第8話 胸の内
〈宇良先輩はあくまでお芝居をしている。しかし、後ろめたい行為をした部員は全員、顔が真っ青になっている。宇良先輩にバレた……そう確信していると思う〉
王の前に行き、エミリーの母国である小国に伝わる重厚で静謐さを併せ持つ、王の受難、そして再生へと至る道程を描いた曲を歌う。
生気を失い土気色した顔に垂れる眉の隙間から、王の証である威厳のある眼光がエミリーを射抜く。そして王は力強くエミリーに伝えた。
「ありがとう」
その言葉が王の最期の言葉であり、王から唯一、感謝を受けたエミリー、そして彼女の夫であるフェリクセンが、一か月の喪が明けたあと、王、女王の座についた。
永く永く彼らの子孫の代まで王国は繁栄を築いた。
〈最後のセリフを宇良先輩が語り出す前に彼のそばに寄り沿い、軽く腕を回しふたりで遠くを見る仕草で即興劇を終えた〉
「すごーい、ちょっと鳥肌立っちゃった」
「さすが宇良くん、一年の子も良かったわよ」
拍手の中、宍戸部長とかわいい系男子、都成先輩が感想を述べる。
他の生徒は、感動するか下を向いているかの二通り……。
これでよかったのかな?
私の変わった声を、美声と置き換えるなんて、宇良先輩もすごいことを考える。
翌日から私への意地悪がピタリと止んだ。
宇良先輩が魔法でもかけてくれたようだ。
私は宇良先輩に感謝した。
だから、彼の距離感と私の距離感の差が次第に埋まっていく。
でもその距離感に胸臆を複雑にするものがいた。
「ねえ咲来さんって、晴のこと好きでしょ?」
「晴さん……って誰でしょうか?」
「やだなー宇良だよ、宇良晴《う ら はる》」
部活が終わって下校中、駅の構内で都成先輩とばったり会った。
都成先輩も私と同じく電車登校で、同じ方向だけど、一駅ですぐに降りてしまう。
ホームで電車をふたりで待っていると都成先輩がいきなりとんでもない内容を切り出したのである。
宇良先輩って、下の名前、お天気の晴れの晴なんだ。初めて知った。
それよりも都成先輩、なんてストレートな聞き方してくるんだろう。
違いますって言えば気が楽だ。
でも、この裏表のない優しくて親切な都成先輩には私の“気持ち”を捻じ曲げて伝えたくない。
「はい、そうだと思います」
「そっか~、ちなみにボクも晴のことが好きなんだ」
「はい?」
「友人として、ではなく晴のことを男性として好きなんだ」
「……」
とっさに返事ができなかった。
都成先輩と宇良先輩は演劇部員の中で、ふたりしかいない男子。
ふたりが、すごく仲がいいことはこの3ヶ月でよく知っている。
でも、友人として接していたはずの都成先輩の気持ちが、そういう感情を抱いていたなんて、ちっとも気が付かなかった。
どこまでも真っ直ぐなひと。私はこの都成先輩というひとを嫌いにはなれない。
「でもさ、咲来さん、これは正当な勝負、恨みっこなしで行こうね?」
「……はい」
かろうじて返事はできたが、都成先輩の気に障らなければいいんだけど……。




