海人類(マーメイド)
「『流亀城』との連絡は取れたか?」
「はっ。現在、フィリピン沖に滞在中とのことです。まもなく当船と進路が交錯します」
誠也は部下からの報告を受ける。
勇人と別れた誠也は、エストラント号にのって太平洋を南下し、自らの故国と連絡を取っていた。
「そうか。気を引き締めないとな」
『流亀城』とは、海を漂う巨大な大亀の甲羅の中に創られた町である。
普通の人間より肺活量が多く、鯨のように長い時間水中にいられる種族『海人類』たちの本拠地だった。
誠也は部下たちをつれて、海に飛び込む。すると彼らの二本の脚が合わさり、魚の尾びれへと変化していく。
誠也たちが海を潜っていくと、深い深い海の底に、東京ドームほどの巨大な甲羅を背負った亀が見えてくる。
「『玄武』様の状態はどうだ」
「あまりよくはありません。もう寿命を迎えつつあるのかも」
大亀の周りを警備していた『海人類』の兵士が悲しそうに答える。甲羅を背負った大亀は、よくみると皮膚のあちこちがひび割れていた。
「そうか。一刻もはやく我々が安心して住める土地をさがさねばならんな」
誠也がそうつぶやくと、巨大な甲羅の中に入っていく。そこには大量の空気がたまっており、そこには地上と変わらない町が築かれていた。
「王子、おかえりなさい」
誠也は住人たちに熱烈な出迎えをうける。
「すまないが、すぐに城に向かう。母と面会したい」
そうつげると、誠也は甲羅の中央につくられた城に向かった。
「『海人類』女王の息子セイヤ、ただいま戻りました」
玉座の前に跪く誠也。玉座に座っている美しい女性は、優しい顔で息子を迎えた。
「セイヤ、久しぶりですね。地上への偵察任務、ご苦労さまでした。我ら『海人類』をすくってくださる『救世主』は見つかりましたか?」
「いえ、まだ見つかっておりません。ですが、重大な報告があります」
誠也は持ってきた資料を手渡す。それを読んだ女王は、笑みを浮かべた。
「なるほど。海設都市ですか。これはまた懐かしいですね」
「母上は、ご存じなのですか?」
「ええ、はるかな過去、前世の前世のまた前世、今は無きデーモン星を周る水の惑星『ポセイドン』にいたころには、私はそこに住んでいました。ようやく人類の文明も、海設都市を再現できる段階にまで達しましたか」
女王はそういって、遠い目をする。
「あの、さっきから何をおっしゃっているのですか?」
訳の分からないことをいって感慨にふける女王に、誠也は首をかしげる。
「いえ、なんでもありませんよ。それで、海設都市を作った南方勇人とは、どのようなお方でしたか?」
「正直、判断しかねております。ただの強欲なお坊ちゃんなのか、それとも得た富を使って世界を開発する開拓者なのか」
間近で勇人の行動を見ていた誠也は、彼の人柄を計りかねていた。
「放置していて、よろしいのでしょうか。このままでは海も人間たちに支配されてしまうかと」
「支配?では私たちは海を支配しているとでも?それはただの思い上がりというものですよ」
女王は厳しい顔をして、誠也をたしなめる。
「私たちは大いなる海に住まわせてもらっているだけです。支配などおこがましい。海に新たな住人が増えるのです。喜ばしいことではありませんか」
「は、はぁ」
そう言われて、誠也はひきさがる。
「しかし、確かに少し様子をみる必要がありますね。もし彼に私たち『亜人類』を受け入れてくれる器があるのなら、私たちが待ち望んだ『救世主』なのかもしれません」
女王はそうつぶやくと、誠也に命令した。
「わが息子セイヤよ。あなたはこれからも彼に協力して、海に沈んだ財宝を提供して信用を得なさい。そうすれば、わが一族も救われるかもしれません。この12使徒の1人『海人類』のオトヒメがしかと命じます」
「は、はい」
誠也は跪いて、命令を受け入れるのだった。
南方家の屋敷
「勇人は元気でやっておるじゃろうか……」
豪勢な応接室で、源人は勇人の身を心配する。
「お館さま。まだ三日ですよ」
「う、うむ。だが、何の連絡もない。海設都市を建設するといって出ていったが、そんな大事業は数十年単位で取り組むべきことだ。どうも若さゆえか、せっかちな所があるな。トップが焦って自ら動き回っても、できることはかぎられておるというに……。帰ってきたら、少し落ち着くように諭さねばならんな」
正盛相手にそんな愚痴をもらしていたら、源人のスマホが鳴った。
「お爺さん。終わりましたので視察に来てください」
「おお、勇人か。心配しておったぞ。調査が終わったのなら、早く帰ってこい。お前はまだ高校生なのだ。そう仕事に精をださなくても……」
「いえ、終わったのは海設都市の建設です」
電話の向こうの勇人は、あっけらかんと言い放った。
「……は?」
「ですから、海設都市ができたと申し上げました」
続いて勇人から写真が送られてくる。そこには海上に巨大な柱が立っていた。
「……これは?」
「記念すべき海設都市の第一号です」
「……」
源人は正盛と顔を見合わせて、わけのわからないといった顔になる。
「……とりあえず、行ってみよう」
「はい。お待ちしております。あ、発着所も作ったので、ヘリコプターでこられても大丈夫ですよ」
そういって電話が切れる。源人たちは困惑するも、ヘリコプターで現地に急行するのだった。