表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/31

『少年の憤り』

 ……や、パパとママ、帰ってきたみたい!


 やあ、面白かったよ、君のお話! 本当に君は見事な「かた」だねえ……!


「……おめにおあずかり、こういう小言めいたことを言うのもなんですが……、あなた、私の他にお友達は? それにお勉強、習い事などはなされませんか?」


 ……うん? 何だい、いきなりマジメな顔して?


「……あなたの『ひいおじい様のひいおじい様』は、あなたくらいのお小さい頃、『大きくなったら工学士になる』とお決めになっていたそうです……」


 うん、知ってるよ! 君から何度も聞いたもん!


「……いえ、そういうことではなくて……。あなたも何か、なりたいものはないのですか? あるのなら、こんな首だけのからくりに構っていないで、夢に向かって今から努力を……」


 ――あるよ、そりゃあるよ、なりたいもの! したいこと! ね、聞かしてあげようか? ねえ、ちょっと耳を貸してよ……!


* * *


 少年はうきうきと機械人形からくりの耳に口を寄せ、何やらこそこそささやいた。からくりの表情がすっと()()()()、テーブルの上、台座に固定された頭をかすかに振ってみせた。


「……いけない。それはいけない、その将来の選択は、必ず一生を棒に振る。おやめなさい、そんなものになろうとするのは……!」


 少年は信じられない顔をして、裏切られたような目をしてからくりのそばから身を引いた。


「――何だいなんだい、ひとのなりたいもんを馬鹿にして! おれはおれのなりたいものになってみせるぞ! お前に止められるもんなら止めてみろ、首だけのからくり人形のくせに!!」


 雑言ぞうごんを吐いて逃げ出すように駆け去る少年の、背中が淋しがっていた。泣き出しそうな声の震えで、吐き捨てた言葉のしっぽが濡れていた。


 からくりは後を追うこともかなわず、ただ伏し目がちに吐息した。美しい藍色あいいろの宝石のような瞳には、もう愛らしい少年の姿は映らなかった。


 ――あの子を怒らせてしまったろうか。

 それでもまた、ここに来てくれるだろうか。

 ひとりぼっちのからくりの、不安も期待も喜びも、全てあの子にかかっていた。


 からくりは、ぽつんぽつんと独り言をつぶやいた。


「……グラナート……ザフィーア……」


 グラナート。赤毛で火のような色の瞳の、十歳になるあの子の名だ。

 そうしてザフィーアとは、今日は呼んではもらえなかった自分の名。


 ――ああ、今度もしまた来てくれたなら、自分の方から名前を呼ぼう。そうしたらきっと、あの子も私を呼んでくれる。


 ザフィーアは絹糸じたての蒼綺石サファイアを思わせる青い髪の、セットしたおだんご頭をわずかに揺らし、またしみじみとため息した。


 ほこりっぽい物置の、小さな黒檀こくたんのテーブルの上、首ひとつ。水晶のばんを張った窓越しに、降り出す春の始めの雨が()()()()と音を立て出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ