『青年期の青年』
よお、また来たぜ。元気してたか、首だけちゃん?
「……何度言っても、あなたは覚えてくれませんね。首だけちゃんと呼ばれるのは愉快ではないと、あと何度言い重ねたら、あなたは分かってくれるのでしょう?」
ああ、何度教えてくれても変わらんさ。実はな、俺ぁ言うたびお前の綺麗な顔がちょっと歪むのが面白くてなあ、毎回わざと言ってんのさ。
「……成長して、ひねくれに磨きがかかってきましたね、あなた……そのうえ今日も勉強部屋におこもりですか? たまには表に遊びに出て、女性とデートでもしてごらんなさい、若い青年なんだから……」
はは! お前の方こそかあちゃんみたいな物言いするようになってきたなあ! まあそううっとうしがらず、またお話でもしてくれよ。朝から半日机の前に座りっぱなし、いいかげん両目がしばしばしてきてねえ……。
脳みそいじめるのを中断して、昼食を食って落ち着いたら、何だか妙にお前の声が聴きたくなってな! 「無料で息抜き」に来たわけよ!
「ただなら何でも良いんですか、あなたは……? 色恋に興味はないのですか?」
おいおい、俺ぁお前に恋愛相談しに来たんじゃないぜ? まあそんなにむすくれんなよ、「話の聴き賃」と言っちゃあなんだが、また髪をブラシで梳いてやるからさ。ずっとおだんごに結ったまんまじゃ、合成繊維の青い髪も傷むだろ? ……なあ、ザフィーア?
「……その乱暴なお言葉のすきまのお心遣い、女性にしてあげたならすぐに恋人も出来るでしょうに……。こんな首だけの男型の機械人形に絡むとは、あなたもよくよく物好きな……」
はは、まあまあ、そんなに自分を卑下すんなよ! こう見えて俺、けっこうお前を好きなんだぜ!
……あれ? あれれ? 何だいからくり、お前ほっぺがじんわり赤くなってきてるぜ? 皮膚組織の下の紅色リキッド、透けて見えるぜ、照れてんのかい?
「――そんなことはないですよ。グラナート、あなたの目の錯覚でしょう……。お勉強のしすぎで充血した目で、視界が全部赤く染まっているのではないですか?」
はは! そんなことあるわきゃないだろ、首だけちゃん! お前ひとのこと言えないぜ、俺の「教育」のたまものか、お前もなかなかお口が悪くなってきてるぜ?
「……それはどうも。それではこれ以上毒を吐かなくて済むように、そろそろお話を語り出させていただきますね……!」
口とは裏腹に、からくりのほおは「紅色リキッド」が透けてやっぱりほんのり赤い。ぱくりと開けた口からこぼれる優しい青年の声は、何だかいつもよりほのかに熱を帯びていた。……