『壮年の強がり』
……ご苦労さん、ザフィー! いつもながら、なかなかの物語だったぜえ!
さてと、そろそろ屋敷の大掃除も終わったころかねえ? そんじゃあ俺は、再び「お勉強」にかかるからな! ……ん? どうしたどうした、そんな泣き出しそうな表情して……?
「……グラナー、あなた……こんな生活を、いつまで続ける気なのですか? 『お勉強』だっていまだに何の成果も出せない、ご両親に先立たれ、結婚もせず、独りでお勉強の合間に、こんな首だけの男型のからくりの昔話を聴くばかり……」
――や、そのうちきっと成果は出すさ。出してみせるさ、この俺が歳とってくたばるまでにはな……! だからお前も、それまでは壊れきらずに、ちょいちょい俺に昔話を聴かしてくれな!
……そんじゃあ、俺はそろそろ行くぜ……。ぼちぼち階下の掃除人たちが、ぞろぞろこの物置を掃除しに来るからな、絡まれるのが嫌だったら狸寝入り! 面白がって口もとでもつつかれたら、遠慮なくがぶり! 分かったな?
……あ、痛てて……くそ……、
「グラナー、またひざが痛むのですか……それとも腰が痛いのですか?」
や、どっちもさ。……はは、そんな心配そうな顔すんなよな! 人間も五十年生きてりゃ、あっちこちガタがくるんだよ。機械のお前も分かるだろ? 人工関節がすり減ったりさ……って、はは! 首だけのお前には分からんか!
* * *
からからと軽く笑い飛ばし、それでも痛みは消えないらしい。グラナートは己のひざと腰をかばいかばい、無理やりに笑い声を立てながら背中を見せて去っていった。
……残された首だけのからくりは、藍色の美しい目をくしゃくしゃにしてため息した。――身のないお勉強など、もう止しにしてくれれば良い。ひとのために身を削ってまで頑張らなくていい、もう楽になってほしいのに……。
そう言いたくても、言えなくて。
……藍色の模造眼球を湿らせて、「涙液」が普段より過剰に分泌されていく。がたん、と物置の扉の向こうに掃除人の来た音がして、ザフィーアはぐっとくちびるを噛み、言われたとおりに目をつぶって寝たふりをした。
寝たふりをしてちょっと経つと、本当の「休眠」に落ちてしまった。
機械も見る、夢の出来損ないのような夢の中で、グラナートが満開の笑みでずっと頭を撫でてくれた。
……もう三十年も前の、若く美しい姿のままで。……