後藤直樹(ごとうなおき)
二作目です。
こちらも勢いで書きました。
粗がたくさんあると思います。
パトカーの赤色灯が煌々と夜の街を照らしている。警察官に手錠を掛けられ車に乗り込む男の顔が絶望に染まっている。自業自得だそんなもん!
この戦いを始めてからこれでストーカーは6人目。あいつどんだけ目つけられるんだよ!さすがにおかしいだろ!と思わず声を出しそうになるのを何とか堪える。
今回は警察が出てきてしまったけど、バレずに事が済んだから良しとしよう。ポケットからスマホを取り出して電話をかける。
「今回も無事終わったよ、父さん。あとはよろしく頼むね」
※※
俺の戦いが始まったのは俺が小学4年生の時だった。俺はその日宿題をやり忘れて居残りさせられていた。やっとこさ終わった時にはすっかり夕方になっていた。学校に残っている人もいなかったので一人で下校することになった。その帰り道で遭遇したんだ。俺こと、後藤直樹の大事な大事な幼馴染をストーキングする奴を。
相手は30代くらいのスーツを着たサラリーマンだった。電信柱のそばに立って何かを見ている。俺から見ればどう考えても挙動不審な奴だ。だから様子を伺いながら奴を追うことにした。そして気づいた。奴が追っているのが俺の大切な幼馴染の須藤優佳であることを。あいつがスマホ越しから優佳を盗撮していたのが見えたんだ。この時俺は初めてあいつがストーカーだということに気づいた。
優佳は俺が3歳のときに知り合った幼馴染だ。家も近所なので親同士の交流もあって一緒に遊ぶことが多かった。優佳は人を惹きつける魅力を持っていて、俺もその魅力に憑りつかれた人間なんだろう。すぐに恋に落ちた。
幸いにして優佳は友達と一緒にいたから何かをされるということはなさそうだったが、友達と別れて一人になった時が危ないと感じた俺は優佳の元まで走った。
「優佳、帰るぞ!」
友達もその場に残したら危険かもしれないと思い、友達と優佳の手を引っ張ってできる限りの速さで走った。追ってこられないように右に左に何度も曲がってなんとか撒くことができた。
「はーっ!はーっ!直君!なんでいきなりこんな意味も分からずに走らせたの!」
「そうだよ!せっかく優佳ちゃんと遊んでたのに邪魔するなんて!最低だよ!」
優佳と友達はさぞご立腹だった。俺は事情を話そうと思ったが思い止まった。もしここでストーカーがいると告げたら優佳は今後そういうことを意識しながら生活をしないといけなくなってしまう。優佳は何も悪くない。なのに優佳はストーカーに怯えながら生活しないといけなくなるのはおかしいと感じた。だから俺はその場をなんとか誤魔化して家まで見送っていった。
その夜、俺は父さんと母さんにこのことを相談した。もちろん優佳にその話がいかないようにも頼んだ。父さんは優佳のお父さんに連絡をして家に来てもらい、ストーカーに対して策を講じることになった。結局ストーキング行為の証拠を集めた後、ストーカーと接触して二度と優佳に近づかないように誓約書を書かせたことでこの騒動は終了する。
なぜそんなことになったかって?それは俺の父さんが弁護士で、弁護士の力を使って警察の厄介になることなく穏便に事を済ませることができたからなんだ。こうすることで周囲に気づかれることもないし、優佳も何も知らないままで済む。一番大事なのは優佳が何不自由なく生活できるということが大事なんだ。
それからの俺はこの事件から大事な優佳を守るためには力をつけないといけないと感じていた。今回は未然に防げたが、ストーカー以外にも優佳にちょっかいを出してくるやつが出てくるかもしれない。そうなった時に俺が体を張ってでも守れる強い人間にならなくてはと思い、父さんに格闘術の習い事をしたいと願い出た。また父さんの知り合いの探偵に頼んで尾行や変装のスキルを身につけるように修行させてもらうことにもした。
そんな優佳を守ることで必死になっていた俺はバカだった。習い事や修行のせいで優佳といる時間がなくなってしまったんだ。あの事件が起きる前までは登下校はもちろんのこと、学校でも放課後でもずっと優佳と一緒にいた。だから俺が優佳にかまってあげられなくなってしまい、嫌われたと優佳に勘違いされてしまった。そこから唯一一緒に行動できる登校でも全く話して来なくなったし、話しかけても無視されることがほとんどでどんどん疎遠な関係になっていった。
優佳の近くにいることができないと体を張って守れない。だから俺は味方を作ることにした。あのストーカー事件で一緒にいた優佳の友達の青山芽衣だ。青山は俺が疎遠になったことで優佳の代わりに常に一緒にいるようなった優佳の親友だ。俺は青山と接触し、これまでのあらましを話した。
「じゃあ後藤君は優佳ちゃんを守るために活動しているってこと?それ優佳ちゃんに言った方がいいんじゃない?」
「いや、俺は優佳を守ることができればそれでいい。優佳が何かに怯えて生活をしなくていいなら俺がどうなっても全然構わない。優佳に嫌われたっていいし、死んでも構わない。だからこのことは優佳には言わないでくれ。あいつは俺のことを心配してしまうようになるし、それこそ罪悪感とか持たれてしまうとあいつを守る意味がなくなってしまう。」
「後藤君ってチャラいイメージがあったけど一途で真面目なんだね。いいよ。協力してあげる。どんなことをすればいいの?」
こうして青山を味方に引き込むことに成功した。青山には優佳が一人にならないように常に行動を共にしてほしいことを伝えた。これだけでも十分に周囲をけん制できるからな。そして何か異常事態やトラブルに巻き込まれた時はすぐに俺に連絡できるよう連絡役として動いてもらうことになった。
それから特に何も起きることなく小学5年に進級。このころから早い奴は第二次性徴が始まる。優佳は早かったみたいで背が伸びて大人の女性の体になっていった。見た目は小学生というよりかは中学生に見間違えられてもおかしくない容姿へと成長していった。そうなると男どもの優佳を見る目がどうしても性的なものに変わっていくのは当然のことだった。
だから起こるべくして起こったと言っても過言ではない事件が起きる。同級生が優佳をレ〇プしようと企てていたんだ。たまたま俺が腹が痛くてトイレでいた時だった。
「須藤の体ってエロくね?あの体触ってみたくね?」
「それいいな!スマホで撮って脅せば言うこと聞きそうだし、そしたらあいつの体好き放題にできるぞ!」
「よし、これからここに集合して計画立てようぜ!」
数にして4人くらいだろうか。なんてひどいことを計画するんだ。俺はそれから毎日このトイレに籠って奴らの計画に聞き耳を立てた。
それから数週間後、4人はこの学校から姿を消した。理由は公表されないまま転校していったんだ。これは俺が奴らの計画を録音し、トイレの前に隠しカメラを置いて撮影した証拠を父さんを通じて学校に報告したことがきっかけだ。だから俺と味方である青山だけは奴らが転校した理由を知っている。
この事件以降、青山は全力で俺に協力するようになった。協力を要請してから特に事件らしい事件が起こらなかったからそこまで危機感がなかったのだろう。優佳には何か分からないが不思議な魅力がある。もちろん容姿が優れているのは言うまでもないが、深みにハマったら抜けられなくなる沼のような人を虜にする力を持っている。近くにいる青山がそれに気づいてくれたんだ。
「あの子の人を酔わすような魅力はヤバいね。多分これからあんなことが頻繁に起こりそうな気がする。だから後藤君、絶対に優佳を守ってね!」
青山の言う通り、ここから優佳に関わるトラブルがどんどん増えていく。中学に上がると遊びに行くときはナンパから始まり、痴漢や盗撮やレ〇プ、果ては誘拐計画まで起きたこともある。そしてもちろんのことながらストーカー。さっき逮捕されたやつもそうだ。
今現在俺たちは高校二年生だ。だから俺の戦いは今年で7年目を迎える。全て優佳にバレることなく未遂で終わらせられている。
もちろんのことながら優佳にバレていないから俺のことは何も評価されていない。優佳の俺に対する評価はおそらく最低だ。疎遠になって以降も全く会話なんてしていないし、俺を蔑むような目で見ているから間違いない。
それに俺は学校内では目立たないようしているからクラスカーストで言えば最底辺で、陰キャという評価を全体からも受けている。一方の優佳は言うまでもなく容姿端麗なのはもちろん、学業も優秀、運動もできて文武両道を地で行くトップカーストの才女。釣り合わないのは当然だから周りも青山を除けば俺のことを高く評価している者はいない。
青山には本当の姿、これまでにしてきたことを知ってもらった方がいいと言われることが度々ある。でもそんなことはどうでもいいんだ。優佳が幸せになってくれるのであれば。だから俺は断固として拒否している。今のポジションで優佳を守ることが正しいと思っている。でもそれが本当は正しくなかったということをこのあと思い知ることになるとは……。
※※
それは9月、体育祭が終わった時にそれは起こった。
「須藤さん!あなたのことが好きでした!付き合ってください!」
公開告白である。俺と青山はこれまで優佳に見合う人物かどうか調査、判定した上で優佳と接触するように裏で動いてきた。これは優佳のことが好きだという男に関する噂話や優佳が興味を引いた男の名前などから事前に調べることができたからだ。ところが公開告白となると話が変わってくる。いきなり素性の分からない男と優佳を引き合わせてしまうことになる。しかも優佳が興味を持ってしまうとなると引き離すのに時間がかかってしまう。
想定外のことが起きてしまった俺は久しぶりに焦っていた。これまで事前にことを運んでいたから油断していたんだ。青山と目が合う。青山もやってしまったという顔をしていた。
「お友達で良ければお願いします!」
優佳はあっさりと告白を受け入れてしまった。周りからはヒューヒューなどと言った野次が飛んでいるが概ね皆二人を祝福しているようだった。俺はすぐに男の素性を調べた。奴の名は北島翔。同じ学年で水泳部のエースとして期待されているという。あまり目立たないが、特定の仲のいい連中とつるんでいて性格や人柄も良く、女子からも人気が高いと評判だ。
表上は。
裏は完全にクロだった。中学の時に弱みを握って何人もの女子に手を出し、妊娠させては堕胎させたという悪の中の悪だった。また特定の仲のいい連中というのが厄介で、親が警察官をやっている者がいて、お金を見返りに奴の所業を証拠不十分として揉み消していたみたいだ。揉み消せるということは警察官の中でもそれなりに地位が高いわけで、今まで俺が相手していたクラスとは桁違いの大物を相手取るということになる。
俺だけでは絶対に戦えないと判断した俺はこのことを父さんと修行先の探偵事務所に報告し、奴らの裏でのやりとりを裏付ける証拠探しをしてもらうことにした。そしてもちろん青山にも報告し、奴とは距離を取るようにお願いした。
それから三日後のこと、青山から連絡が入った。
「後藤君ごめん!優佳を説得したけど全く聞く耳持たずだった……。こんなの初めて。今までは私の忠告にはちゃんと耳を傾けてくれてたのに、『北島君はそんな悪い人じゃない!芽衣に何が分かるの!』って反発されちゃった……」
「分かった。俺からも優佳に言ってみるよ。このあと屋上に来るように言ってくれないか?」
まさか青山に反発するとは思わなかった。おそらくだが公開告白されたことで浮かれている部分もあるだろうし、皆の前でというのもあってうまくいきませんでしたってなるのが怖いのもあるのかもしれない。どちらにせよ、行動を早くしないとこれまでに積み上げてきたものが簡単に崩れてしまう。
「な、……後藤君から用があるなんて珍しいね。一体何の用?」
「そうだな、小学4年の時に話しかけて無視された以来じゃないか」
「あんたまだそんなこと根に持ってんの?陰湿で気持ち悪いよ」
「気持ち悪くて結構。俺が言いたいのは北島のことだ。あいつから手を引け。さもないとお前の身に危険なことが起こる」
本当は未然に防ぎたいからこんなこと言いたくはなかったんだが、背に腹は代えられない。
「あんたも芽衣みたいなこと言うのね!あんたに北島君の何が分かるのよ!普段から一人で何考えてるか分かんない奴に手を引けって言われて、はいそうですかってなるわけないでしょ!北島君は少なくともあんたみたいに私を一人にしないし気も配ってくれるわよ!久しぶりに話せると思って期待した自分がバカだったわ!もう二度と私に近づかないで!」
そう言って優佳は屋上から出ていった。火に油を注いでしまった形になってしまったな……。俺が優佳からの評価が低くて信頼されてないわけだから、あの発言はただの嫌味にしか聞こえないよな。この時俺は初めてこれまでの自分の行動を後悔した。
今回の俺と青山の説得失敗により青山は優佳との距離が離れることになってしまった。それもあって北島と優佳が二人でいることが多くなっていった。周囲は「いよいよカップル秒読みか」といった感じの雰囲気になったが、優佳は「あくまで友達だよ」と進展していないことをアピールしていた。
俺と青山はこのままだと北島の方が痺れを切らして行動に出てしまうのではないかと危惧した時にそれは起こった。
「後藤君!北島が優佳と接触して旧部室棟に向かってる!あそこは今誰にも使われていない場所だから絶対にヤバいと思う!急いで!」
いきなりかかった来た電話から聞こえた青山の悲痛の叫び。やはり北島の我慢が限界を超えてしまったか。俺は歯を食いしばって全力で旧部室棟へ向かった。
※※
旧部室棟の前に到着すると最悪な展開が起こっていた。ドアの前に優佳と北島、少し手前の広場に10人くらいの柄の悪い男どもが青山を人質に立っていた。
「なんだよ、俺らでこれからこの女で遊ぼうと思ってたのによ……。邪魔すんじゃねえ!」
「ごめん後藤君、北島以外に人がいることに気がつかなくて……」
「ちょっと!あんたたち芽衣をどうするつもり?北島君も何か言ってやってよ!」
「須藤さん何言ってるの?青山さんはこれからあいつらと楽しいことをするんだよ?そして須藤さんは俺と楽しいことするんだよ!」
醜悪な顔をした北島が優佳の肩を強引に掴み部屋へと入っていった。青山はすでに何人かに服を脱がされそうになっている。10人か……。こんな人数相手に戦うのは初めてだな。でもよかった、20人相手を想定してトレーニングを積んできたから何とかなるとは思うけど、時間をかけてられないな。
俺は一足で一人の前に接近し、掌底を顎をぶち込む。すぐに隣の奴にハイキックを決めて壁に激突させる。
「時間がないから全力で行くぞ!青山すぐに助けてやるからな!」
青山を掴んでいる2人に狙いをつけ腹に一発、顎に一発拳をぶちかました。一瞬のできことだったのでその場に残っている6人の男たちは後ずさっている。
「見て分かっただろう?こいつらにみたいに一瞬でこうなる。だから大人しく降参しろ」
そう告げると一人が逃げ出していった。これで残りは5人。
「ふざけるな!よし、俺たち全員でいくぞ!」
同時に五人が襲い掛かってきた。一人が殴りかかってきたのでそれに合わせてカウンターで沈め、直後に二人がタックルで俺を倒そうとしてきたのでそれをひょいと避けた。そこを蹴りかかってきた一人に対して脇腹に一発拳を入れて吹き飛ばす。出遅れた一人は四人がやられると思わなかったのだろう。唖然としていたのでそのまま顔面に拳をぶちこみ倒れ込んだ。タックルをしかけた二人が起き上がろうとしたところを蹴り二発をお見舞いして全員倒した。
「後藤君後ろ!」
後ろを向くと先ほど逃げ出した男がナイフを持って突撃していた。それをかばおうと青山が俺の前に出てきたのでとっさに青山を引っ張ったところまではよかったけど、運悪く俺の脇腹にナイフが刺さる。
「これでお前は終わり……ふげっ!」
アッパーカットを決めて相手は気絶。それにしてもへまをやってしまった……。めちゃくちゃ痛いなこれ!
「後藤君!大丈夫!?このままじゃ後藤君が死んじゃう!」
「大丈夫だ青山。このまま北島のところに突入する。すぐに優佳で出てくるだろうから優佳を連れて校舎まで走れ!警察と先生には連絡済みだ。」
「でも、今のままじゃ後藤君が、後藤君が……」
「いいか青山、一番初めに言った通り、優佳が無事ならそれでいい。俺が死のうが今のあいつなら悲しむことはない。だからこれはお願いだ。優佳と合流したら絶対に校舎まで走るんだ!」
「分かった!その代わり絶対に死なないでね!」
「まかせとけ!」
痛みに耐えながら俺は北島達のいる部屋のドアを開けた。ベッドの上で北島の顔が優佳の顔の近くに、そして優佳の手が北島の顔を押さえており、二人がこちらを見ていた。あれはおそらくキスでも強引にしようとしてたみたいだな。
「やっぱ実戦ってのは何が起こるか分かんないのな。色々想定してても想定外のことが起こる起こる。これまでがよっぽど運よかったんだな」
青山の前ではかなりカッコつけてたけど、痛みはハンパないし血が出てるからか意識が朦朧としている。
「なんだよ、10人もいるから大丈夫だって思ってたけどまさか全部倒してくるとはな。すごいじゃねえか、後藤!でもその感じじゃ満身創痍って感じだな」
「ああ、刺されたのは今回が初めてだ。こんなに痛いとは思ってもみなかったわ」
「しょうがねえ、俺が今からお前ぶっ殺して楽にしてやるよ!」
北島がベッドから降りて俺の脇腹目がけて蹴りを入れてきた。まあ弱ってるところを攻撃するのは当たり前だよな。俺は北島の蹴りを受け止めてそのまま足を持った。
「優佳!急いでここを離れろ!外で青山がいるから合流して逃げろ!」
足を持ったまま北島に飛び込み馬乗りになる。
「警察と先生には連絡済みだ!だから気にせず逃げられるところまで逃げろ!こいつやっつけたらすぐにそっちに向かうから安心しろ!」
優佳は頭を縦に振るとベッドから下り外へ駆けていった。
「よし、これであとは警察が来るまで俺とお前の我慢比べだ!」
※※
「もう不安で不安で仕方ねえよ!早く退院させてくれよ!もう大丈夫なはずだろ?」
入院生活3週間目を迎えた俺は見舞いに来てくれた青山に文句を言っていた。
「何言ってんの?警察しか呼ばずに救急車呼ばなくて死にかけた奴が言うセリフじゃないでしょ?まだ傷だって完全に治ったわけじゃないんだから大人しくしときなさい!」
「でもよ、優佳の身に何か起きたら気が気でねえよ!」
「大丈夫、学校の中では私が常に一緒にいるし、登下校は車で送迎してもらってるから何も起きないよ。それにもう後藤君のお役はご免になってるでしょ」
優佳と青山が逃げた後、俺は警察が来るまで気を失わないように気合で北島と揉み合っていた。警察が来て逮捕された北島を見て俺は意識を失い、こうして入院することになった。
これまで優佳に気づかれることなく活動できていた俺にとっては初めての失敗だった。と同時に優佳が不自由なく生活できるようにするという俺の目標が崩れ去ったのであった。
俺が意識を取り戻した直後に見舞いに来てくれた青山の話では、優佳は怖くて外に出られない状態だったという。そんな思いさせたくなかったのに……という俺の罪悪感はハンパなかった。
そして青山から「これから優佳は自分で身を守る方法を考えないといけないから俺がやってきた活動は終わらせないといけない」と告げられた。
俺はそれを聞いて納得してしまったんだ。だから「もう俺のお役はご免だな」って呟いたのを青山が聞き逃さなかったせいで本当に俺の活動は終了することになってしまったんだ。両親からも優佳のお父さんからも「今までご苦労だった」と労われ、俺がこれまでにやってきたこと全てが優佳の耳に入ることになった。
せめて俺がやってきたことについては言わないでいて欲しかった。めちゃくちゃ恥ずかしかった。そしたら優佳が急に学校に復帰すると言い出したらしく、俺は今不安で仕方がない。また何か起きたらどうしようかと自分のことより優佳の身の安全が気になって仕方がない。
「後藤君はね、もう少し自分の幸せのこと考えた方がいいよ。そうじゃないと痛い目みるからね!」
青山はスマホを見ながら「今日はこれで帰るからね」と言って部屋から出ていった。基本的に俺の見舞いには両親と優佳の両親、青山以外来てくれていない。まあ学校じゃ陰キャで通してたからな。今ごろ存在すら忘れられてる頃じゃないか?なんて考えていたらコンコンとノックがした。返事をするとやってきたのは優佳だった。
「え?ちょっと待って?なんで優佳が来るの?意味が分からない」
「は?なんで私がお見舞いに来るのがそんなにおかしい?」
「いや、おかしくはないんだけど……。いやおかしくはないですね、すみません」
「分かればよろしい!」
そんな睨まれたら何も言えなくなっちまうよ!まだ恐ろしい顔でこちらを見る優佳を目にして俺は背筋を伸ばして正座した。
「いや、そんな病人がかしこまらないでよ!リラックスして!リラックス!」
「そんなに怒ってる顔してたらリラックスできるもんもできねえよ」
ハッとして急に元気がなくなる優佳。ごめん、そんな落ち込まなくてもいいじゃん。
「ごめんね、私のせいでこんなことになったのに……。それに今までのことも全部教えてもらった。何と言ったらいいか……。本当にごめんなさい!」
優佳が深くお辞儀をして謝罪する。
「頭を上げてくれ、大層なことはしていないから」
「それと、私を守ってくれて今までありがとう!」
「いいんだ、気にしないでくれ。俺が好きでやってたことだから」
「でも、だよ。なんで私にそこまでしてくれたの?しかもどうして私に黙ってたの?」
「それは……」
君が大好きだからとは言えなかった。本当にどうしようもなく大好きなんだ君が。君のためなら俺は何だってできるんだ。君が怖い思いをしないように、何不自由なく本当に幸せに生きて欲しかっただけだよ。
「言いたくないって顔だね。別に言わなくてもいいよ。いつか話してくれるならね。でもね、ひとつ分かっておいてほしいことがあるの」
「何?」
「私の幸せって何だと思う?」
「え?質問に質問で返されるってどういうこと?」
「いいからいいから、何だと思う?」
「全然分からない。楽しいことに包まれた生活とか?」
「こういうことだよ!」
ちゅっ!
優佳が突然に俺にキスをした!?え?どういうこと?
「好きな人といつまでも一緒に、おじいちゃん、おばあちゃんになるまで一緒にいることだよ!だからもう私のために死んでもいいなんて言わないでね!」
『後藤君はね、もう少し自分の幸せのこと考えた方がいいよ。そうじゃないと痛い目みるからね!』
先ほどの青山の言葉が頭の中でリフレインする。
「そうだな、自分の幸せについてもう一度考え直した方がよさそうだな」
お読みいただきありがとうございました。
別視点の話もありますので、そちらもお読みいただければ幸いです。