人関係を築いていた。芽衣のアドバイスも的確だったからそれを当たり前のように受け入れていた。でもよく考えたらなんで芽衣から許可を取らないといけないの?と思うようになった。さらに振り返ってみれば中学の後半あたりから交友関係だけでなく、遊ぶ範囲も芽衣に決められていたことにも気づき、だんだんとそのことに対して不満が募っていった。


 別に芽衣のことが嫌いになったわけじゃない。あくまで自分のことは自分の意志で決めたいという気持ちが強くなっただけ。でも芽衣がそれを許してくれず、二年の9月、体育祭終わりに転機が訪れた。



※※



「須藤さん!あなたのことが好きでした!付き合ってください!」


 公開告白が起き、私が名指しされたのだ。告白したのは同じ学年の北島翔という男子。この告白は男女交際をお願いする目的だったとは思うけど、私の頭には別の考えがあった。


「お友達で良ければお願いします!」


 交際する気はないけど、芽衣に決められた人じゃなくて自分の意志で決めた友達がほしい。私はこの機会をきっかけに交友を広めようと企んでOKを出した。そしたらすぐに芽衣が来て問い質された。


「なんであそこでOKしたの?付き合うってことだよ?」


「違うよ。私、お友達で良ければって言ったもん。だから友達になるつもりで手を出したんだよ」


「優佳はそうでも周りはカップル成立したって思ってるよ!北島君も勘違いしてるよきっと!」


「それはあとでちゃんと言っておくから。友達だからねって。」


「でもどんな人か分からないのにいきなり友達だなんて良くないよ」


「……前から言いたかったんだけどさ、いつも私が仲良くしたいなって思っても必ず芽衣を通してじゃないといけないのはなんで?特に男子にはあからさまに近づけないようにしようとしてるよね?たまには私が思った通りに友達作ってもいいじゃん!」


 私が不満を口にすると芽衣は黙ったままだった。その顔はとても焦ったような顔だった。何を焦っているのだろうと疑問に思ったけど、反対はされなかったのでそのことは置いといて北島君と友達になることができた。


 芽衣の言っていた通り、周りは「早く付き合いなよ」とか「美男美女カップル誕生だ!」とか囃し立てていた。だけど私は「友達になったんだよ」ときちんと説明をした。


「ツレから聞いたんだけど、須藤さんって俺と付き合う気がないってほんと?」


 昼休みの休み時間に北島君からそのように言われた。


「うん、あの時にも言ったけど『友達でよければ』って言ったから付き合うってのはないよ」


「そっか……。じゃあこれから仲良くなったらそういう関係に発展することはあるのかな?」


「それは……」


 私はこの時はっきりないと言えばよかった。頭に直君のことが一瞬よぎったから。でもこの時の私はもう直君のことは好きなのかどうなのか自分でも分からない状態だった。もう諦めて次の恋に進んだ方がいいんじゃないかと思うようになっていたから。


「それは北島君次第だと思うよ」


 と答えた。北島君は嬉しそうな顔をして「頑張るよ」と言ってその日から熱烈なアプローチが始まった。私の荷物を持ってくれたり、登校時に一緒になると芽衣と私に気遣って車道側に立ってくれたりとさりげなく優しく接してくれるようになった。私はこれまでそんなことをされたことがなかったからその優しさについ嬉しくなってしまい、北島君はとてもいい人と印象づけた。


「優佳、北島君のことだけど悪い噂をよく聞くの。だから距離を置いた方がいいと思うよ」


 公開告白から半月ほどした学校の帰り道、芽衣と二人で帰っていた時に彼女から突然そう告げられた。


「芽衣、いきなり北島君のこと悪く言うのはどういうこと?私には悪い噂なんて聞かないし、北島君いつも親切だよ?」


 私は芽衣から自分の持っている北島君の印象とは正反対のことを言われて腹が立った。


「優佳から見たらそうかもしれないけど、知り合いから聞いた話だと色んな女の子に手を出して悪さをしてるみたいなの。絶対に優佳のことをやらしい目で見てる。北島君と関わるのはやめた方いい」


 多分これまで溜まっていた不満が爆発してしまったんだと思う。私はどうやら不満を溜めこんで爆発させてしまう性格のようだ。


「北島君はそんな悪い人じゃない!あくまで聞いた話でしょ?芽衣に何が分かるの?そんなこという芽衣なんて嫌い!もう知らない!」


 私は怒りに任せて芽衣の意見を拒絶し走って家まで帰った。そのまま部屋に入ってベッドに倒れ込んで突っ伏した。直君の時と同じだ。私はどうしてあんなひどいことを芽衣に言ってしまったんだろうと後悔した。でも私の意志で選んだ友人のことを悪く言われたら腹も立つよね。そこに関しては私は悪くない。明日言い過ぎたことは謝ろう。


 次の日、私は生まれて初めて一人で登校した。小学校は登校班があったし、中学校は常に朝芽衣が迎えに来てくれて一緒に登校していたから一人になったことがなかった。誰ともおしゃべりをせずに黙って登校することに新鮮さを感じつつも一人ということに寂しさを覚えた。


 教室に着いてしばらくすると芽衣が私のところへやってきた。


「おはよう優佳。昨日はごめんなさい。いきなり悪口言われたら腹立つよね。軽率だった」


「おはよう芽衣。私の方こそ言い過ぎた。ごめんね」


「私のことは気にしないで。それより後藤君が優佳に話があるみたいなの。屋上にいるから行ってもらえるかな?」


 直君から話がある?いきなり何だろう?私は久しぶりに直君と話ができることが嬉しくなって急いで屋上へと走っていった。


「な、……後藤君から用があるなんて珍しいね。一体何の用?」


 屋上に着くと私に背を向けて待っていた直君に声を掛けた。


「そうだな、小学4年の時に話しかけて無視された以来じゃないか」


「あんたまだそんなこと根に持ってんの?陰湿で気持ち悪いよ」


 振り返った直君から嫌味を言われて思わず言い返してしまった。


「気持ち悪くて結構。俺が言いたいのは北島のことだ。あいつから手を引け。さもないとお前の身に危険なことが起こる」


そう言われた途端、頭に血が上り、私は直君を罵倒した。


「あんたも芽衣みたいなこと言うのね!あんたに北島君の何が分かるのよ!普段から一人で何考えてるか分かんない奴に手を引けって言われて、はいそうですかってなるわけないでしょ!北島君は少なくともあんたみたいに私を一人にしないし気も配ってくれるわよ!久しぶりに話せると思って期待した自分がバカだったわ!もう二度と私に近づかないで!」


 それからはせっかく仲直りしたのに芽衣とは気まずくなってしまって距離ができてしまい話しかけづらくなった。芽衣も積極的にこちらに関わろうとはせずに遠くから見てるような感じ。それを見た北島君が私に気を遣ってくれて構ってくれた。休み時間や下校時に一緒にいることが増えた。


 そんな私たちを見て周りが「カップル間近か」とか「早く付き合いなよ」とか噂をするようになり、そんな気がない私は「あくまで友達だよ」と否定するというやりとりが頻繁に起こるようになって困惑した。



※※



 そして事件が起こる。その日、放課後帰ろうとしたときに北島君から声を掛けられ、着いてきてほしいとお願いをされた。もしかしたら告白されるんじゃないのかなと思ったのできちんと告白は受けて断るつもりで着いていった。そこは旧部室棟。女子からは気味が悪いと言われている場所だった。


「優佳、待って!すぐにそいつから離れて!」


 聞きなれた声が後ろからした。振り返ると芽衣がいた。


「おい、邪魔者が来たぞ。お前ら可愛がってやれ!」


 北島君がそういうとぞろぞろと男たちが現れ芽衣は囲まれてしまった。それと同時に直君が現れる。これは一体どういうこと?


「なんだよ、俺らでこれからこの女で遊ぼうと思ってたのによ……。邪魔すんじゃねえ!」


「ごめん後藤君、北島以外に人がいることに気がつかなくて……」


「ちょっと!あんたたち芽衣をどうするつもり?北島君も何か言ってやってよ!」


「須藤さん何言ってるの?青山さんはこれからあいつらと楽しいことをするんだよ?そして須藤さんは俺と楽しいことするんだよ!」


 北島君の顔はやらしい目で見てくる男子のそれと同じだった。強引に肩を掴まれて部屋に入った私は部屋の真ん中にあるベッドに押し倒された。さっきの北島君が言ってた楽しいこと。どう考えても芽衣と私の体を狙ってやましいことをしようとしている。私は一気に血の気が引いた。


「須藤、これから俺がお前のことをたっぷり可愛がってなるからな!」


「一体どういうこと?私を襲おうってことなの?そんなことしたら捕まっちゃうのよ?」


「どうもなにもさっき言った通りだよ。俺は元から須藤!お前の体しか狙ってないんだよ!この顔にこの体!たまんねえなあ!これまで見たどの女よりも食べ応えがあるぜ!最初は痛いけど慣れたら気持ちいいぜえ!気持ち良くなったら警察になんて言う気が失せちまうから大丈夫だよ!」


 まるで自分が捕まらないと言ってるように聞こえた私は北島君——いや北島が冗談を言ってるとは思えなくなった。芽衣や後藤君が言ってたことは本当だったんだ……。起き上がろうと上体を起こそうとするけど肩を掴まれて私は再び押し倒された。


「ほら大人しくしろよ!とりあえずキスからしような!」


 北島が強引に私の唇を奪おうと顔を寄せてきた。こんな恐怖今まで味わったことがない。怖い……怖いよ!助けて直君!


バーン!


 ドアが思いきり開いた勢いで北島がドアの方を見るために私の顔から離れた。私もドアの方を見るとそこには直君がいた。でもなんだか様子がおかしい……。


「やっぱ実戦ってのは何が起こるか分かんないのな。色々想定してても想定外のことが起こる起こる。これまでがよっぽど運よかったんだな」


 直君の脇腹が赤く染まっていた。あれって血?まさか刺されたの?はあはあと肩で息をする直君が脇腹を押さえながらこちらに近づいてくる。


「なんだよ、10人もいるから大丈夫だって思ってたけどまさか全部倒してくるとはな。すごいじゃねえか、後藤!でもその感じじゃ満身創痍って感じだな」


「ああ、刺されたのは今回が初めてだ。こんなに痛いとは思ってもみなかったわ」


「しょうがねえ、俺が今からお前ぶっ殺して楽にしてやるよ!」


 北島がベッドから降りて直君の脇腹目がけて蹴りを入れた。あんなとこ攻撃するなんてひどい!ひどすぎる!直君は北島の蹴りを受け止めてそのまま足を持った。


「優佳!急いでここを離れろ!外で青山がいるから合流して逃げろ!」


 足を持った直君はそのまま北島に飛び込み馬乗りになる。


「警察と先生には連絡済みだ!だから気にせず逃げられるところまで逃げろ!こいつやっつけたらすぐにそっちに向かうから安心しろ!」


 私はベッドから飛び起きて入口まで走る。入口には芽衣がいて私を引っ張って走り出した。


「芽衣!直君がケガしてるの!そのままにしていいのかな?戻った方がいいんじゃ……」


「うるさい!いいから私についてこい!あいつはね、あんたのためならどうなったっていいって奴なの!あんたの幸せのためなら自分が死んでもいいって思ってる奴なの!戻ってひどい目に遭うくらいならあいつのためにあんたを安全なところまで連れてく!黙ってついてこい!」


 芽衣がこんな口調で怒鳴るなんて初めて……。あっけにとられながら芽衣に連れられて校舎まで戻ると警察が来ていた。


「この先の旧部室棟が事件の現場です。1名脇腹を刺されて負傷しています。至急対応をお願いします!」


 やっぱり直君刺されてたんだ……。なんでそんなにまでなって私を守ってくれたんだろう……。私は警察官に連れられてこれまでのいきさつなど色々と質問された。結局直君は戻ってくることがなかった。



※※



 警察に保護されてから事情聴取などを受けて帰ったら夜になっていた。もちろんあの時も恐怖はあったけど、部屋に一人でいるとさらに恐怖がどんどん増していった。あまりにも怖くてお母さんの部屋で一夜を過ごした。


 次の日になっても恐怖はなくならず、私は学校を休んだ。テレビやネットニュースでは北島たちのことが取り上げられていたけど、思い出すのも嫌だから何もせずにずっとお母さんにくっついていた。お母さんはあんなことがあったからしばらくは仕事を休むことにしてくれたらしく、本当に精神面で助かった。


 それからしばらく学校を休んでいると芽衣がお見舞いにやってきた。そして芽衣からこれまで自分が何も考えずにのうのうと生きてきたことを知らされた。まさか自分が小4の時からずっと直君と芽衣に守られていたなんて……。直君が体を張って守ってくれなかったら私は今回のような怖い思いを何度することになったのだろう。


 私の幸せのためだけに直君は自分の人生全てを捧げてくれた——これが何を意味しているのか分からないほどには落ちぶれてはいない。愛だ。好きとか嫌いとかそういう低い次元の話じゃない、直君は私のことを本当に心の底から愛してくれているんだ。


 それに比べて私はなんて愚かなんだろう。少なくとも今の自分に直君を愛する資格なんてない。


 頭の中で色々なことを考えていると芽衣がさらに話し始めた。


「それと私は謝らないといけないことがあるの。ひとつは『後藤君絶縁宣言』を優佳にさせてしまったこと。それがなかったら後藤君と優佳の関係はここまでひどくならなかったと思う。それともうひとつ、私たちが優佳を守るために行動を制限させていたこと。窮屈な思いをさせてしまったと思う。本当にごめんなさい!」


「ううん、芽衣が謝ることは何もないよ。むしろ私だけが何も知らずにのうのうと生きてきたと思うと申し訳ない気持ちでいっぱい。こちらこそごめんなさい。そして守ってくれてありがとう。あと『絶縁宣言』に関しても私が悪い。直君にひどいことしちゃったってずっと謝りたいと思ってたの。でもどこかで変に意地張ってたとこがあった。直君にはずっと守ってもらってたのにね。ほんと私ってバカだ。でもこれまでのことを言ってほしくないって直君は言ってたんでしょ?なんで私に教えてくれたの?」


「うん、それは私あの事件で後藤君が刺された時に自覚したの。後藤君のことが好きだってことが。これから私は後藤君に振り向いてもらえるように頑張るつもり。優佳が後藤君のことをどう思ってるかは分からないけど、これまでやってきた後藤君のことを考えて、もし後藤君のことを好き、もしくは好きになるならフェアに勝負したい。それで打ち明けたの」


「そっか、芽衣は直君のことが好きだったんだね。私はね、直君が私を守ってくれたのを聞いて胸が熱くなった。多分これから直君と関われば好きだった時の気持ちを思い出すと思う。でもこれまでの私の行動は直君に嫌われても仕方ないことをした。許されるなら直君ともう一度最初からのつもりで関係を築いて、これまで守ってくれた分も含めてまずは罪滅ぼしと恩返しをしたい。それからじゃないと私に直君を好きになる資格はないよ」


 芽衣が直君のことを好きだと分かり、私は自分の中で蓋をしていた直君への想いを解放した。私が遠慮していたら芽衣は絶対に私のことを気遣ってしまう。芽衣とは対等でありたい。と言っても私は肩を並べられる位置にはいないけど。かなり遅れを取る形にはなるのは当然のこと。だから頑張って直君と芽衣への罪滅ぼしと恩返しをして追いつく。そして芽衣と直君を賭けて真剣勝負する。


「私、明日から学校に行くよ。それでちゃんと自分で身を守れるように強くなる!直君が退院して学校に来た時に安心してもらえるように頑張る!」


「優佳が元気になってよかった!あとさ、後藤君は優佳を守れるなら自分は死んでもいいって考えがあるんだよ。それは改めさせた方がいいと思うの。私が言うよりは優佳が言う方が聞くと思う。だからそこは任せていい?」


「分かった。改めてくれるか分からないけど、自分なりにやってみる!」


 次の日、私は学校へ行った。しばらくはお母さんが送迎をしてくれるから安心できる。学校では芽衣が私と一緒にいてくれると言ってくれた。男子の視線は怖かったけど、芽衣曰く、


「あんな事件のあった後だから声をかけようって男子はいないと思うよ」


 とのことで実際に声をかけられることはなかった。女子から心配されて囲まれることにはなったけど。


 そして放課後、私は直君の入院している病院まで送ってもらい、病室の前で待機している。芽衣に『これから直君の病室に行くね』と連絡した。芽衣は直君とどんな話をしているんだろう。もう直君へのアプローチは始まってるんだろうな。芽衣が病室から出てくる。


「じゃああとは頼んだからね!」


 そう言って芽衣は帰っていった。ここからが私の再スタートだ。マイナスからのスタートだけど、また直君が私と関わってくれることを祈って病室のドアをノックした。

お読みいただきありがとうございました。

今回は前回のご指摘を受けて詳しく書いたつもりですが、まだまだ至らない点があると思います。

ご感想いただけるとありがたいです。

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この女一度痛い目会う方がいい
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