『老年期の老年』
……よお、ザフィー。珍しいな、起きておったか……。
「……ええ、当然……と言いたいところですが、たった今目覚めたところです……まだ人工頭脳が、『寝起き』でぽうっとしていますよ……」
ほう、そうかい。……そのぽうっとしてるところで恐縮なんだがな、ザフィー、今いくつか昔話が出来るかい?
「……ええ? ふふ、ずいぶんしばらくぶりですねえ……! グラナー、あなたの方から昔話のおねだりとは……このごろは『お勉強』にかかりっきりで、あんまり相手もしてくれなかったというのにね……!」
はは、まあそう恨みごとを言うな。実はこれだって「お勉強」の一部でな、まあちょっとした試験みたいなもんなんだ……語れるかい、首だけちゃんよ……?
「ふふ、その『首だけちゃん』もしばらくぶりに聞きましたねえ……! おかしなものだ、あれだけ嫌だったその言葉も、ひさしぶりにあなたの口から出てくると、何だか妙に懐かしい……」
懐かしがるのもけっこうだがね、語れるのかい? 語れんのかい?
「ええ、ええぜひ語りましょうとも……語らせていただきましょうとも……!」
* * *
首だけの機械人形はいつになく素直に微笑して、赤いくちびるをまるく開いた。変わらぬ美貌に相変わらず魅せられている老人に、優しい声で語り出した。いつかの少年の面影に向かって語るように、甘い声音で語り始めた。……