別れの浜辺
花火の余韻が夜空に残る中、私たちは静かに浜辺を歩いていた。波の音が遠くから優しく響き、潮風が私たちの髪や衣服をそっと撫でていく。夏の夜の海は、どこか寂しさを感じさせる一方で、その静けさの中に深い美しさを宿していた。
あなたの手が私の手を優しく包み込み、その温もりが心にじんわりと広がっていった。月明かりの下で、私たちの影が長く砂の上に伸びている。まるでこの瞬間が永遠に続けばいいと願うかのように、私たちはその影を見つめながらゆっくりと歩いた。
「この夜が終わるのが、こんなにも寂しいなんて思わなかった」と、私が小さな声で呟くと、あなたは静かに頷いた。
「私も、こんなに楽しい時間が過ぎるのが早いとは思わなかったわ」とあなたは言った。あなたの声には少しだけ切なさが含まれていて、その響きが私の胸に刺さった。
海の波が、ひとつまたひとつと岸に寄せては返し、そのリズムが心に残る。私たちはその波の音を聞きながら、歩き続けた。お互いの言葉は少なく、ただ一緒にいることがこの時間を特別なものにしているようだった。
「これから先も、またこんなふうに一緒に過ごすことができるのかな」と、私が少し不安になりながら訊ねた。
あなたは少し考えてから、優しく微笑んで「わからないけれど、もしまたどこかで会えるとしたら、そのときはきっと、もっと素敵な時間を一緒に過ごせると思うわ」と答えた。その言葉は、まるでこの夜の終わりを穏やかに受け入れるための慰めのように感じられた。
私たちは浜辺の端まで歩き、そこで立ち止まった。目の前には、まだほんのりと残る花火の煙が、夜空にわずかな光の痕跡を残していた。それを見ながら、私は心の中で涙をこらえていた。
「さようなら」と、あなたが静かに言った。その言葉は、私の心に深く刻まれ、まるで波のように押し寄せてきた。その瞬間、私はこの別れがどれほど辛いものであるかを実感した。
「さようなら…」と、私は涙を堪えながらも、ぎこちなく答えた。あなたの手を強く握りしめ、心の中で何度も「ありがとう」と呟いた。
あなたは一歩後ろに下がり、少しずつ距離を置いた。あなたの姿が夜の闇の中で少しずつ遠ざかっていくのを見送りながら、私はその背中に小さな願いを込めて、もう一度だけ心の中で呼びかけた。
「また会える日が来ますように。」
あなたが振り返って微笑むその瞬間、私の心の中で小さな光が消えていった。花火のように、儚くて美しい一夜が終わりを迎えた。
波の音がまた、私の耳に静かに響き続ける。私の心は、その音とともに、この夜の思い出を大切に抱きしめていた。