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惨劇

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「もう嫌だ!」


ついに勇人は嫌気がさして、デッキブラシを投げ捨てる。それを見た生徒たちからブーイングが上がった。


「おい!なまけるなよ」


「てめえは桐人へのいじめの罰としてやらされているんだ。さぼっていたりしたらチクるからな」


生徒たちは口々にそう言ってあおる。いつの間にかその手にはアルコールの瓶が握られていた。


「ふざけんな。俺はもう何もしないからな」


そう言い返すと、酔っぱらった一部の生徒が勇人を取り囲む。


「な、なんだよ」


恐怖に駆られて見渡すが、彼らの目は据わっていた。


「勇人のくせに生意気じゃねえか」


「てめえの立場というものを教えてやるぜ」


入光史郎をはじめとするヤンキーたちが、勇人にせまる。


「やっちゃえ!」


「そうよ。しつけをしないとね」


空美幸たちリア充女子たちは、はしゃぎながら史郎たちを煽った。


じりじりと迫ってくる不良たちに、勇人は船首のホールフラッグの所まで追いつめられる。


そのとき、生徒たちの中から桐人が出てきて、史郎たちを止めた。


「まあ、待ってくれ。まずは彼女たちから話があるそうだよ」


ニヤニヤしながら桐人がそういうと、真理亜、奈美、小百合がクラスメイトたちの中から進み出る。


「あんたみたいな奴が兄だなんて、うんざりなのよ。もう家から出て行ってくれない?」


「見るだけで不愉快です。学園もやめてください」


「ていうか、人間やめれば?うざいし」


三人は顔をゆがめてそう言い放った。


「どうだい?彼女たちのいう通り、君が南方家から消えてくれれば、全部許してあげるよ」


上から目線でいう桐人に、勇人の怒りが爆発した。


「ふざけんな。俺は南方家の正式な跡取りだ!お前なんかに乗っ取られてたまるか!」


勇人の言葉を聞いた桐人は、やれやれと肩をすくめた。


「やれやれ、まだお坊っちゃん根性が抜けてないのか。そもそも今は時代が違うだろ。実力と人望がある人間がトップに立つべきなんだ」


桐人の主張に、生徒たちはうんうんとうなずく。


勝手な言い草に、勇人は納得できなかった。


「嫌だ。俺は絶対に出ていかないからな」


あくまで抵抗する勇人に、桐人はあきれ顔になる。


「本当に、可哀想な奴だよ。やっぱり、ちゃんと躾をしないとわかってもらえないみたいだな」


桐人が合図すると、入光史郎をはじめとする不良たちが拳を振りかざして迫ってくる。


勇人は追い詰められて、船首のポールフラッグに昇らざるを得なくなった。


「あはは、みろよ。ポールフラッグに昇っているぞ」


「何がしたいんだろね。びびっているわよ」


その様子をみて、生徒たちから失笑が笑う。


「よし。揺らしてやろうぜ」


調子に乗った不良生徒たちは、ゆさゆさとポールフラッグを揺らし始めた。


「よ、よせ。落ちる」


真っ暗な海に落ちそうになり、勇人は悲鳴を上げるが、その叫び声がますます生徒たちを調子づかせた。


勇人が海に落ちそうになったとき、大きな声が響き渡る。


「やめなさい!!勇人さんを放しなさい」


そう怒鳴りつけたのは、真面目そうな雰囲気をもつ耳にピアスをつけた少女、クラス委員長の金谷姫子である。彼女の周りにはリンチに参加していなかった生徒たちがいて、彼らの暴挙を必死に止めようとしていた。


「そうにゃ。やめるにゃ。さすがにやりすぎにゃ」


「……それって犯罪」


小柄でカチューシャを頭につけた、猫っぽい雰囲気を持つ猫屋敷美亜と、黒髪で目を隠した大人しそうな幽谷玲も、調子にのったクラスメイトたちを止めようとしていた。


彼女たち三人は特待生で一般家庭から弥勒学園に入学した優秀な生徒たちだったが、上級国民の子女が通うこの弥勒学園ではなんの権威ももたない。


従って彼女たちが諫めるも、思いあがった上位カーストの生徒たちは聞く耳をもたなかった。


「ああ?陰キャのくせにうぜえんだよ。ひっこんでな。今いいとこなんだからよ」


リア充女生徒のリーダー、空美幸がうるさそうに吠える。彼女たちはスマホでこの光景を録画していた。


「そうだよ。何マジになってんだよ。冗談だっての」


「陰キャってすぐ必死になるから、うけるー」


他の生徒たちも、真っ青な顔をして諫める下位カーストたちを嘲笑った。


「じ、冗談にしてもほどがあります。もし落ちたりしたら……」


必死になって止めようとする姫子たちに、不良たちの嗜虐心はさらに煽り立てられる。


「大丈夫だっての。おらっ!」


酒に酔って気が大きくんなった入光史郎が、助走をつけてポール目掛けて飛び蹴りを放った。


「くらえ!」


史郎が放ったけりは、ポールフラッグを大きくゆがませて、勇人は船外に放り出されそうになった。


次の瞬間、ポールフラッグがボキッと音を立て、勇人は暗い夜の海に落ちていく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


叫び声だけを残して、勇人は海に落ちていった。


「や、やばっ」


さすがに慌てた生徒たちが海面をのぞき込むが、勇人の姿は波にのまれてみえない。


「ど、どうしょう?あ、あいつ沈んじまったぜ」


止めをさした史郎が今更ながら動揺するが、桐人になだめられた。


「いや。これは事故だ。あいつがふざけてポールフラッグに昇って遊んでいたから、勝手に落ちたんだ」


そういい放つ桐人に、生徒たちから賛同の声が上がる。


「そ、そうだよな。あいつが勝手に落ちたんだ」


「私たちは悪くないわよね」


集団心理で自分たちは悪くないと思い込む生徒たち。中には史郎を慰める者までいた。


「史郎、心配するな。俺たち全員が証人になるから。あいつは勝手に海に飛び込んだんだ」


「そ、そうだよな」


美しい友情に感激する史郎。


「君たちも今みたことは忘れろ。あいつは一人で遊んでいて勝手に落ちたんだ。もし裏切ったら……」


桐人たちはすさまじい目で睨みつける。人殺しを目の当たりにして、下位カーストの生徒たちも恐怖に震えた。


「わ、わかったよ」


その反応に、桐人たちはにやりと笑う。


こうして勇人はクラスメイトに見捨てられたのだった。





「苦しい!溺れる!」


海に落ちた勇人は、太平洋の高波に翻弄されながらも、必死にあがいていた。


「ぶはっ!」


やっとのことで海面に顔をだして、思い切り深呼吸をする。


「おーーーーい!助けてくれぇ!」


必死に呼びかけるも、その叫びに返答はなかった。


「い、いくら奴らだって、まさか人殺しまではしないはずだ。きっと助けを呼んでくれる」


そう思ってすがるように客船を見るが、反応はまったくない。それどころか、次第に離れていった。


「じ、冗談じゃない。待ってくれ!」


必死に泳いで船を追いかけるか、どんどん引き放されていく。やがて豪華客船は夜の闇にまぎれて、見えなくなっていった。


やがて勇人は、暗い夜の闇の中に一人取り残される。


「う、うそだろ!誰か!助けてくれ!」


必死に叫び続けるが、その声はむなしく夜の海に響き渡るのみだった。


そして数時間後、勇人は体力の限界を迎えようとしていた。


「星がきれいだ……」


すでに泳ぐ体力も失われて、ただ波に流されるままに太平洋を漂うだけ。


勇人の目に入るのは、満天の星がきらめく夜空のみだった。


「は、はは……俺はここで死んでしまうのかな……」


大財閥の御曹司に生まれながら、家族やクラスメイトにも見捨てられて、ただ一人孤独に死んでいく。


勇人の心は絶望に沈もうとしていた。


その時、夜空に煌々と輝いていた月が陰る。


「ん?」


気が付くと、巨大な結晶体のようなものが空に浮かびながら、ゆっくりと近づいてきた。


「あ、あれはなんだ?」


飛行機ではない。その結晶体はまるで真っ黒いダイヤモンドのような形をしていて、月や星の光を吸収している。


気が付くと勇人の視界すべてを覆いつくしていた。


「も、もしかして、超巨大な未確認飛行物体(UFO)」


勇人は頭上に広がる神秘的な光景に思わず目が奪われる。その巨大な黒い結晶体の内部からは、ところどころが光が漏れていて、明らかに人工的な形状をしていた。


勇人が呆然としていると、結晶体から一筋の黒い闇が発せられて、勇人を包みこむ。


「うわぁぁぁぁ」


ふわりと宙に浮く感覚を感じながら、勇人の意識は闇に落ちていくのだった。


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