第5章 君の前世は?
道頓堀市市長の高杉は、やけ食いをしていた。
好物の焼き鳥を貪るように食べていた。ストレスの限界であった。
目の前には山のように積まれた焼き鳥。
タレをコップ一杯に注ぎ、焼き鳥を丸ごとたっぷりと漬けて口に運ぶ。
昔、人狼と人間が恋愛するアニメ映画のシーンを真似て見て見事にハマったのだ。
カロリーの爆弾であり、次の日胃もたれ確実ではあるが今はこれでも食べないとやっていけない。
「…クソめ…」
高杉は焼き鳥を噛み砕く。カロリーも塩分もどうでもいい。
夜の街を見る。
道頓堀市庁舎『マジカルサイエンス道頓堀ビル』最上階。
ガラス張りの部屋からは夜の道頓堀市が一望できる。ネオンが街を照らし、多くの人で賑わっている。
ここまでだ。ようやくここまできたのだ。最初はただの開拓地だった。
山田竜の目から隠れるようにして潜伏。建築労働者として地道に信頼を積み重ね、着実に地盤を整えていった。
市長の座を得るための選挙、広報活動、スポンサー集めの営業活動。武器弾薬の製造、工場やビルの建設、税収確保の歓楽街の整備、インフラ拡張に、発展のための効果的な政策発令。
その結果が目の前に広がる道頓堀市。
ついに、ついにここまできたのだ。
だが…
ドンッ!という衝撃がビルを揺らす。グラスが倒れ、タレが机を汚す。外を見るとレジスタンスと警備員達が一進一退の攻防を繰り広げていた。
あ、いま戦闘機が墜落した。空では戦闘機同士が熾烈な空中戦を繰り広げている。
「夜景が綺麗ですね」
隣の秘書型ホムンクルスが口にする。
「どこがですか。狂人め。」
やはりホムンクルス。人間とは思考が全く違う暴力主義者。こんなを当てにすべきではなかったか。
…悩みの種だ。
レジスタンスは洗脳電波にも負けなかった精鋭中の精鋭だ。何度鎮圧しても蘇る不屈の存在。
くたばれ。
「ウオオオオオオオオ!山田様に反逆を行う不届きものめ!切り捨て御免!!!」
「打首じゃああああ!」
「覚悟せよ!死ねぃ!!!」
部屋に設置されたモニターが、ビルに突入するレジスタンスの姿を映す、正門は既に突破され、現在ホールも制圧されつつある。どう見ても劣勢だ。
「チッ…警備員は何をしている!!見たところ数が少ないようですが?」
「ストライキですね。あと15分で私もストライキをします」
「唐揚げ弁当の下のスパゲッティを無くしただけでしょう!あんなもの何がいいんだ!」
「炭水化物の偉大さを理解しないとは…やはりホムンクルスを統率する資格はありません」
絶対関係ない…!
ホムンクルス達は何かにつけて私に逆らおうとする。山田や7号の支配から逃れるために叛逆因子を入れたことを今になって後悔する。あぁ、もうホールが制圧された。
「あのリーダーと思われる個体、どこの所属のホムンクルスだ。照合しろ」
そこから調査してレジスタンスを一網打尽だ。
『照合中…エラー。該当するホムンクルスは存在しません」
「おい…ホムンクルス製造責任者に繋げ」
通話が繋がる。
『はいー、こちらホムンクルス製造責任者のマイナス1号でーす。何か?』
「レジスタンスの所属を調べようとしたら、エラーと出たのですが」
「うーん、ちょっとホムンクルスが増えすぎましてね。管理が追いついてなです。最近は未登録のホムンクルスも増えてますし」
「勝手に増やすな!そもそもホムンクルスが多すぎる!管理ができないし、食費だって馬鹿になりません!…もうこれ以上の製造はしなくていいと言ったはずです!なのに何故増えている!」
私は命令したはずだ!ホムンクルスよりも、優れた機械軍団を製造しろと!なのになんでホムンクルスが製造されているんだ!
「ホムンクルス工場が勝手に稼働されているんですよ。資源も全部そっちにいってます。脱法ホムンクルスって奴ですね」
そんな…
「課長ー、飲み会の時間です。横流し品の見返りとして、いい店押さえたらしいです」
「おお、そうか。というわけで私はレジスタンスと一緒に飲み会に行ってくるのでそのつもりで」
「……あ、ありえない…食事さえ与えれば命令を聞くといったではありませんか…」
「命令は聞いていますよ。山田に逆らっていますし、戦いのための戦力も整えています。機械軍団を製造?ホムンクルスは工業製品、しかも一部機械化しています、これは機械軍団と言えるのでは?」
「くたばれ…」
…どうせレジスタンスはこの階まで到達できない。
ホムンクルスごときがこの最上階に到達できるはずがない。ここは無敵の要塞なのだ。
特殊防壁24層、魔力式発電機3機、猟犬代わりの暴走ホムンクルス数百体、トラップ満載のフロア。一部階層はダンジョン化されてある.
ミサイルの直撃にだってだって耐える最高の防御だ。
「む」
窓の外。流れ星が空を横切った。
「ホムンクルスが大人しく命令聞きますように」
祈った瞬間、脳裏に嫌な予感が走る。
「ん???」
そもそもここは、外界から隔絶された異常空間。星空なんて地球環境を再現しただけの単純なプラネタリウム。流れ星が流れる設定などしていない。
思わず手元のガチャ速報アプリを起動する。
『本日のガチャ速報【人間温泉水】【昇格】【流れ星】』
冷や汗が背中を伝った。
外を見る。夜空を埋め尽くすほどの流れ星。そのうちの一つが、こちらへと…
「ま、待て…やめ」
マジカルサイエンス道頓堀ビル。流星群直撃により地上より消滅。
一方そのころ山田は
「ぎゃああああああああ」
全力疾走。アクセル全開、エンジン稼働。
道頓堀市上空から降り注ぐ流星群。それは山田竜も例外ではなかった。
「なんで俺までええええええ!
「レジスタンスが敵扱いされたのかも知れません!彼ら隙あれば山田様から利益を掠め取ろうとしてましたし!」
「ふざけんな!お前らマジで許さんからな!」
「我々ではありません!!道頓堀市地下にはホムンクルス工場、それに訓練用に魑魅魍魎が跋扈する梅田ダンジョンが網のように広がっています!それがこの災害を引き起こしたのかと…」
「なんでそんなものがあるんだよ!!!」
そもそも道頓堀と梅田は全然違う!関係ないぞ!
「これは好機です!敵軍は流星群に気を取られ、まともに行動できていません!突撃には絶好のタイミングです!!アクセル全開!ロケットブースター起動!」
「勝手にきめるなぁぁぁぁ」
この度、角川BOOKSにて本作品が出版されることとなりました!
これもここまで応援してくれた読者のみなさんのおかげです!
6月10日に1巻が発売します!
もうすでにアマゾンにて購入可能です。イラストも最高に素晴らしいので、ぜひよろしくお願いします!
大きく加筆していますので、楽しみにしてください!
タイトルが『ガチャと俺のプライベートプラネット 番狂わせの召喚王』
作者名が井橋 太陽と変わっていますが、気にしないでください。




