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土人類(ドワーフ)

少しでも「面白い!」「続きが気になる!」「更新がんばって!」と思っていただければ、↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです。


また、読者の意見も参考にしたいので、どんどん感想もお寄せください。それによって展開に反映したりします

日射市


北関東に位置するその都市は、江戸時代に幕府を祭る大規模な神社である日射東照宮が建てられたことで有名である。また、同じ市にある芦尾銅山では、国内有数の鉱山として江渡時代の銅銭づくりとして大いに栄えていた。


しかし、今では銅資源の枯渇と鉱毒被害にあって鉱山は閉鎖され、観光資源となっている。


桐人がつれてこられたのは、芦尾鉱山と日射東照宮の間にある人気のない山野だった。


「こんなところに連れてきて、俺に何をしろっていうんだ」


喚く桐人に、勇人は冷たく告げる。


「黙っていろ。すぐに分かる」


そう言うと、一緒についてきている南方金属鉱山の社長、土御門黙里に問い掛けた。


「ここの土地の買収は終わっていますか?」


「……ああ。終わっている。なんの価値もない山野なので、買収も容易だった。しかし、なぜ買収などを」


黙里は、いぶかし気に答えた。


「マスコミにかぎつけられて余計なトラブルを避けるためです。まずはこの土地に囲いをつくってください」


開発会社は勇人に言われるままに土地をシートで囲い、外から見えないようにする。黙里が率いる作業員たちは背が低くずんぐりしていたが、意外に出際が良く素早く作業をおえることができた。


「危険!資源調査のため掘削中」の看板を建てて、他人が近寄らないようにする。


「よし。これで中で何をしているのかわからなくなりましたね。掘削作業を始めてください」


勇人に命令されて、作業員たちはすごいスピードで穴を掘っていく。


「みんな,なかなか優秀ですね」


「……ワシらは穴を掘ることに長けておる一族だ。口の悪い人間たちからは『土蜘蛛』などと呼ばれておった」


黙里は褒められても、うれしくなさそうに答えた。

あっという間に穴が掘られ、部下から報告があがる。

「穴の底に何かの通路があります」

その報告を受けて、勇人はにやりと笑った。

「よし。行きましょう」

勇人は桐人の首根っこつかむと、モーグリたちを引き連れて穴の中に入っていくのだった。


「いい加減に説明しろ!この通路はなんだ!」


無理やり地底の通路に連れ込まれて、桐人は混乱している。


「いいだろう。桐人、お前も知っているだろう。徳川埋蔵金のことを」


徳川埋蔵金とは、徳川幕府が新政府に倒されたときに、その軍資金が行方不明になったことから端を発する埋蔵金伝説であり、その総額は20兆円にも及ぶとされている。


新政府以降、何人もの人間が血眼になって探し回り、テレビで発掘企画が行われたことで有名になったが、いまだに発見には及んでいなかった。


「徳川埋蔵金は、江戸陥落の時、ひそかに徳川家の神社である日射東照宮に運ばれたんだ。そこで盗賊よけの処置をされたのち、地下通路を通じて芦尾銅山の廃坑に隠された。ここはその通路だ」


話している間に、一行は黒い墨で書かれた巨大なお札が何十枚も貼っている扉にたどり着く。


「こ、ここはなんだ?」


「さっきもいった通り、盗賊よけの防御トラップがある部屋さ」


勇人はまったく恐れることなく、お札をやぶって扉をあける。


「……やはり、仲間たちの屍があったか」


部屋の中を見た黙里たちは、うめき声をもらす。


部屋の中には、何百人もの鉱夫の恰好をした骸骨が壁に立てかけられている。誰もが背が低くがっしりした体格だったが、恨めしそうに次の通路に通じる扉を見つめていた。


「ここの通路を作った鉱夫たちですね。かわいそうに、埋蔵金の秘密を守るためにここに生き埋めにされたみたいです。成仏できないように封印処置されたうえで」


「知っておる」


黙里が不機嫌そうに答えると同時に、骸骨たちに青白い鬼火がまとわりつく。


「侵入者ダ……」


「宝ハ渡セヌ……」


骸骨たちはカタカタと動き出し、勇人たちを取り囲んだ。怨霊たちの無念の想いが、ひしひしと伝わってくる。


「幽霊って、要は肉体から離れた精神が地球の電気エネルギーを取り入れて空間に映像を投影しているプログラムのようなものなんです。たいていそのうち地磁気に吸い込まれて大地と同化するんだけど、まれに永く地上にとり残されるのもいます。いわゆる地縛霊ですね」


勇人がやけに冷静に説明している間にも、骸骨がどんどん迫ってくる。


「本物の財宝には、必ずこういう怨霊が配置されているんです。何百年経過しても侵入者を確実に撃退できる不死身のガーディアンとして。それを排除するのに、若くて元気な生贄が必要となります」

そう言うと、勇人は大声で怨霊に呼びかけた。


「罪なくして地中に生き埋めにされた怨霊たちよ。お前たちの無念を理解してくれる者を連れてきたぞ」


そういって、ドンっと桐人を突き飛ばす。桐人は怨霊たちに囲まれて、地面に倒れこんだ。


「な、何するんだ!うわぁぁぁぁぁ」


桐人の『同期心』の能力が解放され、報われない怨霊たちの間に広がっていく。


「ウラメシイ……」


次の瞬間、骸骨たちにまとわりついていた鬼火が一斉に桐人の身体に入っていった。


「い、いたい!やめろ!俺の身体に入ってくるな」


彼らは自分たちの苦しみを理解してくれる桐人に群がっていき、何百人もの怨霊の魂が身体に入っていく。無数の痛み苦しみや無念の想いが伝わってきて、桐人はもだえ苦しんだ。


「よし。うまくいったな。いくら『魔人類(デモンズ)』である俺でも、物理攻撃が通じない怨霊トラップを回避するには生贄を捧げるしかないからな」


のたうち回って苦しむ桐人を放っておいて、黙里たちに声をかけた。


「さあ、行きましょう。宝の間はすぐそこです」


「……いったい何をしたのだ」


黙里から睨みつけられ、勇人は平然と答えた。


「この地に縛りつけられていた鉱山夫の魂を、呪縛から解放して桐人の身体にインストールしました。これで彼等も楽になれるでしょう」


そういうと、次の間に通じる扉に向かう。黙里たちは黙って勇人についていった。


次の間には、何百もの千両箱が積み上げられていた。


「ここの財宝だけで、ざっと50兆円ほどか。まだまだ足りないけど、最初はこんなものだな。『空神珠』」


勇人はネックレスを掲げ、玉に千両箱を収納する。何百もあった千両箱は、すべて玉に収まった。


「そ、それは、伝説の神宝『空神珠』?お前はそれを使いこなせるのか?」


「ええ。大量の荷物を持ち運びできるので、便利ですよね」


勇人はそういうと、千両箱の一つを黙里たちに渡した。


「これは報酬と口止め料です。みんなで分けてください」


千両箱をあけると、小判がたくさん入っていた。


「……それより、そいつはどうするんだ?」


黙里は地面を転がってうめいている桐人を指し示す。泡を吹いて倒れている桐人の体には、何百もの人面痣が浮かんでいた。


「安心してください。ちゃんと後始末はします。『同期心』の能力を持つこいつは霊体に憑かれやすいので、これからも役にたつでしょうからね」


勇人は桐人を担ぎ上げると、地上に戻っていった。




地上に戻ると、勇人は桐人の身体を地面に横たえる。そえしておいて、彼のそばの地面に『雷神剣』を突き刺した。雷神剣から電光が奔り、複雑な文様の魔法陣が大地に刻まれる。


その儀式を、黙里たちは黙って見守っていた。


「はっ。こ、ここはどこだ?お、俺はたしか怨霊に取り付かれて……うっ」


桐人の意識が戻ると同時に、体の中から何百人もの意識が伝わってくる。


「苦しい……」


「なんで俺がこんな目に……」


「楽になりたい……」


鉱山夫として無理やりこき使われたあげく、死後も何百年も財宝に縛り付けられてきた彼らの無念が伝わってくる。


その意識の濁流に、桐人のちっぽけな自我は耐えられず、あまりの苦痛に発狂しそうになった。


「た、助けてくれ……」


その叫びに反応したのは、体中に浮かんだ人面痣から浮かび上がる哄笑のみだった。


「哀れなる怨霊たちよ。この世の執着から離れ、大地に還るがいい」


雷神剣から電光が迸り、神代文字で描かれた複雑な魔法陣が輝き始める。


その光に照らされた人面痣は、一つ一つ桐人の身体から離れていった。


「気持ちいい……」


「やっとこの世から離れて、輪廻の輪に戻れる……」


「感謝いたします。救世主よ」


怨霊たちの姿が元の人間に戻っていき、大地に還っていく。桐人の身体に浮かんでいた人面痣がすべて消えるとともに、内側から聞こえていた恨みの声も聞こえなくなっていった。


「これで大丈夫だ。憑依していた怨霊はすべて大地に還したぞ」


勇人の声が聞えてくる。彼は桐人のそばに立って、ニヤニヤと見下ろしていた。


「ゆ、勇人?」


「お疲れさん。役に立ってくれてありがとな。まあ、生命力が10年くらいもっていかれたけどな」

勇人が差し出した鏡をみて、桐人は絶叫する。そこに映ったのは以前の美少年のものではなく、げっそりとした老人のような姿だった。


「ひ、ひどい。なんでこんなことを……」


悲惨な姿になってしまった自分を見て、桐人は涙を流す。


「なぜだって?お前がクラスメイトたちを扇動して俺を殺そうとしたんだろうが。その復讐だよ」


「だとしても、これはやり過ぎだろうが!」


必死になって責めてくる桐人だったが、勇人は意に介さない。


「何言っているんだ。これで終わりじゃないぞ、次は豊臣秀吉が残した多田鉱山の軍資金と、帰雲山城の失われた金塊。あと結城家の埋蔵金に大久保長安の隠し資金も予定にいれているんだからな。休んでいる暇はないぞ」


「ひいいいいい」


またあの苦しみが繰り返されると知って、桐人は絶叫するのだった。


その時。黙って見まもっていた黙里たちが、勇人の前に跪いた。


「我らの同胞の魂を救ってくださって、ありがとうございます。我らが救世主よ」


「救世主?」


首をかしげる勇人に、黙里は自分たちの正体を告白した。


「私たちは『土人類(ドワーフ)』と呼ばれる一族です。土を掘るのが得意で、昔から鉱山などで働いていました」


ずんぐりしていて背が低いが力があり、心肺機能も高いため酸素濃度が低い深い地中での作業も苦にならない『土人類(ドワーフ)』たちは、昔から土木建築などで権力者たちに利用されてきた。


その中には、財宝を隠すための穴を掘る事にも使われ、それ終わった後は生き埋めにされて何百年も魂を縛り付けられることもあったらしい。


「我々は、同胞の魂が永遠の苦しみを感じているにもかかわらず、救ってやる手立てをもちませんでした。しかし、あなたは魂を解放し、輪廻の輪に戻してくれました。あなたこそが、我らが待ち望んだ『救世主』です」


土人類(ドワーフ)』たちは、勇人の前に平伏する。


「この12使徒の1人『土人類(ドワーフ)』のモーグリ、これからもあなた様に協力させていただきます」


こうして、勇人は彼らに忠誠を誓われるのだった。


それから全国の財宝を回収する旅が始まり、何度も怨霊に取り憑かれたり祓われたりしているうちに、桐人はすっかり生気を失い、ボロボロになって精神病院に収納されるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 高い心肺機能で、酸欠にも耐えうる人類「ドワーフ」! チベット~ヒマラヤ地域に適応したシェルパ族にも通じるところがありますね。 日本の山師や剛力たちのように、大和民族と融和して実在するのかも?…
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