『壮年期の壮年』
……ザフィー? 何だ……休眠んでんのか?
「……あ、ああ……おはようございます、グラナー……」
はは、「グラナー」か。お前もやっと俺んこと、愛称で呼んでくれるようになったなあ!
「……それはお互いさまでしょう……また『お勉強』の合間に、首だけのからくりの昔話を聴きにいらしたのですね? ……にしてもあなた、相変わらずカレーのにおいをさせていますね……また『カリーヴルスタ』を食べたのですか?」
はっは、やっぱにおうか! そりゃそうだな、ここんとこ三食ずっとカリーヴルスタだからな!
「……からくりの私が言うのもどうかと思いますが……グラナー、ちゃんと栄養は摂らないと……! 焼いたソーセージにケチャップとカレー粉をかけたきり、それを三食続けるなんて……!」
や、まあな! しかも本来は「カリーヴルスタ」専用のソーセージを使うところが、面倒くさくてそこらへんのソーセージにケチャップとカレー粉ぶっかけただけで食ってるからな!
……や、そんな心配そうなカオすんなよ! いやいや、それよりお前に言っとくことがあったんだ! 実は今、屋敷にハウスキーパーが数十人も入って、年に一度の大掃除をやってんだ。うっとうしいから逃げてきた!
……そんでな、階下の掃除が終わったら、「物置もちょいちょいかたしてくれ」って頼んどいたぜ! ハウスキーパーと口きくのが嫌だったら、目ぇつぶって寝たふりしてろ! 珍しがって口でもつっつかれたら、がぶりと思いきり噛みついてやれ!
「……それはどうも……私としては掃除人とのごたごたよりも、あなたの健康の方が気になりますが……。このごろはよく『休眠状態』になりますから、狸寝入りするまでもなく、掃除の時にはきっと『熟睡』しているでしょうし……」
……なあ。お前こそ状態は大丈夫か? 「首だけの形態」ってのにだんだん無理がたたってきたのか、この頃は本当によく休眠すんだろ? ……ガチでお願いするけどな、俺が死ぬまでは壊れきるなよ。俺も半世紀生きてきたし、「あと半世紀壊れるな」とは言わんから、せいぜいあと二、三十年ふんばってくれ……!
「……それはどうだか。『憎まれっ子世にはばかる』というくらいだし、『享年百五十歳』という事態になっても、私は驚きませんけどね……!」
はは、そう言うお前もなかなかだぜえ? まあとにかく、俺が死ぬまでは壊れんな! 良いか、これは約束だぜ? よし指きりしよう! 指出して! ……って、そいつは無理な注文か!
「…………グラナー、私のお話を聴きに来たのでは? それともレベルの高いいやみを言いに来たのですか?」
ああ、そうだった! さあ首だけの語り部さん、いざ素晴らしいお話を……!
「……気遣ってくれたかと思いきや、いちいち言葉で絡んできたり……まあ構いません、五十年付き合って慣れましたから……」
* * *
ふうと小さくため息して、ザフィーアはぽっと赤い口を開く。そのくちびるの動きに、相手がこっそり見惚れているのを知らぬまま、いつものように昔話を語り始めた。……