ある問題
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「しかし、刑期が終わった後も残った者たちが、割と多いのぅ」
源人は意外そうにつぶやく。少年院や刑務所の刑期を終えた者には、小宇宙石油で正社員として雇うから引き続きここで働くように募集をかけていた。それに応じて、自らの意思で海設都市に残った者も多い。
「彼らは少年院出身や前科者たちです。一般社会に戻っても、いい職を得られるとは限りませんからね。鉱山労働者とはいえ、南方グループの正社員になれるなら、応じる者も多いと思いますよ」
南方グループの社員バッジをもらって喜んでいる元受刑者たちの顔を思い出して、勇人は苦笑する。
「彼らにはもう少しまともな食事とさらに上層階に広い住居を与えます。少額なら固定レートでの日本円とアジアの交換も認めましょう。本土との自由な出入りも許可します。そうやって厚遇しておけば、いずれ日本から独立して新国家を建てるとき、その最初の市民となってくれるでしょうね」
「……最初の市民がもと囚人たちか」
複雑な顔になる源人を、勇人は諭す。
「オーストラリアやニュージーランドを建国した者たちも、元はヨーロッパから島流しにあった囚人たちです。彼らは自分たちの居場所になった新しい国を支えるため、必死に働いて国土を開拓しました。我々に必要なのは、そういう者たちなのです」
「ううむ……贅沢は言えぬか」
孫に諭されて、源人はそう割り切った。
「だが、彼らを国民として受け入れ、根付かせるには、まだ足りないものがあるな」
「足りないもの?」
首をかしげる勇人に、源人は別のモニターを指し示す。
そこでは、黒服たちと受刑者の争いが映っていた。
「ふざけんじゃねえ。金返せ!」
「てめえが勝手に金をすったんだろうが、負け犬はおとなしくしやがれ!」
パチンコで大負けした受刑者が、管理している黒服にくってかかっている。
「ちくしょう!俺たちから散々搾取しやがって」
「これ以上反抗すると、また痛い目を見るぞ」
黒服たちに脅されて、しぶしぶ受刑者たちは引きさがる。
「くそっ。飯食って働いてギャンブルしての繰り返しで、気が狂いそうだ」
「仮に大勝ちしたって、使う場所も限られているしな」
「反抗したら首のバイオチップから苦痛が与えられるし、まるで奴隷みたいだ」
一部の受刑者たちからは、怨嗟の声が上がっていた。
「……荒れてますね」
「彼らは気の荒い男たちじゃ。飯と娯楽だけでは足りないということじゃよ。生活に潤いが必要じゃ」
「潤いですか?どうしたら与えられられるのでしょうか」
勇人の質問に直接答えず、源人は逆に聞き返した。
「現在、都市内の物品販売、施設管理は誰がしておる?」
「それは、黒服たちですが」
都市内の作業は物品販売・洗濯清掃・食事の用意・設備管理など肉体的負担が少ない業務もある。それらは人手不足のため、すべて新田警備保障の黒服たちが行っていた。
「想像してみるがよい。現場では監督の『土人類』のむさ苦しい男たちにこき使われ、生活では黒服に管理され続ける生活を」
「あっ」
源人が何が言いたいのか察してしまう。
「厳しい労働に疲れた男たちを癒すのは、女じゃ。こればかりは、ギャンブルなどの娯楽では代替できん」
その言葉に、勇人は考え込む。
「……女の受刑者を受け入れるというのは」
「一時しのぎになるが、将来は困ることになるだろうな。彼らがいずれ我が国の国民になるのなら、温かい家庭をつくって子供を育ててもらわねばならん。両親ともに犯罪者の家庭で、果たして子供が健全に育つかな?」
「……無理ですね」
勇人は顔をしかめて首をふる。
「まあ、これも勉強じゃ。新たな国家の建国を目指すなら、女のことも知らねばならん。ということで、今度行われる懇親パーティにでてみないか?」
「バーティ?」
首をかしげる勇人に、源人はニヤリと笑って説明した。
「勢いがある我ら南方財閥と、誼を通じておきたい家が多いということじゃ。お前にも多数の女性からパートナーの申し込みがあるぞ」
そう言われて、勇人は戸惑う。
「パートナー申し込み??それは誰ですか?」
「それが、お前の元婚約者である豊畑奈美嬢からだ」
呆れた顔になる源人。手元には以前の婚約破棄を詫びる丁重な文言とともに、改めて婚約者としてパーティのパートナーにしてほしいと書かれていた。
「面の皮が厚いにもほどがありますね。向こうから婚約破棄してきたくせに、俺が南方財閥の後継者になると知ったとたんにもう一度申し込んでくるとは」
「まあ、企業のオーナーはそれぐらいのずうずうしさが必要なのかもしれんがな。他にも、鳩川元総理の孫娘小百合嬢などからも申し込みがきている」
複数の手紙をみせられ、勇人はうんざりしてしまった。
「今の所婚約など考えておりませんね。そもそも政略結婚とは互いにメリットがあってするもの。こちらのほうが強い立場なら、あえてする意味はありません」
「うむ。早売り安売りをする必要はたしかにないな。だがパーティには参加してみたらどうじゃ。意外と良い娘に出会えるかもしれんぞ」
源人はそういって、ニヤリと笑うのだった。
「女を集める……か」
勇人は祖父に言われたことで悩んでいた。
「女を国民として引き入れるのって、どうすればいいんだろう。今の日本では女の人権が確立されていて、安全にいきていけるから、わざわざ移住する気にならないだろうし。金で釣ろうにも、海設都市で流通しているのは日本円に換金できない仮想通貨だし……」
いくら考えても結論がでない。
「こうなったら、ネットで何が女に受けているのか調べてみよう」
勇人はパソコンを立ち上げ、女性に人気がある有名動画を見てみる。すると、一つの美少女動画が目に留まった。
「やっほー。空ちゃんチャンネル、復活だよー」
そう、それはクラスの上位カーストの女子たちをたきつけて、さんざん悪口を言っていた空美幸だった。
「おいおい。あいつは顔に大やけどを負って入院していたはずなんだが、整形でもしたのか」
美幸の顔は、元の派手系美少女の容姿を取り戻していた。彼女のチャンネルは遭難事件があっても衰えず、いまだに人数を伸ばし続けている。
それというのも、不自然なほど頻繁におすすめ動画に取り上げられているからだった。
「そうか。こいつは大手IT携帯会社の子女で、その力をつかって有名インフルエンサーになったんだったな。ううむ。俺の目的のためには、こいつが一番ふさわしいんだろうけど……ここは今までのことを水に流して、利用することを考えるべきか?」
悩みながら視聴していると、画面の中の美幸がにっこりと笑って告げた。
「みんなにお知らせ。わたしぃ、じつは気になる人がいるのぉ」
いきなりの恋バナに、視聴者たちは興味津々である。
「えへっ。それは、高校生で大会社の常務になった、クラスメイトの男の子。きゃは」
恥ずかしそうにもじもじとカミングアウトする。それを見ていた勇人は、思わず飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「こ、こいつ、何言ってんだ。俺のことを好きだって?それは絶対にありえん。今までさんざん取り巻きの女子を使って、バカにしてきたんだぞ」
画面に向かって突っ込むが、美幸はさらに続ける。
「前は素直になれなくてぇ、いじわるしちゃったけどぉ、遭難したことをきっかけに素直になることを決めたのぉ。みんな応援してねー」
視聴者からは、『かわいー。ツンデレ』とか『応援してます』などという書き込みが入ったが、勇人は聞いてきて吐き気がしてきた。
「きもっ。……こいつはないな」
勇人はそっと動画を閉じ、見なかったことにするのだった。
「他にめぼしいのは……おっと」
「魔法巫女ウズメ、祓っちゃうよー!」
金髪ツインテール美少女巫女さんが祓い串をもって悪人と戦う動画が目に入る。
「か、かわいい」
実は、勇人はかなりのオタクである。その琴線に触れる動画を見て、心がときめいた。
「でも、どっかで見たことある気がするんだよな」
なんとなく、見覚えがあるような気がする。注目してみていると、魔法巫女ウズメの前に敵が現れた。
「あっはっは。正義の怪盗義賊アルカード参上!ウズメよ!財宝はいただいた」
タキシードを着た男装美少女が、高笑いする。その胸ははちきれんばかりに膨らんでいた。
「待って。泥棒は悪いことだよ!」
「盗んだ財宝は貧しい人を助けるためにつかう。さらばだ」
こうして、二人による追いかけっこが始まる。
「アルカード様、かっこいい」
「ウズメちゃん頑張れ」
見ていた視聴者たちは、熱い戦いに喝采を浴びせていた。
「これって、今世間を騒がせている怪盗義賊と魔法巫女だよな……」
この映像はやらせではなく、実際に起こった事件である。少し前から金持ちから宝をうばって貧しい人に分け与える怪盗義賊アルカードと、それを阻止しようとする魔法巫女ウズメの戦いは大人気だった。
「ううむ……どっちかでも手に入れられたら、広告塔に使えるかもしれない」
そう思った勇人は、彼女たちを捕まえる罠を張ることにした。
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