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第2話 距離感がバグってる


「え、はい、おはようございます」


 どういうこと? 

 なぜ宇良先輩が私の名前を?

 心臓がバクバクしている。

 

「あ、あの……」

「宇~良くん、遅刻しちゃうよ~?」

「あ、はい、じゃあまた放課後ね、とこちゃん」


 上級生の先輩と思われる女子に肩を叩かれて、宇良先輩は笑いながらふたりで校舎の中へ消えていった。

 ひそひそと声が聞こえる。周りをみると冷たい視線。


 まずい。これは悪目立ちというヤツ……。

 私がもっとも恐れている平凡な日常をたやすく破壊してしまう悪魔のようなアクシデント。

 すばやく移動して自分のクラス、自分の席に腰を落ち着け、頭を抱える。

 思考が迷走を始める。

 昨日、初めて会った先輩に下の名前で呼ばれた……それも“ちゃん”づけ。


 どどどどどどゆこと? ぜんぜん理解ができない……。

 そうだ! 逆から考えてみよう。

 えーと、私の下の名前を知っているのは、昨日提出した入部届。あれをみれば私の学年、クラス、名前はわかる。でも問題は“ちゃん”づけの方。宇良先輩ってモテまくりのはずだから、やっぱり近くにいる女子には平等に優しく接する仏系イケメンなのかな?


 それにしては周囲の視線が痛かった気が……。

 もしくは、私が忘れているだけで、実はどっかであったことがある?

 

 ──いや、それはない。

 あんな黄金に光り輝く顔面オーラ、一度みたらゼッタイ忘れるわけがない。

 うーん、本事件は迷宮入りする予感がする。

 悩んでもしょうがない。とにかく宇良先輩にはなるべく近づかない。それが私の幸せな学園生活を送るために課せられた必須条件。


 そう自分に言い聞かせていたのに……。


 放課後、演劇部の部活が始まり、私は想像もできなかったが、演劇部は体力づくりが重要だそうで、運動部顔負けのハイペースで校内をぐるぐると走る。一年生は各自、自分のペースでいいからと配慮はされているが、30分のランニングが終わった時点で、昨日の1年女子は三分の一くらいに減っていた。


 その後、筋トレ……。普段、運動をしていないであろう私を含め、新入部員はこれで、壊滅的打撃を受けた。途中でトイレに行く子が増え始め、筋トレが終わるころには昨日、50名近くいた入部者が8人になっていた。


「大丈夫?」

「は、はひぃ」


 すさまじい疲労感でめまいに襲われ壁に寄りかかっていると、誰かが私に声をかけてくれたので返事をした。

 ってその声は? 目を開けると、すぐそばに宇良先輩が心配そうに立っていた。


 近い近い近い!?


 距離感がバグっているのか、はたまた令和という時代が生み出した光源氏ひかるげんじなのか、とにかく近すぎて、悲鳴が出そうになる。


「その子、かなり無理してるから1年の子で誰か保健室に連れていってあげて」


 今日知ったが、朝、宇良先輩に声をかけた3年、演劇部部長の宍戸先輩が1年に声をかけると、ふたり手を挙げ、肩を借りて保健室に連れて行ってもらった。



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