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その15





 トリスタンは呼び出すとすぐにやってきた。休暇の時期というのもあったのだろうがなんだか待ち構えていたような素早さの行動にローズは驚いた。


 ナディアが自分の実家へと旅立っていき、その日のうちにクライヴに手紙を出してもらうと、里帰り先に手紙が来てからすぐに荷物を纏めてやってきたのでなければおかしいぐらいのスピードだった。


 しかし、そんな彼だったが、到着してすぐに挙動不審なクライヴに連れ去られ、彼らは何やらひそひそとやり取りをしているようだった。


 久しぶりの親友にローズだって握手の一つだってしたかったが、彼らには彼らの話もあるだろうと特に何も考えずにローズは自身の部屋で、因縁の下着を見ながら、すべての始まりであるあの日の事を考えてた。


 何の変哲もない日だったのに、あの出来事があってから、ライラと話をしたり、先輩にアドバイスを求めたりと色々いそがしかったが、その忙しさもなんだか学生の時みたいで、少しワクワクしていたのは秘密だった。


 ローズにとって自分が解決できる範疇の事であるなら、頭を悩ませてあれやこれやと考えたりするのだが、もはやこうなると、ローズの手には負えない。それが少しだけローズの心を軽くさせ、結局はどう結論がつくのだろうかと他人事のように考えた。


 高く結い上げたポニーテールを左右に揺らして暇な時間を過ごしていると、使用人がきてやっとトリスタンが呼んでいると言われ、ローズは久しぶりの親友と話ができることに浮かれて、慣れ親しんだ廊下をずんずんと歩くのだった。



「やあ、ローズ。いつぶりかな」


 扉を開くと、半年前より少しだけ大人びたトリスタンの姿があった。自分の屋敷であるのに、なんだか招かれたような妙な構図だったが、ローズはそんなことは気にせずに、目を細めて、口角をあげて、差し出された手をガシッとつかんだ。


「半年ぶりぐらい!久しぶりトリスタン」

「ああ」


 それからぶんぶんと振って、ローズは珍しく感情をだしながら気の知れた親友との再会を喜んだ。


 しかし、そこには今回、彼を呼んだ原因である話をするために夫のクライヴもいるはずだったのだが、てっきりこの場にいるものだと思っていたのにその姿が見当たらない。


「あれ、クライヴは?」

「私たち二人で話ができるように外しているってさ」

「そうなの……居てくれた方が話が早いのだけど」

「まあまあ、とにかく腰を落ち着けて話をしようか」


 そんな風に誘導されてローズは客室のソファーセットに浅く腰かけた。向かい合ってトリスタンは彼らしい笑みを浮かべて、ソファーの座面に沈み込む。


 彼は半年ぶりに会ったけれども、少し大人の男性らしくなったように感じる。けど相変わらず優男然として飄々とした雰囲気を醸し出す不思議な人だった。


 実際問題、彼は強くない、強くないのだが、何かとローズとクライヴの間を取り持つ物好きな男だ。そして、頭が切れる。将来は騎士として数年働いたあとに戦略家になるのだといっていたし、人を使うのがうまい。


 そんな彼だからこそ、ローズたちは問題があった時に大体彼に相談した。そうすると大概の場合は名案を出してくれる。


 たしかに将来は優秀な戦略家になるだろうと思うのだが、いかんせん学園卒業から、しばらくたった今、彼に思うことは。


「……君、なんか前より胡散臭くなった?」


 つい口をついてそんな言葉が出た。知り合い程度の相手ならそんなことを唐突に言ったりしないが、ローズは彼ならいいだろうと思い、口に出した。だってそのへらっと笑っている薄っぺらい笑みを学生時代だって薄っぺらいと思っていたが、今は拍車がかかって、ぺらっぺらだった。


 そんなローズの一言にトリスタンは少し目を見開いてそれから、くくっと喉を鳴らして笑う。


「やっぱりローズは正直だね。自覚はないけどローズがそう言うんならそうなんだろうな」

「なんだ、分かっててやってるんだと思ってた」

「ないない、そんなこと。これでも泥臭く仕事も私生活もやってるつもりだよ」

 

 言いながらトリスタンは困ったように眦を下げた。しかし、なんというかそういう風に言うところも仕草も全部がさらに胡散臭く思えてて、わざとだろうと思う。


 こういう所のある人だというのは知っているので気にも留めないが、相変わらずのその態度に、久しぶりとの再会だとしても、気の許せるローズのしている彼なのだというのは変わらないと思うのだった。


「そういうローズは……綺麗になったね」


 それから、今度は真に真面目そうな顔をして、口説くようなことを言うのだった。


 それを聞いてローズはどんな反応をしたらいいのかわからずに、眉間にぐっと皺を寄せて、意味が分からないと彼を見つめる。


 ローズの反応を見て、数秒は真剣な表情を作っていた彼だったが、急にニコーっと笑って吹き出す。


「っくくく、ははっ、はははっ、変わんないなぁ、ローズ。君たちのそういうところ、本当に好きだよまったく」

「なんだ、冗談?」

「いいやぁ? 本気だよ。ローズはきれいだ。昔からね」

  

 冗談でもなくそういわれて、ローズはやっぱりこの男は不可解だと思いながらも、楽しげに笑う彼の事を懐かしく思ってしまう。


 学生時代はあんなに毎日会っていたのに、結婚したとたん離れてしまった友人だったが、こうして会えばまたあの時のように接することが出来るのはうれしい事だった。


 けれどもそんなローズの気持ちとは裏腹に、トリスタンは少し笑ってから、真面目な顔を取り繕い、真剣なまなざしで聞いてくるのだった。


「でも今は、クライヴのお嫁さんだからね。私が二人の邪魔をすることはないよ。それで、何かあったんだろ、聞かせてくれるかな」


 揶揄うような口調はやめて、トリスタンは自分の腿に頬杖をついてローズにそう問いかけるのだった。トリスタンのその切り替えにローズも真剣な顔をしてから、先程から気になっている扉の外に意識を向けて、今ではないかと考えつつ、事の次第を語り始める。


「実は━━━━


 もう何度目か分からない説明を彼にする。それに加えて今までの彼を呼ぶまでのナディアやライラ、カーラに話を聞いた経緯も伝える。


 トリスタンはローズが話をしている最中に口をはさむことは無く、真剣な顔をして聞いた。


 そのおかげでローズも話しやすく結局、浮気があるのかないのかという結論も気になったが、それに加えて、彼女が出てきてくれないかなと思い、ナディアが来ていた夜の出来事も事細かに話をした。






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