洗脳
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「さて、南方財閥のすべては我々の手に戻った。残った桐人の処分じゃが、奴は現在どうなっておる?」
「長い間海の上を漂流していたので、喉の渇きに耐えられず海水を大量に飲んだようです。そのせいで腎臓が壊れ、現在も入院中です」
勇人の答えに、源人はわずかに同情を見せる。
「ふむ……これから一生透析生活か。若いのにもはやまともな人生を送れまい。我が家の乗っ取りを謀った罪人とはいえ、許してやってはどうか?あれでもわが孫だ」
慈悲を見せる源人に、勇人は首を振る。
「お爺さん。奴は私を殺そうとしました。そこまでした者を許しては示しがつきません」
「それはわかるのじゃが……」
歯切れの悪い源人。
「お爺様はなぜ奴に甘いのですか?」
「無理に政略結婚を押し付けたせいで駆け落ちされてしまった詩織の息子ということもあるが……なぜか奴をみていると、その不幸な生い立ちに同情してしまうのだ」
その様子に、勇人は違和感を感じた。
「お爺さん。ちょっと失礼します」
そう言って、源人の額に手を当てて脳波をさぐる。すると、その中にノイズのようなものを感じた。
「なるほど……お爺さんは、軽い催眠状態にかかっています」
「なんだと?」
「今から催眠を解除する妨害電波を出しますね」
不必要なノイズを打ち消す電波を発すると、脳内に入り込んでいる洗脳が消えた。
「こ、これはなんとしたことだ。急に頭の中がすっきりしたぞ」
桐人に対する同情心が消えて、怒りが沸き起こってくる。
「どうやら、奴には「同期心」という能力があるみたいですね。相手の同情心を増大させて、自らに好意をもたせる能力です。これは王や貴族、下賤からなり上がった英雄などにしばしばみられる力です」
豊臣秀吉は「人たらし」といわれるほど人の好意をつかむことにたけていたという。誰もが身分の低い彼の出生を差別せず、むしろ同情心を抱いて彼に力を貸した。そのおかげで天下が取れたのだった。
「今にして思えば、正人や真理亜もたぶらかされていたのかもしれません。彼らの奴に対する好意は、いささか行き過ぎていました」
それを聞いで、源人の顔が憤怒に染まった。
「おのれ!わが孫とはいえ、許してはおけん」
「お爺さん、落ち着いてください。奴の処分は考えております。それよりも、太陽系開発計画を始動しましょう」
そういって、源人にこれからのプランを提示した。
「なるほど。人類の可住領域を広げるためには、まずはそこから手を付けるべきということだな」
「ええ。これが成功すれば、現在地球を蝕んでいる環境問題も解決されることになります」
勇人は自信をもって断言する。
「ただし、このプランを実行するには最初に莫大な資金が必要となります」
必要な資金の試算を見て、源人は眉を寄せた。
「およそ200兆円か。今の南方財閥の総資産はいろいろ隠し財産を合わせても10兆円くらいだ。とても足りはしないな」
示されたプランはとても魅力的な案なのだが、資金がたりないので実現が危ぶまれる。
「ご安心を。地球と人類の歴史をずっと観察してきたブラックナイトの情報を使えば、資金不足を解消する方法などいいくらでもあります」
そういって、勇人は自信を見せる。
「たしか、南方財閥の下請けには資源開発会社もありましたよね」
「ああ。江戸時代から続く会社だが、金銀鉱山の資源枯渇、石炭鉱山の閉山などにより、規模を大いに縮小している。現在所有している鉱山は、鹿児島の菱借金山だけだ」
源人の答えに満足する。
「ならば都合がいい。桐人にも手伝ってもらって、資金調達と行きましょう。さしあたって、ここの土地を取得してください」
空間に日本地図が浮かぶ。複数の場所に光点が灯った。
「そこには何がある?」
「日本各地に散らばる、怨霊が大量に縛り付けられている土地です」
光点の一つが拡大される。鉱山夫の恰好をしたゾンビみたいな怨霊の姿が映った。
「そ、そんなところを手に入れて、どうするのだ?」
「ふふふ。これらの怨霊は、ある目的でその地に縛り付けられているのですよ。何百年も成仏できないでいる意味がちゃんとあるのです」
こうして、南方家による大掛かりなプロジェクトが開始されるのだった
病院では、人工透析を受けている桐人が唸っていた。
「くそっ。手にいれた財宝も全部取り上げられてしまったし、あれから体調が悪くてろくに動けない。屋敷に連絡しても、使用人の一人もよこさないし……」
針の痛みに耐えながら、延々と不満をもらす。
「このままいけば、南方家を乗っ取って大金持ちになれたはずなのに。くそっ、なんで俺ばかり不幸になるんだ」
そうやっておのれの不幸を嘆いていると、世話をしてくれている看護師がやってきた。
「南方さん。何か問題はありませんか?」
「は、はい。ちょっと針が痛くて……」
目をうるうるさせて、痛みを訴える。
「はい。ちょっと見てみますね」
看護婦が近寄った瞬間、桐人は彼女の手にすがりついた。
「み、南方さん?」
「ぼ、僕はどうなるんでしょう。ネットで皆に叩かれて……逮捕されちゃうんでしょうか?」
桐人の手から微弱な電波が出て、『同情心』がインストールされる。美少年の哀れな姿に、看護婦は保護欲をそそられた。
「大丈夫ですよ。今のところ警察は来ていませんから」
「で、でも、あの嘘の映像を流した勇人は本家の御曹司で、昔から僕をいじめていたんです。退院したら、どんな目にあわされるか……」
まるでキューンと鳴く子犬にすがられたみたいで、看護婦は思わず桐人を抱きしめた。
「あなたは私が守ります。誰にも手出しはさせません」
「看護婦さん……」
抱きしめられた腕の中で、桐人はニヤリと笑う。
(ふっ。落ちたな。こんなオバサンを味方につけたって大して役にたたないだろうけど、とりあえず手近な所からだ)
そう思っていた時に、厳しい声がかけられた。
「あなたは何しているんですか?患者さんと抱き合ったりして!恥を知りなさい」
「は、はいっ」
しかりつけてきたのは、この病院の看護婦長である。看護婦は真っ赤な顔をして桐人から離れた。
「叱らないであげてください。僕が悪いんです。まるでお母さんみたいに接してくれて、つい甘えてしまいました」
今度は看護婦長に向けて捨てられた子犬のような表情をつくる。
しかし、看護婦長は冷たい顔をして無視した。
(あ、あれ?なんで俺の笑顔が効かないんだ)
そう思っていると、病室の外から二人の人間が入ってきた。
「よう。相変わらず誰かれ構わず媚を売りまくっているようだな」
そう言ってバカにしてくるのは、従兄弟にして宿敵の勇人。
「情けない。やはり貴様は南方家にふさわしくない」
そう冷たく声をかけてきたのは、祖父である源人だった。
思いもしない人物の登場に桐人は動揺するが、すぐにこれはチャンスだと思い直す。
「お、お爺様。助けてください。僕は勇人のせいで体を壊してしまったんです」
精一杯哀れっぽい表情で下から見上げるが、源人に睨み返された。
「何が勇人のせいだ。エストラント号での火事場泥棒、同級生への虐待。勇人への危害。真理亜たちへの裏切り。貴様はどれだけ恥を晒せば気が済むのだ」
冷たく弾劾されても、桐人はなおも弁解を試みる。
「船での映像は、すべて勇人の捏造です。僕を南方家の後継者から追い落とすために、あんな映像をばらまいて僕の評判を落としたんです」
あんまりな言い方に、勇人は呆れてしまう。
「はぁ……息するように嘘を吐くやつだな。言っておくけど、お前の洗脳はお爺さんには効かないぞ。ブロックウォールを脳にインストールしているからな」
「せ、洗脳ってなんのことだ!」
わめく桐人を無視して、勇人は桐人をかばうようにベットの前に立っている看護婦に手を触れる。
「ちょっと失礼」
「きゃっ⁉」
パチっという音がして、看護婦の頭から火花が散った。
「あ、あれ?私はどうして患者さんにあんなことを?」
インストールされた「同情心」を消された看護婦は、真っ赤になって恥じ入った。
「見ての通りだ。『魔人類』である俺は、お前が発する微弱な洗脳電波を打ち消すことができる」
「い、いったい何のことだ!」
わめく桐人を無視して、勇人はその頭をむんずと掴む。
「俺たちがわざわざ来たのは、お前の真実を知るためだ。いったいどこでこんな力を得たのか、確かめさせてしまうぞ」
勇人の手から電流が奔り、桐人の頭の中をかきまわす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
断末魔の声と共に、桐人の記憶が空中に浮かぶのだった。
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