史郎への搾取
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翌日から、史郎たち不良少年の新しい生活が始まった。
ここでは本当に自由が与えられ、決められた起床時間もなく、寝たいならいくらでも部屋にこもって寝ていられる。
ただし、何をするにも金がかかり、反抗するものは泣こうが喚こうが相手にされずに放っておかれた。
若くて健康な彼らは空腹に耐えられず、しぶしぶ仕事をするようになる。
「えーっと、今日の仕事はA4区での採掘作業か。報酬は時給1500アジアか。これにしよう」
史郎たち受刑者は、その日の仕事を自由に選んで採掘作業に精を出す。その労働も自主性が尊重され、長時間続けるかどうかは本人の体力と思惑で自由に決められた。
「あー疲れた!こんなんやってられねえ。もうやめるわ」
ヤンキーとはいえお坊ちゃんとして甘やかして育てられた史郎は、長時間の肉体労働に精神のほうが耐えられなかった。三時間ほど働いたところで、掘削機を放り出してモニターに手を触れる。
『ここまでの労働時間は三時間20分です。報酬は5000アジアですが、作業終了しますか?』
「ああ、それでいい」
資料は作業終了ボタンを押して、報酬を受け取る。首のバイオチップを読み込んだモニターに、『残高5000アジア』と表示された。
「さあ、飯だ飯だ」
仕事を終えた彼らは、上の階の販売エリアに赴く。そこではコンビニ弁当やお菓子、雑貨などが普通に売られていたが、売られているものは少しおかしな物ばかりだった。
「おい。この弁当は賞味期限が切れているぞ」
「『ポテトチップきゅうり味』ってなんだよ。こんなの見たこともねえぞ」
売り物の管理をしている黒服に苦情を言うが、とりあってもらえない。
「仕方ねえだろう。ここにあるものはコンビニの売れ残りや工場の不良品、企業の企画失敗作ばかりだ。食品ロスとして廃棄されたり在庫として倉庫に積み上げられていたものを、南方商社が買い取って卸しているのさ。豚の餌にするよりマシだってな」
黒服たちは含み笑いをする。販売エリアでは他に服なども売っていたが、どうみてもゴミ収集からリサイクルされたようなものばかりだった。
「豚の餌だって、馬鹿にしやがって!」
お坊ちゃん育ちの史郎は憤慨するが、他の貧困家庭出身のヤンキーたちには割と好評だった。
「別に弁当の売れ残りなんて、コンビニバイトしていたとき、よくもらって食ってたしな」
「少年院じゃ飯もお菓子も自由に食えなかったしな。多少変なものでも、ないよりましさ」
貧しい生活していたヤンキーほど、あたえられた自由と報酬に満足し、仕事を真面目にこなしていく。
「くそっ。もういい!」
史郎はふてくされながら、やけくそのように大量の弁当を買い込み、ドカ食いをする。
腹は膨れたものの、よりストレスがたまった史郎は、それを発散しようと遊技エリアに向かうのだった。
監視カメラで彼らの様子を上層階の小宇宙石油本社執務室で見ていた源人は、意外そうな顔をした。
「真面目に働いているようじゃのう。不良少年などやとったら、反抗して仕事にならぬと思っていたが」
「彼らは最初に逆らえないような処置を施しています。理性に乏しい動物的な者たちがほとんどなので、強制的に躾けられなければ、どこまでも思いあがって反抗しますからね」
そう冷たく突き放したのは、『後醍醐』所長にして南方財閥の常務取締役の南方勇人。彼はいつの間にか、冷徹で有能な管理者としての能力を身に着け始めていた。
「しかし、逆に彼らは動物的であるからこそ、餌を与えられたら素直に従うようになるのです」
勇人はそういってカメラを切り替える。そこには、仲間うちで廃棄弁当を食べてもりあがっているグループの映像が浮かびあがった。
「商売の基本はいつだって同じ。廉く仕入れて高く売るです。コンビニの売れ残りや企業の不良在庫を使うことで、管理コストが大幅に下げられます。もともと貧困家庭に生まれて苦しい生活をしていたものは、それでも大した不満をもつことはないじょう」
いままでいた少年院より自由を与えられて満足している少年たちを見て、勇人はニヤリと笑った。
「だが、きつい労働で次第に不満もたまっていくのではないか?」
「ご安心ください。ガス抜き対策も万全です」
そういってカメラを切り替える。そこでは娯楽エリアで遊ぶ史郎の姿が映っていた。
「おっ!激熱リーチがきた!」
旧型のパチンコ台に座った史郎は、血走った目で画面を見つめていた。
「当たれ当たれ当たれ……」
神に祈りながら手に汗握って画面を見つめていると、画面が切り替わる。
「おっ。やったぜ!大当たりだ!」
フィーバーによって仮想通貨アジアが増えていく。史郎は初めて大っぴらにギャンブルができて大興奮していた。
彼だけではなく、他の不良少年たちも熱中している。
「ハネ物って大昔のパチンコ機種みたいだけど、意外とおもしろいな」
「最近の台はおいてないけど、種類が豊富で選べるのがいいよな」
彼ら若者世代が生まれる前から数年前のものまで、ここには多種多様な機種が用意されていた。ここは公的には日本国の法律が及ばない公海上なので、今では規制が入ったものといえども堂々と設置できる。
他にも旧式ながらゲームセンターやカラオケ、ネットカフェなどの設備もあって、金さえ払えばいくらでも遊べた。
「ちっ。全額すってしまったぜ」
調子にのって遊んでいた史郎は、あっという間に今日稼いだアジアをすべて失ってしまう。
「仕方ねえ。帰って寝るか」
史郎は肩を落とし、自室に戻っていく。彼らは気づかれないうちに、搾取の対象になっているのだった。
「なるほど、日本ではもう古くなった機器を再利用して娯楽として提供しているのか」
「ええ、旧型のパチンコやカジノ場、ゲームセンターなども用意しております。彼等には大いに金を使ってもらって、経済を回してもらいましょう」
廃棄に費用がかかる旧式機種を買い取り、娯楽に飢えている収容者に提供することで、コストを減らしていた。
「さらに言うと、仮想通貨『アジア』は我々がいくらでも発行できる電子データにすぎません。日本円に換金できない以上、実質タダ働きも同じ。彼らには大いに働いてもらいましょう」
本来、資源の採掘は危険が伴い、高報酬が約束されるものである。それをロス食品やリサイクル品の娯楽の提供で労働者を管理できるのだから、儲からないはずがない。
こうして、史郎たち不良少年は労働者として搾取されていくのだった。
「後醍醐」では家の地位やクラス内でのカーストなど、すべてリセットされて誰もが平等に一からやり直しである。ここでは、娑婆での金持ちも貧乏人も関係ない。
そうなるど、同じ時期に来た不良少年たちの間でも、働かない者と働く者の格差が生まれてくる。次第に少年たちの中でも富める者と貧しい者がでてきて、力関係が変わっていった。
「お前ら、いつまであの蜂の巣エリアにいるんだよ」
「俺たちなんかとっくに脱出して、三畳間の個室エリアに移っているぜ」
「後醍醐」には収容者の間に、金によって明確にサービスの差をつけている。追加料金を払えば狭いカプセルホテルの個室から脱出して、もっとグレードが高い部屋に移ることも可能である。
いつまでもここの生活に適応できず、ふてくされてまともに働かない史郎や元取り巻きの不良少年のような上流階級出身のお坊ちゃん系ヤンキーは、次第に見下されるようになっていった。
「けっ。バカどもが。黒服や『土人類』たちに尻尾ふりやがって」
史郎はそう粋がって反抗していたが、彼の元取り巻きの不良生徒たちは後悔していた。
「くそっ。いつまでここにいればいいんだ……」
「なんでこんなことになったんだろう。勇人なんかに関わった俺たちが馬鹿だった」
厳しい労働と貧しい生活を強いられた史郎の元取り巻きたちはカーストの最底辺においやられ、次第にその鬱憤を自分たちが収容される原因を作った史郎に向けるようになっていった。
「おい。史郎。てめえのせいで俺たちまでこんな目にあっているんだ。少しはその償いをしてくれてもいいんじゃねえのか?」
ある日、史郎はかつての仲間たちに黒服たちの監視が及ばない所で、元の仲間に取り囲まれて小突かれていた。
「お、俺にこんなことしていいのか?ここから出たら、親父に言いつけててめえらに仕返ししてやるからな」
史郎は悔し紛れに親の権威を持ち出すが、元の仲間たちからせせら笑われる。
「笑わせんじゃねえよ。てめえの親父はとっくに社長を首になっているくせに」
「そうだ。それに、ここでは娑婆の地位なんて関係ないんだぜ」
そういって余計に叩かれてしまう。元は彼らのリーダーだった史郎だが、すっかり権威がおちて虐められるようになっていた。
「わ。わかった。俺が悪かった」
ついに屈服する史郎に、少年たちはニヤニヤした笑みを向ける。
「なら、おごってもらわないとな」
仮想通貨「アジア」は電子データ上にしか存在せず、現物の通貨などはない。そうなると以前のように恐喝して現金をとりあげること等はできなく、できることは自発的におごってもらうことぐらいしかなかった。
「わ、わかったよ」
こうして史郎は仲間たちに搾取されるようになってなり、カーストの最底辺に落とされてしまうのであった。
「くそっ。だけどあと一か月でここから出られる。そうすれば、元の生活に戻れるんだ」
そんな思いでひたすら耐える。そしてついに、少年院からの出所日を迎えた。
「さて、君たちは刑事上の罪は償った。ここからは君たちの民事上の賠償になる」
「民事?それってなんだ?」
いぶかしげな顔になる少年たちがモニターに手をふれると、それぞれ反応が違った。ある者はゼロと表示され、また別の者は赤字で額が表示されている。
「な、なんだこれは!」
「それは、君たちに課せられた借金の額だ」
その言葉を聞いて、少年たちは首をかしげる。
「借金って?」
「俺たち、金なんか借りてないぞ」
そんな彼等に、勇人は邪悪な笑みを浮かべた。
「いいや、君たちは立派に借金をしている。それは、外の世界でお前たちに迷惑をかけられた人への賠償金だ」
賠償金ときいて、少年たちの顔が引きつった。
「親が代わりに賠償した者は自由になれるが、そうでない者は一度南方財閥が立て替えて、被害者から債権を買い取っている。だから、返済するまでここから出られないんだ」
借金を返すまでここから出られないといわれて、少年たちの顔が絶望にゆがんだ。
「ま、待てよ。なんで俺は一千万Aも……」
「南方財閥の後継者である俺を殺そうとしたんだから、それくらい請求されて当然だろ」
史郎の抗議を、勇人は鼻で笑ってあしらう。
「お前の親父は賠償を拒否したぞ。『不詳の息子は好きにしてください』と言って会社を辞めて逃げていった。自分だけでも平穏な老後をおくりたいんだろうな」
「そ、そんな……」
親に見捨てられたと聞いて、史郎が崩れ落ちる。元取り巻きの不良少年たちも、程度の差はあれ多額の借金を背負わされて絶望した。
「自業自得だな。自分がしでかしたことの責任は、自分でとるんだ。まあ。10年も真面目に働けば返せるさ。頑張るんだな」
「そ、そんな!頼む!俺をここから出してくれ」
史郎は必死に勇人にとりすがるが、すげなく断られて号泣するのだった。
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