第13話 先輩の過去
『ピンポーン』
アパートの3階、自宅の自分の部屋に閉じこもっている私はインターホンの音で目を覚ました。
あれから1週間、家族は心配しながらも何も聞かずに私のことをそっと見守ってくれている。私が自力で立ち直ることを信じて。
でも、立ち直れないかもしれない。登校してもすでにどこにも居場所がない。
転校、近くの高校に移るのが私にとっては唯一の逃げ道。だけどそれを家族にいう勇気が今の私にはない。
「はーい」
「こんにちはーarakawaです」
誰が頼んだんだろう?
大手ショッピングサイトの配達員らしい。
インターホンに出なければ置き配してくれたのかな? それとも代引きなのかな?
ドアを開けて騙されたことに気が付いた。
宇良先輩と都成先輩……。
「連絡が取れないから来ちゃった♡」
てへぺろする都成先輩は、たしかに尊いが、そんな先輩の行為を愛でる余裕が今の私にはない。
「常ちゃん、ごめんね家まで来ちゃって」
宇良先輩……。
私はこの1週間、自宅に引きこもり先輩のことを考えないように努力してきた。それなのに……。
「ごめんなさい」
「待って」
ドアを閉めようとしたが、宇良先輩がドアを捕まえるとピクリとも動かなくなった。
「私、もう学校には行けません」
「そのことで来たんだ」
「え……」
宇良先輩は、都成先輩とふたりで真犯人……1年の私を嫌っている女子を探し出し、私への憎悪で行為に及んだことを白状させたうえで、教師陣に許可を取り、校内放送で演劇部内の内輪揉めで起きた冤罪であることを説明して、校内はおおむね鎮静化したそうだ。あの女子は吊るし上げにはしなかったが自主退部を促し、2日前に演劇部をやめたそうだ。
「宇良先輩……」
「なに?」
「ひとつ聞いていいですか?」
いいよと返事をもらって気になっていることを質問する。
私の住所は教職員じゃないと知り得ない情報。私は高校になって誰にも自分の住所を教えていない。
「オレがなんで”常ちゃん”って呼ぶか知ってる?」
「え? いえ」
宇良先輩は私に会ってすぐに下の名前で呼び始めた。
考えてみたら他の女の子は苗字呼びなのに、だ。
「雨男って覚えてない?」
「雨男? ……あっ」
思い出した。
私が小学1年生の頃、近くの公園にいた雨男と言われ、まわりの子ども達からハブられていた男の子がいた。でも……。
「オレさ、中学入ってから背が伸びて、すごく痩せたから、小学生時代の同級生はオレってわからないみたい」
雨男と呼ばれていた男の子は周りの子よりも背が低く、かなり太って眼鏡もかけていた。いつも公園の隅っこでアリの行列を眺めている変わった子でてっきり私は自分より年下だと思っていた。




