プロジェクト始動
日本全国を回ってめぼしい財宝を回収した結果、南方家の地下金庫は山のように大量の金銀財宝で埋まった。
「これでだいたい200兆円くらいになります。お爺さんは南方家の力とコネを使って、世界中のオークションでこの財宝を売りさばいてください」
「よかろう。任せておけ」
実際に動いて金を稼いだり事業を推進するのは若い勇人にまかせ、自分は財閥総帥の地位をつかって適切なサポートする。源人は己の役割を自覚し、勇人を頼もしく思っていた。
「しかし、勇人の夢に現れた『夢人類』のナイトメアとやらは何者でしょうか」
「わからぬな。だが我が家は長年続く財閥じゃ。思いもよらぬところで恨みを買うこともあろう。いちいち気にしていれば、きりがない」
源人はそういって切って捨てる。
「それで、次にすることですが」
空中に日本全土とその近海の地図が浮かぶ。それは地上と海底の詳しい地形を表したものだった。
「これが真の日本国の領土になります。この中で現在北朝が支配しているのは、陸地部分だけ。大部分を占める海底部分は、所有者がいない無主の土地となります」
海底についていろいろなデータが浮かび上がる。金山や銀山、レアメタル、石油など豊富な資源があることが示されていた。
「我々南朝の先祖が歴史の闇に消えていったのは、日本という狭い領土をめぐって北朝と血で血を洗う争いを繰り返し、敗れたからです。豊臣家が衰退したのも、戦前の大東亜共栄圏が夢と消えたのも、他国に手をだしたため。同じ轍を踏まないためには、どうすればいいか」
海底に光点が灯る。それはしだいに増えていき、互いに連結していつしか日本の南方に巨大なネットワークを構築していた。
「海に我々の国を創るのです。そうすれば、北朝を含めたいかなる国の主権を侵すことなく、大海を領土とした南朝による大帝国の建設が可能になります」
太平洋に『大海亜共栄国』という文字が浮かんだ。
「ふむ。あらたなる南北朝時代というわけか」
「とはいえ、先は長いです。まずは最も有望な資源が眠るこの海域に、最初の海設都市を築くことから始めましょう」
桐人は地図上の一帯を示す。そこは四国の沖に存在する大陸棚だった。
一週間後
「海底開発の許可がおりたぞ。南方財閥がすべての費用を自己負担するかわりに、海底資源の利用を一任するそうだ」
日本政府との交渉が終わった源人は、勇人にそう告げる。
「さすがは南方財閥ですね。こんなに早く許可が下りるとは思いませんでした」
「ふん。奴らは金にうるさい。海底開発を名目に援助を求められるのなら審査に時間がかかるが、すべて民間資本でするというのなら簡単に許可するだろう。開発に成功すれば新たな利権にもありつけるしな」
交渉にかかわった役人たちの欲の皮がつっぱった顔を思い出し、源人は鼻をならす。
「はてさて、北朝の僕たる日本政府ごときに我らを制御できるものやら。まあいいです。さっそく今から海設都市の建設に乗り出しましょう」
実に軽く言う勇人に、源人は困惑してしまった。
「い、今からか?まずは南方金属鉱山を使って、じっくりとどこを開発すべきか調査するのでは?」
当然のことをいう源人に、勇人は軽く笑った。
「大丈夫です。ブラックナイトのデータを使えば、海底のどこに資源があるかすべて把握済みです。とりあえず、船を一隻だしてください」
勇人の要請により、豪華客船が用意されるのだった。
勇人は、用意された客船にのって海上にいた。
「まさか、またこの船に乗るとは思わなかったな」
感慨深そうに船体をなでる。源人が用意したのは、豪華客船エストラント号だった。
「あの遭難の件で相当悪いイメージが付きましたからね。元の所有船会社は大喜びで手放したようですよ」
そう声がかけられて振り向くと、船長の服を着た浦島誠也が立っていた。
「誠也さん。久しぶりです。それにしても、南方財閥はこの船を買い取ったのですか」
「正確にいえば、この船の所有者はあなたです」
「おれ?」
思いもかけないことを言われて、勇人はびっくりする。
「これから、できるだけ勇人さん個人名義の資産を増やしていくそうですよ。自分が亡くなっても、スムーズに財産の移譲ができるようにと」
「なるほど。お爺さんらしいな」
高校生の若さで巨大豪華客船のオーナ―になってしまった勇人は苦笑する。
「それなら、小遣い稼ぎにちょっと寄り道でもするか。申し訳ないけど予定を変更して、千葉県の犬吠岬に向かってください」
東京から出発したエストラント号は、進路を東にとって千葉に向かうのだった。
「勇人さん。これはなんですか?」
倉庫に積まれた三つのコンテナを見て、誠也は首をかしげる。船には他に調査機械などの類が一切積まれていなかった。
「協力者に技術提供してもらい、南方財閥の科学研究部に作らせた海洋開発のための秘密兵器ですよ。よし、そろそろ現場だな」
勇人が壁のスイッチを押すと、自動で天井が開き、一つ目のコンテナがクレーンで運ばれて甲板に設置される。
コンテナが撤去されると、巨大なパラボナアンテナのような機械が現れた。
「これは?」
「俺の持つ『地神盾』を参考にして作った引斥力地場発生装置、通称『モーゼ』です」
パラボナアンテナは、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「これは発動にとんでもない量の電気が必要になるので、普通の船じゃ運用できないんですが、豪華客船であるエストラント号なら使いこなせますね。では、前方の海面にむけて『モーゼ』発動」
勇人がスイッチをいれると、ウィィンという音とともにアンテナから引力波が発せられる。
しばらくすると、前方の海面が渦を巻き始め、その中心部から海水が排除されていった。
「す、すごい」
誠也が呆然としている間に、どんどん海底が現れていき、穴の中心に何かの残骸が見えてきた。
「あれは何です?」
「見てからのお楽しみです。それじゃ行きましょう」
勇人は梯子をおろして降りていく。二人は海底の残骸に向かって進んでいった。
「