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後醍醐

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また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

四国沖に作られたユグドラシルを視察した源人は、素直に感動していた。


「素晴らしいな。まさに我らが創る新たな国の第一歩にふさわしい」


「ええ。これからもさらに海設都市を増やしていこうと思います」


空中に日本近海の海底図が浮かぶ。四国沖を起点として、まるでアメーバーのように東西に根が伸びていった。


「竹種は驚異の繁殖力をもつ植物として知られています。地下茎を通じて広げていけば、やがては複数の場所に海設都市を建設できるでしょう」


伸びていった地下茎のうち、いくつかの地点に光点が灯る。そこは、新たな都市の建設候補地だった。


「次は東の東青ヶ島近辺の海底熱帯鉱床に含まれる金資源と、西の東シナ海の第七鉱区の海底石油資源を掘削する予定です」


東青ヶ島周辺には世界平均の四倍もの金の含有率が含まれている熱帯鉱床があり、第七鉱区にはサウジアラビアの10倍の石油埋蔵量があると推定される。それらを開発すれば、南方家が世界の金市場とエネルギー市場を牛耳ることも不可能ではなかった。


「ふむ……このままいけば、全世界の海に広げる事ができるな」


「その頃には最初の親株である四国沖のユグドラシルは、地球の静止衛星軌道まで達するほど成長しているでしょう」


空中にユグドラシルの成長シミュレーションが浮かぶ。数年後には、天にそびえる巨大な柱に成長していた。


「そうすれば、次の目標である月開拓のための軌道エレベーターとして使えるでしょう」


壮大な夢を語る勇人に、源人は頼もしそうな目を向ける


「見事だ。まさに我ら南朝の新都にふさわしい、よし、まずはここに南方財閥の子会社である小宇宙石油の本社を移転するぞ」


興奮した源人は、そんなことを言い出した。


「一応、ここは海底資源採掘のためのプラットホームということになっています。いきなり本社をここに移すって強引すぎませんか?」


「かまわぬ。政府が何か言ってこようとも、無理やりにでも認めさせてやる。ここはワシらの作った土地じゃ。なんの文句があるとな。政府との交渉はすべてワシに任せておけ」


そういって源人は、胸を叩く。


「なら、この都市に名前をつけないといけませんね」


源人は少し考えて告げる。


「我ら南朝の祖となったお方の業績をたたえるために、この新都は『後醍醐』と名付けよう」


こうして、初の海設都市『後醍醐』が全世界に向けて発表されるのだった。



入光興産株式会社。


明治時代から続くエネルギー産業を生業とする会社である。その社長である入光俊道は、病室で一人の少年を怒鳴りつけていた。


「史郎、なぜ船で勇人の奴を殺せなかったんだ」


「すまねえ。親父」


まるで熊のような巨大な体躯を持つ父親に睨まれて、史郎は身を縮める。


「高度経済期の後、日本は石炭から石油にエネルギー転換が行われたが、炭鉱主であった我々はその流れに適応するのが遅れた。そのせいで、南方商社の子会社である小宇宙石油に日本の石油利権の半分を奪われてしまったんだ」


ひとしきり怒鳴った後、俊道は入光家が南方家の下風にたつことになった屈辱の歴史を話した。


「まったく、正統な後継者である奴を殺しておけば、長年続く南方財閥に楔を打ち込むことができたのに。成り上がりの桐人を後継者にさせて、財閥自体の結束力を弱めるチャンスだったのだ」


事故として勇人を始末できなかったことを、延々と責め続ける。


「す、すまねえ親父。もう一度チャンスをくれ。退院したら、必ず奴を始末してみせるから」


「残念ですが、それは無理ですな」


そんな声がかけられて、老年の紳士が病室に入ってきた。


「なんだジジイ。なんか文句でもあるのか」


「き、きさまは南方家執事長の楠木、何をしにきた」


恫喝する俊道に、楠木正盛は一枚の紙を突きつける。それは史郎たちを刑事告訴する書状だった。


「入光史郎さん。あなたを殺人未遂で刑事告訴させていただきます」


正盛にそう告げられ、史郎は真っ青になって反論した。


「俺たちはそんなことやってない!むしろ、勇人の奴を逮捕しろ!奴に理不尽にけがを負わされたんだ!」

必死にそう訴えるが、冷たく返されてしまう。


「嘘をついても駄目です。監視カメラにバッチリ映っていましたよ。あなたがポールフラッグを揺らして勇人様を海に突き落とした場面がね」


タブレットでその映像を見せると、史郎はがっくりと肩を落とした。


「そんな……映像は全部消したって桐人が言っていたのに!で、でも、勇人も俺たちに暴行をふるったんだ。おあいこだろう」


「残念ながら、勇人様は殺されそうになったので反撃したにすぎません。罪には問われないでしょう」


正盛はネットでの反応を見せながら諭す。勇人が史郎たちに行った抵抗は正当防衛とみなされ、むしろ賞賛の的になっていた。


「くっ……お、俺たちは桐人に言われてやっただけなんだ。俺は悪くない」


みっともなく罪を擦り付けようとする彼等に、正盛は冷たく告げた。


「彼は精神病院に入院中です。しばらく出てこれないでしょう。彼が主犯だとしても従ったあなたも同罪だ。観念するんですな」


そういわれて、史郎は絶望のあまり涙を流すのだった。


「史郎、心配しないでいいぞ。こうなったら、こちらも弁護士を雇って勇人を暴行罪で訴えてやる」


「お好きにどうぞ。あなたにそんな余裕が残っているのであれば」


正盛は含み笑いをする。


「ど、どういうことだ?」


「テレビをつけてごらんなさい」


正盛に言われて、いぶかしげに思いながらテレビをつける。


すると、海上に巨大な柱が建っている光景が映った。


「御覧ください。我々の知らない間に、このような巨大な柱が建設されていました」


報道しているアナウンサーは、その柱のあまりの壮麗さに興奮している。


「たった今発表がありました。この柱は南方財閥グループが建設した、世界初の実用型海設都市だとのことです」


場面が代わって、記者会見の会場が映し出される。そこにいたのは、高校の制服を着た勇人だった。


「それでは、高校生で南方商社の常務取締役に就任され、この海設都市の建設を推進した南方勇人さんにお話をうかがいましょう」


司会に促され、勇人が話し始める。


「人類は何十年も宇宙に目を向け、なんとかそこに自分たちの居場所を作ろうと努力してきました。しかし、いまだ人類の文明レベルは宇宙を開拓するのには至っていません」


集まった記者たちは、固唾をのんで勇人の話に聞き入っていた。


「そこで私たちは発想の転換を計りました。ます海を開拓すべきだと。宇宙空間より海底・海上空間のほうが、酸素・食料・重力・気温などあらゆる条件ではるかに人間の過ごす環境として適します。その考えに基づき、人類が恒久的に住める都市として建設されたのが、この新しい都市「後醍醐」です」


大きなスクリーンに、『後醍醐』の内部構造が明かされる。それは巨大な空間の中に複数の階層が多重的に重なる構造をしていた。


「海設都市『後醍醐』の産業は、海底資源の掘削です。我々は海底地中から、多くの資源の取得に成功しました」


その言葉を受けて、資源開発会社の社員がサンプルをもってくる。それは火が付いた氷のような物質だった。


「このメタンハイドレートを採掘することで、LNG換算で年間30.000万トンの生産を予定しております」


勇人の言葉に記者たちは驚愕する。それし日本国内の液化天然ガスの需要を満たしたうえで、なお有り余る圧倒的な量だった。


「つ、つまり、これから日本は産油国になるということですか?」


記者の質問に、勇人は笑って答える。


「今の時点では採掘はメタンハイドレートのみです。しかし、将来は海底油田の採掘にも挑戦していきたいと思います」


将来への含みをもたせる。


「さらに我々は、メタンハイドレートを圧縮加工することで、結晶化天然ガス(CNG)を作りだすことができました。この『燃える氷』ならぬ『燃える水晶』は、ING(液化天然ガス)の数十倍のメタンガスを蓄積することができます」


勇人が取り出したのは、真っ白い水晶のような結晶体だった。


つづいて南方財閥傘下の小宇宙石油の社長が壇上に立つ。


「CNGは通常のタンカーで運搬することができます。すでに南方商社とわが小宇宙石油は長期契約を結びました。これから日本だけではなく世界中に向けて輸出していく方針です」


その言葉を聞いて、記者たちはワーッと沸き立つ。もちろんテレビをみていた日本国民たちも、将来に明るい希望を抱いた。


「日本が資源国になるんだって!」


「日本の技術に資源が合わさったら、いったいどれだけ豊かになるのやら……」


「こうしちゃいられない。南方商社と小宇宙石油の株を買うぞ!」


明るいニュースに沸き立つ国民たち。また、海外でもこのニュースは好意的にとらえられていた。


「戦争の影響でいつガスの供給が止まるか不安だったが、これで寒い冬を乗り切れる」


「今すぐに日本に行って、CNGの買い付けをしなければ」


エネルギー不足に悩む欧州では、こぞって日本と契約をむすぶべきだとの声があがるのだった。


世界中がこのニュースに湧き上がる中、病室では入光俊道が真っ青になっていた。


「そ、そんな……わが社が保有する天然ガスのタンカーはすべて特別仕様のLNG(液化天然ガス)運搬船だ。自社で採掘された上に通常のタンカーで運ばれたら……」


「ええ、他国から高値で買い付けている上にさらに運送まで莫大なコストがかかる、あなた方の会社はおしまいでしょうね」


正盛が冷徹に事実を指摘する。遠い海外でLNGを買い付けて、特別な船を用意して片道輸送で運ぶのと、近い近海で自社生産して通常の船でCNGを往復輸送運行するのではコストに雲泥の差が生じるのはわかりきっている。


これから小宇宙石油が日本の市場を独占することになるのは目に見えていた。


「す、すまなかった。史郎の件は謝る。ぜひわが社とも契約を結んでほしい」


このままでは徹底的につぶされるとおもった俊道は、恥も外聞もなく土下座をした。


「お、親父、俺を見捨てるのか?」


「うるさい!わが社の存亡の危機なんだぞ。黙っていろ」


醜く争う親子に呆れて、正盛は告げる。


「もし御社がわが社と契約したいのなら、すべての持ち株を南方商社、いや勇人様個人に譲渡して傘下に入る必要があるでしょうね。もちろんそこの小僧も少年院に行ってもらうことになるでしょう。詳細はまた後日話し合いましょう」


そういって病室を出ていく。俊道と史郎はそれを呆然と見送る事しかできなかった。


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