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スターシップ☆オペレーション

作者: よるきつね

「諸君! エッチなのは……いけないことなのか!?」

 コンテナの上、大きな声で人々に問いかけるのは二十代そこそこの男性だった。

 宇宙戦艦ワールドビクトリー号、乗組員全員に問いかける。

 その男は艦長である。

 片手を大きく振り上げ、叫ぶ。

「否! それは人として当然のことであり、抑えきれないものなのだ! ゆえに我らはここに集い立ちあがらんとするのである!」

 艦長の演説に、広い格納庫に集まった男たち全員が歓声を上げる。少年から年寄りまで、あらゆる星、あらゆる国の人種がびっしりと格納庫の中にそろっている。

 彼らの思いは一つにまとまっていた。

「我々は火星条約順守の下で女の子のちょっとエッチな姿を見るために戦いを起こす!」

 艦長はその長い台詞を、大声で息継ぎもせずに言い放った。

 演説を聞く者たちの熱はそれを受けてどんどん高まっていく。それぞれの希望が一つとなり、大きなうねりとなって宇宙を襲おうとしていた。

「作戦名は」

 そして艦長は、今までで一番大きく声を張り上げる。

「スターシップ・オペレーション!!」



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 窓の外を見れば、視界の後方へと流れゆく星々。

 宇宙戦艦ワールドビクトリー号の乗組員の一人であるカイは、隣に座っている顔に傷のある男に問いかけた。最新鋭宇宙戦艦の中、戦闘要員である彼は暇だったのだ。

「艦長、どうやってこの戦艦を手に入れたんだろうな……」

「世界中、変態ばっかってことだろ」

「艦長、黙ってりゃ顔は悪くないのにな。なんで女の子にもてないんだろ」

「ま。あんな性格だしな」

「そりゃそうか。あとそうだ」

「んん?」

「作戦名、別に悪かないとは思うけど、なんでスターシップ・オペレーションなんだ?」

「はっ、女の子を捕まえてちょっとエッチな姿を見させてもらおう大作戦……とかがよかったのか?」

「あー……悪かった。気にしないでくれ」

「ん」

 そんな話をする二人を乗せて、宇宙戦艦ワールドビクトリー号は星の海を進んでいく。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



「諸君! 我々の航宙は三週間目に入った! しかし、残念なことに……可愛い女の子しか乗っていない宇宙船はなかなか見つからなかった……!」

 当たり前だ。

 そんな雰囲気が漂ったのは一同が疲れていたからか。

 だが、しかし、船長はこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべて演説を続けている。さすがに不思議に思う者も出始め、戸惑いは周囲へと感染していく。そして徐々にざわめきが大きくなっていく中、艦長は告げた。

「聞きたまえ、諸君! 良い知らせだ! 我々の、我々の求めていた宇宙船が見つかったぞ!」

 ざわめきが最高潮に達する。そして、ざわめきが歓声に取り変わるまでにさして時間はかからなかった。

 そこらかしこから上がる各々の喜びの叫びが、宇宙戦艦ワールドビクトリー号を揺らし、宇宙へと響き渡る。

 実際には、それほど大げさなものでは、なかったが。なにより空気のない宇宙で声が響き渡ることなど、ありえなかったが。なんにしろ興奮する人々にはそんなこと関係なかった。

「私の古くからの友人で、確かな筋からの情報だ。ワグダラ星サンタラブラ国所属の輸送用宇宙船ホウセンカが我々の目標となる! かの船には国の内部事情によって女の子しか乗っていない」

 熱狂の渦の中、艦長は話を続ける。

「ホウセンカは今、母星であるワグダラへの帰路へ着いている。しかもワールドビクトリー号が現在進んでいる宙域からほど近い場所を通過しようとしているのだ」

 そして、びしっと明後日の方向を指差し、乗組員を見回す。

 言った。

「喜びたまえ。ホウセンカと接敵する推定時刻は20分後だ」

「「「「「「「「「「に、20分後ぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」」」」」」」」」」」

 乗組員全員、総勢何百名もの声が一つになった。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



「なあ、うちの艦長大丈夫だと思うか?」

 あちこちから聞こえてくる慌ただしい足音を聞きながら、カイは顔に傷のある男に訊ねた。

 顔に傷のある男は不思議そうな顔をする。

「なにがだ?」

「なんか頼りないとこがあるような……」

「ふん、心配すんな。あれでも昔はマレー海戦の魔王とか呼ばれてたらしい」

「……いや、宇宙戦艦の艦長が海戦の魔王とか呼ばれてても、まるで安心できる要素がないんだが。なんで宇宙戦じゃないんだ……。いや、そうじゃなくてさ。いきなり20分後というのはおかしいんじゃないか?」

「おかしくはないだろう。この機会を逃したらホウセンカは星に戻っちまう」

「そんな急いでも作戦が失敗するだけじゃないのか。もっと準備を整え、またホウセンカが宇宙に飛び立った所を狙えばいい」

「そのことか……。そんなに待たされちゃ我慢できないからだろ」

「そんな、艦長ってのは冷静沈着であるべき――」

「おっと、勘違いするなよ。我慢できないのは艦長じゃない。俺たちさ。これ以上成果がなければ乗組員からも離脱者が出る。艦長はその辺が分かってんだと思うぜ」

「そう、か……。最低だな、俺。上官を批判するようなこと言って」

「いや、そうでもないだろ。だって」

「…………?」

 眉根を寄せるカイに、顔に傷のある男は意味ありげに笑って言った。

「――本当に艦長が我慢できないだけかも、しれないしな?」

 ホウセンカとの戦闘まで、後15分。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



「敵船との相対速度はいまだ0のまま一定で保っています。ワグダラまで7500」

「くっ、敵船の加速器によって確立偏在の崩壊が始まりました! このままでは――」

「あわてるな。STOK2番と3番を射出。40秒後にハンブリカル式減衰器を作動させろ」

「す、STOK、2番、3番射出っ」

「艦長、独立性EMIの有効時間が5分を切りましたっ」

「わかっている。いまだっ、減衰器を作動しろ!」

「減衰器作動しました! 包囲誘導によって偏在の崩壊が収束していきます!」

「報告っ。敵船よりBPLM! 包囲誘導を破壊するつもりです!」

「減衰器の出力を上げろっ。二十秒後にEMIBを射出だ。ASHを準備しておけ」

「も、目標宇宙船から高エネルギー反応!? そんな馬鹿なっ」

「っ、LCM、始動しろ――!!」

「う、うわあああああああああああああああああああああっ!?」


 一瞬、白い閃光が視界を埋めてなにも見えなくなった。それからすぐに周りの景色が戻ってくる。

 カイは隣に座っている顔に傷のある男につぶやいた。

「す、すごいことになってるな」

「だなぁ。星間通信を遮断して減衰器でワープを封じた後、銛をさして動きを止めるだけのはずだったんだが。だいたい、敵船に武装はないって話じゃなかったのか?」

「よくわかんないけど、詳しいな。あんた」

「いや、これくらい普通だし。ちっ……にしてもさっきのは火星条約違反だろ」

「さっきの?」

「レーザー」

「あぁ、なるほど……。最初の艦長の降伏勧告で蹴りがつけばよかったんだが」

「無理だろ、おとなしく降伏してちょっとエッチな姿を見せなさい、とか。独立性EMIまで用意して何やってんだか」

「うん、無理だな」

 カイも頷く。

 顔に傷のある男はカイの返答に満足したような表情を浮かべていたが、慌てて窓の外を覗きこんだ。

「ASHが命中した……! いよいよ俺たちの出番だぞ……」

 その言葉に、カイはうつむいて唇を噛み、そしてごくっとつばを飲み込んだ。そして、誰にも聞こえない小さな声で、

「くそっ。なんでおれは、こんなところにいるんだろう……」



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 ホウセンカのワープは減衰器に封じられ、動力も停止している。さらには電磁妨害によって本国へと通信を取られる心配もなかった。

 だが、ワールドビクトリー号の乗組員にとって、これは最初の段階が終了しただけに過ぎない。

 これから始まる制圧戦。それこそが本当の戦いなのである。

 鉄のひしゃげるような鈍い音に、カイはどんどん緊張を高めていった。その手に持つのは信頼すべきたった一つの武器。

 デッキブラシである。

 木の柄を両手でつかみ、カイは顔に傷のある男に訊ねた。

「なあ、やっぱりデッキブラシはおかしくないか……?」

 カイが手に持っているのはただの掃除用のデッキブラシだ。あいにくビームも出ないしロケットパンチよろしく先っぽが飛んでも行かない。これから戦闘をするのに、心細いことこの上ないのだ。

 だが、訊ねられた顔に傷のある男は不思議そうだった。

「どこがおかしいんだ? まさか女の子たちをビームソードで切り殺すわけにもいかないだろ。それに条約違反だ」

 たしかに説明されれば分かるのだが。それでも納得しがたいものがあって、カイはうなった。できるだけ女の子は傷つけない、それはいい。強力な武器使用は火星条約によって禁じられている、それもいい。

 だが、この広い宇宙の片隅、宇宙船の中でモップを持ってぽかぽか殴り合うのは、なんかちがうんじゃないかなーなどと思えてならなかった。

 そんなカイの葛藤の中、敵の宇宙船とのドッキング作業が終わる。

 ガダンッ!

 緊張と興奮に誰も声を発することができなかったが、乗組員へ向けて艦長が全員を鼓舞するように大声を張り上げた。

「いいか諸君、我々の夢は目の前だ! 臆することはない。――わたしに続けぇぇええええええええええええ!!」

 うぉおおおおおおおおお!!

 掛け声とともに男たちはなだれ込んでいく。その怒涛の勢いに少し遅れながら、カイも歩きだした。

「てか、艦長が真っ先につっこんでいったんだけど……誰も止めないのか?」

 指揮官なのに。そう呟いてはみたものの。

 女の子のことで夢中になって我先にと敵船へ突撃するクルーたちへ、その言葉が届くわけはなかった。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 戦闘が始まる。

 ホウセンカの格納庫は、意外にもワールドビクトリー号の格納庫よりも小さかった。しかし、顔に傷のある男はそもそもワールドビクトリー号とホウセンカ自体大きさが違うのだからと考えなおす。ワールドビクトリー号はでかすぎだ。

 もうすでに彼の仲間は女の子たちとデッキブラシで打ち合っていた。女の子たちも、デッキブラシである。またもや条約を無視して光線銃などで撃たれたらどうしようかと思ったが。

 そして、顔に傷のある男もまた戦っていた。

「ななな、なん、で、こんなひどいことをぉー……!?」

 目に涙を浮かべふるふると震えながら、かろうじて少女は攻撃を防いでいた。その少女へ、顔に傷のある男は容赦なくデッキブラシを打ち込む。

 手加減する理由がなかった。いくら相手がか弱くても、これは戦闘であり手加減すれば自分を危険にさらすだけだ。

 少女がいくら助けを請おうとも、攻撃をやめる気はない。

 だが、少女は他にできることがないかのように、

「いやぁ、ここ怖いよ……かかか顔に傷あって、ふえーん……」

 ぴたり。

 手加減する必要はない。だが思わず、顔に傷のある男は攻撃を止めた。

「お前に、わかるか……?」

「え……は、はい?」

「この顔の傷のせいで……女の子に怖がられ続けた俺の気持ちがわかるかと言ってるんだぁあああっ!!」

「ご、ご、ごめんなさいぃ!?」

 打つ、打つ、打つ!

 なにかにとりつかれたように、力任せに打ちまくる。それら全てを少女がさばいて見せたのはあまりに強運としか言いようがなかったが、それでも最後にはデッキブラシを取り落とす。

 ブラシまで失って、少女は怯え震えていた。だが、はっとしたように表情を変えた。少しづつ少女の表情から強張りが消えていく。

 そして、色々納得してすべて解決したように喜びの笑みを浮かべ、にっこりと言ってきた。

「えっと、あの、つまり…………可哀そうな人なんですね?」

「俺を憐れむなあああっ!?」

「ふえええええっっ!?」

 気迫に押されて少女が腰を抜かす。

 床に倒れて後ずさる少女へと、顔に傷のある男は猛烈な怒りのままじりじりとにじり寄った。少女の口から小さく悲鳴が漏れる。

 乗り込んできた敵と戦っていた他の女たちも、少女の危機に叫び声を上げた。

 だがもう遅い。

 それらを無視して顔に傷のある男は少女に飛びかかろうとして――後ろから蹴り飛ばされ、床に転がった。思わぬ衝撃を受けてうめく。そんな顔に傷のある男を即座に取り囲んだのは、彼の仲間たちだった。それぞれ怒りの声を上げながら顔に傷のある男を殴り、蹴る。

「お前は、な、な、なにをしようとしてたんだ!?」

「不必要に女の子に手を上げようなどと……」

「条約違反だぞ!」

「鉄槌を喰らえいっ」

「ちょ、まっ、やめっ、悪かっ、ぐふぅ…………」

 謝り、腕で身体を守っていた顔に傷のある男がぐったりと意識を失う。だが顔に傷のある男の仲間たちは、まだそのことに気付いた様子はなく、

「……え? え? え?」

 飛びかかられそうだった少女も、そして少女の仲間たちも、驚いたように固まりながらその光景を見続けるしかなかった。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 あちこちで戦闘の音が響いている。

 ブラシで打ち合う音、悲鳴。そして、人間が床に倒れる音。聞いていてもいい気分になれず、かといって戦う気にもなれずに、カイは歩き続けた。

 そうしてたどり着いたのは、調理室。

 目を疑った。混戦の中、屈強な男たちが次々と倒れ伏していく。

 しかも、それをなしているのはひときわ小柄な少女だった。両の手にデッキブラシではなく小さな風呂掃除用のバスブラシをそれぞれ構えている。その二刀流と俊敏性を生かし、少女は荒ぶる暴風のように敵を蹴散らしていく。

「情けない男どもめ! さあ、次のボクの相手は誰だい!?」

 響き渡る鋭い声。男たちは恐れおののき、誰も彼女に向かおうとしない。

 カイは――その少女を知っていた。

「おれが……おれが相手だ……! 構えろッ、ヒャッカァっ!!」

 少女が振り向く。

 鋭い眼差しがカイを射抜き、それは戸惑いに変じた。

「え……? カイ、カイだよね! どうしてこんなところに!?」

「うおおおおおおおおおっ」

 ヒャッカの言葉には耳をかさず、突進しデッキブラシを打ち込む。未熟な太刀筋。撥ね退けられるかと思いきや、ヒャッカは困惑して勢いを失い、ただ防戦するだけだった。

 激しい衝動に突き動かされ攻撃し続ける。

 次の瞬間、身体に痛みを感じた。

 蹴られたのだと気付いた時には、ヒャッカはすでに距離を取っていた。手近にあったまな板を放り投げるも、軽々と避けられる。

「やめてよっ。カイなんだろう!? どうしてこんな奴らと、こんなところにいるのさっ!?」

「だまれっ!」

 ヒャッカが他の奴らの争いを避けた瞬間、カイは距離を詰めた。打ち込むデッキブラシは、さして重量もなさそうなヒャッカのブラシに払われ続ける。

「どうしちゃったの……やだよ、ボク……。やめてよぉっ」

「うるさいっ、おれは……っ」

 ヒャッカの悲痛な叫び。聞いてはいけない。聞いたら自分は駄目になる――。

「ずっと、優しくしてくれたじゃないかっ。小さなころから仲良くして、ボクたちは友達だと思ってたのにっ」

「…………っ」

 聞くな。聞いてはいけない。

「カイが手伝ってくれたから、ボクは夢をかなえられたんだ! カイのおかげで、この宇宙で働くことができるのにっ!」

「そして、地上に置いて行かれたおれはどうしたらいい!?」

「…………!?」

「一度も帰ってもこないで、宇宙に夢中になって……!」

「え……」

「お前に、お前に置いて行かれたおれは……! どうしたらいいんだよぉっ……!」

 涙があふれる。泣いてはいけない。そう思っても感情を抑えることができなかった。もう、ブラシを振るう力すら入らない。

 ヒャッカの戸惑った声。

「そんな、うそ……。カイはなにを言って……」

 そう言って身体を震わせるヒャッカの姿すら、涙でぼやけ始める。

「カイがこんなことをしてるのは、全部ボクのせいなの……?」

「…………」

 からんと、音が鳴った。よく見えなかったが、すぐにヒャッカがブラシを落としたのだと気づく。いつの間にか調理室は静まり返っていた。

「いいよ」

「……?」

「カイにだったら、なにをされても……」

 違う。

 揺れる視界の中、カイは口には出さずつぶやいた。

 本当に望んでいたのはこんなことじゃなかったはずなのに……。ただヒャッカに笑っていて欲しかっただけなのに……。

 自分は、なにをやっているのだろう。

 カイはただ、後悔に打ち震えて呆然と立ち尽くした。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 艦橋。

 その奥から野太い悲鳴が聞こえ、男たちが飛び出してきた。閃光が瞬く。艦長は嫌な予感がした。

 あれはAT-GH443のビームガンではないか?

 少女と男たちの声が、無意味に言い争っている。

「そ、そんなもので撃たれたら死んでしまうっ」

「ええ。死になさい」

「さ、最低だ!?」

「最低なのはあなたたちです」

 いやまあ、もっともだが。

 銃を構えて出てきたのは、年端もいかない少女のように思えた。だが服装が他の乗組員とは違う。

 艦長はつぶやいた。

「あれが船長か……」

 可愛らしい少女だった。長い髪を後ろで二つにわけてツーテールにしている。

 光線銃に脅えて後ずさりする男3人組の一人が、みっともなく叫んだ。

「か、火星条約違反だぞ!?」

「知っています」

「条約を違反して、どうなるか分かっているのか!?」

「あ、あなた達に捕らえられるよりはましです」

 それももっともだが。

 艦長は少女の前へと進みでた。男3人組が情けなく後ろに隠れるのは無視して。

「まあ、待ちたまえ」

 艦長は少女を説得するつもりだった。艦長は説得に対して、誰にも及びつかないほどの絶対的な自信があった。艦長に説得されない人間などいようはずがない。

 戦う必要など、ない。

「心配しなくても、不埒なまねをしようというのではない。私はただ」

 そこでいったん言葉を区切り、艦長は冷たい視線を向けてくる少女に言った。

「ちょっとエッチなポーズをとってもらいたいだけだ」

「じゅうぶん不埒じゃないですか!」

 即座に言い返され、あれ、なにか説得の仕方間違えたかなぁ、などと艦長は首を傾げた。

 そんな隙を狙われてビームを打たれるも、すんでのところで避ける。後ろがうるさいが、まあ大丈夫だろう。

 乱射される光線。それを避けながら艦長は一気に少女へと詰め寄り、光線銃を弾き飛ばす。

 そのまま少女を拘束しようとして、

「やめてください、このへんたいっ」

 びくり。艦長は身体を震わせ動きを止めた。

 少女自身驚いていたが、おずおずと言ってくる。

「……へ、変態」

「ぐっ」

「この人間の底辺っ」

「うぐっ」

「宇宙のゴミっ!!」

「ぐはあッ……」

 容赦ない言葉の連続攻撃に、膝をついて倒れ伏す艦長。

 その光景に、周囲の3人がざわめいた。

「艦長がやられた!?」

「……このままじゃ、ほんとにゴミになったりして」

「なぁ、もしかして艦長、喜んでるだけじゃないか?」

 口々に部下たちが言うが、やはり無視。

 立ち上がる!

「まだだ。まだ私はやられるわけにはいかない……っ!」

 徒手空拳のまま少女に詰め寄る艦長。

 対して少女は懐から小さなブラシを取り出す。

「ど、どうしてそこまでこだわるんですか……。むきになるんですかっ」

「人がエッチなことにかける想い。それは人それぞれだ……。だが、あえて言おう! 少女がエッチな出来事に直面して恥じらう表情、私は――そんな姿が大好きだ!」

「う、宇宙の果てで、勝手にやってればいいでしょうっ!? どうして私が巻き込まれなきゃならないんです……!?」

「決まっている!」

「…………!?」

「――それは君が、かわいい美少女だからだ!!」

 艦長の心からの叫びに、少女が驚いて動きを止めた。

「え、あ、う……?」

 顔を赤くして、ぎくしゃくと少女は艦長から距離を取る。その耳まで赤くなった表情に艦長は心の中でつぶやいた。

(かわいい……)

 恥ずかしさに堪えきれなくなったのか、少女が顔を隠すように俯いた。

 その俯く姿はまるでさなぎのようだ。そして艦長は確かに見た。少女の背から、まばゆく蝶の羽が広がっていくのを。

 少女の姿は、宇宙を羽ばたく妖精そのものだった。

 その姿を、大勢の人間が見つめていた。艦橋のモニターを通じて、少女の恥じらう様子が宇宙船ホウセンカ全体に中継されていた。

 もう、争いの声は無い。

 少女の可愛らしさに、動きを止め、じっと誰もが見入っていた……。



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪



 こうして、女の子のかわいさによってスターシップ・オペレーションによる騒乱は終結を迎えた。

 だが決して、人々からエッチな心が消えることは無い。

 いつか同志たちは、それぞれの夢のために再び立ち上がることだろう。

 エッチな想いが星の船に満ちるその時まで。

 さようなら、同志たちよ!

 また会う日まで!

 スターシィィイイイイップ・オペレーション!!



 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪

 ダッ、ダッ、ダバダバダッ♪


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