第7話 先輩とふたりだけの即興劇(後半)
王は、ふたりの王子に語りかける。
我が願いを叶えたものに王の座を譲位すると。
第一王子は焦った。まさか父である国王がそのような世迷い言を口にするとは。
第一王子は父王が病で気が触れてしまったと、家臣のもの達を言い包めようとしたが、第一王子よりも第二王子フェリクセンが王の資質を備えていると知っている一部のものが、城の外に情報を漏らし、またたく間に国内はおろか近隣諸国まで王の言葉が駆け巡った。
第一王子は焦り、お触れを出した。
王の望みを叶えたものに莫大な褒美を取らせると。
〈宇良先輩は左手を胸にあて、右手を大きく横に振る〉
「しかし第二王子フェリクセンは困ってしまった」
兄が次の王になると思っていた彼には野心というものを持ち合わせていなかった。
それは王太子妃エミリーも同じだった。
彼女はただただ静かに暮らしたいだけなのに、周りが意地悪をしてくる
〈私は扉から離れ、先輩の方向へ向き直り、顔をうつむけたままで待機する〉
何百、何千人という人が城に押し寄せた。
皆、褒美に目が眩んだ人たちで、吟遊詩人や他国に使える宮廷詩人、職業芸人、芸術詩人、聖歌隊といった多様で多彩な面々が顔を揃え、声の調べに乗せて歌いあげるが、王のお眼鏡に適うものはいなかった。
「ええい、フェリクセンよ、オマエは誰も父王のもとへ人を寄越してはいないではないか」
うまくいかない第一王子は、フェリクセンに八つ当たりをして、もし、明日の晩までに誰ひとり歌い手を用意できないのであれば、オマエに王の資格などない。この国から追放してやると罵った。
困ったフェリクセン王子はその日、眠れなかった。
ふと、気が付くと隣のベッドにエミリー王太子妃の姿がない。
フェリクセンは心配になり、城の中を捜し歩いた。
すると西の塔から微かな歌声が聞こえる。
フェリクセンは近づくに従い、そのあまりにも美しい歌声に酔いしれた。
螺旋階段を登り、塔のいちばん高い部屋へ辿りついたフェリクセンはそっと扉を開いた。
「アーアアア~ア~~」
〈恥ずかしいけど、地声の高さを最大限利用して、頭の中に浮かんだ旋律を即興でスキャットする〉
「エミリー、キミの声はなんて美しいのだろう」
窓の外をみながら儚げに口ずさんでいたエミリーは、フェリクセンに声を掛けられ、歌うのをやめて、部屋から出て行こうとしたのを彼女の夫である第二王子に止められた。
「そうだ、キミの歌声ならきっと父、国王は喜んでくれるに違いない」
フェリクセンは熱くエミリーを説得するが、エミリーは顔を伏せた。
「私の声は、人とは違ってまるでキィーキィーと泣く鳥の声。どうしてこんな声を国王陛下は望まれましょう」
「エミリー、キミは自分の声を誤解している」
「え?」
「キミの声は素晴らしい。誰がなんと言おうとボクが保証する。キミの声を愚弄するもの。キミを虐げる者をボクはけっして許さない」
〈宇良先輩は、1年と2年の部員を中心にひとりづつ目を合わせながら、普段ではありえない強い意志を伝えた〉




