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釣人と河童

 ある日、釣人は河童を釣った。


 二十歳の誕生日を明日に控えた釣人は、どうせ祝ってくれる友人も恋人もいないし、ひとりで豪勢にお祝いしようとメインディッシュを釣りに来たのだが、いざ釣り糸を垂れてみると、河童が釣れてしまった。という塩梅である。


 釣人の傍らに座ってはいるものの、何を問いかけても答えない河童を見て、とりあえずリリースするのも哀れだと思い、そのまま連れて帰ることにした。


 さて、1Kの狭い家に帰ると、烏天狗がラジオを聴きながらマンガを読んでくつろいでいた。


 よくわからないことが続き、釣人は驚きの連続だったが、とりあえず烏天狗に質問してみた。


「君は誰? 何をしてるの?」

「お守りに来ました。長」


 その瞬間、釣れた河童が釣人に向かって襲いかかってきた。それを止める烏天狗。釣人は河童が釣れた、烏天狗が勝手に家の備品を使ってくつろいでいた等のことが重なって、何事も動じなくなっていた。


 しかし家のものが壊されるのは勘弁ならない。戦っている最中の二人に聞いてみた。


「君たちはなんなの?」

「長、あぶないので下がっていてください。貴方は、ぬらりひょん様の直系のご子孫様なのです」

「え、俺が?」

「はい。今夜12時を過ぎて、貴方が二十歳になると、正式に長の座が貴方に引き継がれます。それを良しと思わない勢力が、刺客を差し向けてきたのです」


 なんだそれ。そんなの聞いてないぞ。


「え。待ってそれってつまり、俺の親父がぬらりひょんだったってこと?」

「正確には、貴方のお祖父様にあたります。貴方のお父上は、理由あってその座を引き継いでおりません」

「その理由って」

「カリスマがあり、イケメンなうえに目立っていたので」


 うん?


「それは、俺がカリスマがなくイケメンでもなく目立ってないってことかな?」

「? はい。ぬらりひょんというのはそういうものです。貴方のおじいさんは、気配を消すことに長けている、それは素晴らしい妖怪だったのですよ」


 ぬらりひょんは、他人の家に勝手に上がって、お茶を飲んでくつろいでいても、家人に咎められることは一切なかったそうだ。


 釣人は愕然とした。今まで友達がいなかったことも、彼女が出来なかったことも、そもそもクラスで存在を認識されなかったことも、好きなあの子に「ごめんね、誰だっけ」と言われたことも全て、今ここで解決出来た。


 呆然としている間に、12時が過ぎ、釣人は目出度く二十歳になった。妖怪の長になったのだ。河童は悔しそうな顔をして、逃げていったが、烏天狗は追いかけなかった。何よりも、釣人が二十歳になったことが嬉しかったのだろう。


「おめでとうございます、長。これから、我々を貴方の手腕によって導いてください」


 妖怪の長である、新生ぬらりひょんは、逃げていった河童に対して叫んだ。


「待て、河童! 殺せ、俺を殺してくれ!」

 その願いが叶えられることは、もう、ないのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  切ないっ……! 圧倒的に切ないっ……!(カイジぽく言ってみました)  河童からの烏天狗、ぬらりひょん……展開がスピード感あっていいですね。 ぬらりひょんの説明、以前水木しげるさんの本で読…
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