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『青年の外出』

 ……やあ、いつもながら面白い話だったよ、かたさん。


 なあ、お前はさっき「たまには出歩け」って俺に言ったがな……あんたこそたまに湿っぽい物置ものおきから出て、外の空気でも吸わねえかい?


 なあに、俺が大事に抱えて持ち歩いてやるよ……俺の両親おやが館主を務める図書館に行って、お客を集めて「お話会」でも開かねえかい? 「ひいじいちゃんのひいじいちゃん」が創った図書館、お前にとってもずいぶん懐かしい場所だろう……?


「…………お断りします。首だけのみじめなこの姿、あなた以外の誰にも見られたくありません。そもそも私はそう望んで、あなたのご先祖に物置に置いていただいたのです。今さら、今になって、そんな生き恥を……」


 ――へえ。機械人形からくりにも「生き恥」って概念があるのかい! ……それにしたってなあお前、不用意にそんなこと口にしない方が良いぜ。「あなた以外の誰にも」なんて……そんな、まるで……、


「……何か? 何か失礼なことを申し上げてしまいましたか……?」


 ……いいや。まあ気づいてないなら良いや。そんじゃあそろそろ、俺約束の時間だからさ。


「……ご両親と、どこかのカフェで午後のコーヒータイムでも?」


 や、女とさ。


「…………そうですか。やっとそんな気になりましたか……」


 んん? 何勘違いしてんだ、美人さん? 俺ぁ女に告白されて、それを断りに行くんだよ。プロポーズは十日前、うまい断りの言葉を考えるのに十日間だ。俺ぁ誰かさんみたいに、首から下を()()()()されたくないんでね!


「……そうですか。それは……本当にあなたは、いつもチャンスを棒に振る……」


 ――んん? 本当にそう思ってんのかい、首だけちゃん? またまたお前の白いほっぺに、紅色べにいろリキッドが透けて見えるぜ? ……おやおや、藍色あいいろの宝石みたいなお目目もきらきら潤んで、「涙液るいえき」が普段より多く分泌されてるみたいだぜ?


「よ、余計なお世話です……さあ、早く行きなさい。女性を待たせるものではありませんよ……!」


 おうよ、そんじゃあ行ってくるわ! 俺も彼女も大好きな「黒い森のさくらんぼケーキ」を食ってコーヒータイムとシャレこむわ! ……なーんて、カフェで何を話そうが、結局フッておしまいだけどな!


 おう、それじゃあな、からくりちゃん! 帰ってきたらまた勉強だ、明日も半日机に向かって、そのあと息抜きにお邪魔するぜ!


* * *


 軽いそぶりで手をふられ、ぱたんと音立てて扉を閉められ、からくりはまたひとりになった。ふうと長くため息して、リキッドの紅色の透けるほおに、その美しく赤い口もとに……ふっ、とかすかな微笑えみが浮かんだ。


 浮かんだ微笑はみるみる薄れ、からくりは細い眉をひそめて、泣き出す寸前の顔になる。ぎゅうっと藍色の目をつむり、くちびるをきつく噛みしめた。


 午後の陽射しが、破れたレースのカーテン越しに、ゆらゆらと物置の中にさす。ゆらゆら揺れる日の光で、あたりはいささかほこりっぽい、ぬるい水底のようにも見えた。……

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