『老年の悲願』
――やあ、けっこうけっこう、素晴らしい! こんだけ語れりゃ上出来だ、頭部の状態も十分だ……!
「……何だかよくは分かりませんが、試験は合格なのですか……?」
おお、これだけ記憶装置がしっかり活きていれば、九割の率で大丈夫だ! 接続の負担にも耐えられるだろう!
「……あの、本当によく分からないのですが……グラナー、あなたいったい何の話を……?」
おお? 本気で分ってないのかい? おうさ、今こそお前にさんざん馬鹿にされた「お勉強」の……研究の成果を出す時だ。なあザフィーア、驚きすぎて記憶装置をショートさせるなよ?
――出来たんだ! お前の体が出来たんだよ!!
* * *
ぱっくりと赤い口を開け、首だけの機械人形は文字通り言葉を失った。
そんなからくりの頭を大事に抱え込み、車いすの老人は研究室へと運び込む。そこには白い寝台の上、いかにもザフィーアのためにあつらえたというような、細身の美しい男型の体が静かに横たわっていた。
「……さ、少しだけ目を閉じていろ……ひととおり体の方の精密検査は終えてあるから、ものの三十秒で終わるぞ。ちょっとちくっとするかもしれんが、ほんの二三秒、一回だけだ、本当だ……」
何やかや優しく言葉をかけながら、グラナートが車いすをずっと動かす。いすにのせた両のひざを寝台の下のすきまに入れて、ザフィーアの頭と体を魔法のように鮮やかな手ぎわでつなぎ合わせて……、
本当に「あっ」という間もなかった。いつからか失った首から下の感覚が、じわじわとよみがえってきて……藍色の目をまばたくからくりに、老人は「まだしゃべるな」とその口もとへ指をあてた。
「まだ動くなよ、体と首がなじむまで……さあ、じゃあ今回は俺の方が、お前にひとつ昔話をしてやろう。昔むかしのお話だ。俺の『ひいじいちゃんのひいじいちゃん』と、ザフィーア、お前のお話だ……」
赤毛も全て白くなり、絵に描いたような老人は、しわがれた声で語り出した。
痛みすぎて動かなくなったひざを両の手でさすりさすり、くすんだはちみつ色の瞳で、もう「首だけちゃん」ではなくなった、美しいからくりに語り出した。……