表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

12.

「問題はここからどうするかじゃな」


 杏飴を半分以上食べたところで、キヨさんが足をぷらぷらさせながら天を仰いだ。


「あやかし縁日を隅から隅まで探すといっても、相手がちっこいシーサーだからな。ニャン吾郎の奴みたいなトラブルメーカーならいざ知らず、これは結構骨が折れるぞ」


「わても知り合いの妖怪には声を掛けるようしてますけど、いまんとこ無駄骨ですわ」


 ソースの付いた指をぺろりと舐めて、ヌエさんも同意する。ちなみにキュウ助も、前を通る小さき妖怪たちに片っ端から声を掛けてくれているけど、マイマイさんの目撃情報は得られていない。


「ああ、我が愛しのマイマイ! 君はいま、いずこに!!」


 悲壮な声をあげるヌムヌムだけど、そのお腹はたこ焼きによってまん丸に膨れている。「よく言うわ」と私が呆れたその時、狐月さんがみんなに顔を向けた。


「妖怪相撲の会場に行ってみるのはどうかな?」


「え、相撲??」


 私とキヨさん、そしてヌムヌムの3人はきょとんと顔を見合わせる。けれどもヌエさんだけは、ぽんと手を打った。


「なるほど! そこなら、マイマイはんと会えるかもしれへんな」


「待て、ひとりで納得するな。どういうことじゃ?」


「きゅう!」


 キヨさんとキュウ助の抗議を受けて、狐月さんが私にもわかるよう説明してくれる。


「妖怪相撲はあやかし縁日の目玉イベントで、腕に覚えのある妖怪たちが競う、いわば力自慢大会なんだ」


「しかし、我が愛しのマイマイは、ワタクシとそう変わらぬ小さき焼き物の付喪神です。そのようなものに、マイマイが出席するとは思えませぬが」


「大将が言いましたやろ。この縁日の目玉やと。参加者はもちろんやけど、観客もぎょうさん集まるんや。それこそ、古今東西さまざまな場所の妖怪がな」


「そっか! 沖縄の妖怪を探しているマイマイさんも、たくさんの観客が集まる妖怪相撲に来るかもしれない!」


「そういうこと」


 よく出来ましたと、狐月さんは笑顔で頷いた。


 そうと決まれば話は早い。私たちはさっそく妖怪相撲が催されている、宿町で一番の大宿へと向かった。


 近づくだけで、大会の熱気がものすごいことがわかる。乱れ飛ぶ歓声を聞きながら到着すると、会場はまるで円形闘技場だ。ぐるりと取り囲むたくさんの観客に見下ろされながら、出場者は中央の土俵で取組を行うらしい。


 勝負がついて大歓声が巻き起こる中、私たちのすぐ近くで素っ頓狂な声が響いた。


(あるじ)! それにスズまで!?」


「コン吉パイセン! わあ、元気でしたか!」


 懐かしいその声は、最近は式神業で大忙しのコン吉先輩だ。ここしばらくは私自身、試験期間でバイトを減らしていたので、先輩と会うのもすごくひさしぶりな気がする。


 きゃっきゃとはしゃぐ私に、コン吉先輩は「元気でしたか?じゃ、ねえよ!」と勢いよく突っ込んだ。


「なんで人間のお前があやかし縁日に来てんだ!?」


「コン吉パイセンこそ、ここで何してるんです? 普通に遊びに来たんですか??」


「ちっげえよ! 俺は仕事で……」


「どうした、コン吉?」


 コン吉先輩が言いかけた時、妖怪たちの間を割って、今度は陰陽師スタイルの響紀さんが姿を見せる。コン吉先輩同様、響紀さんも私を見て目を丸くした。


「水無瀬さん? 君がどうしてここに?」


「僕が連れてきたんだ」


 代表して、狐月さんがこれまでの経緯を説明してくれる。すべてを聞き終えたところで、響紀さんとコン吉先輩は同時に「うーむ」と考え込んだ。


「沖縄の妖怪か……。それっぽいのは何人かいたけどさ」


「シーサーの付喪神……は、俺は見かけなかったぞ」


「そうですか……」


 私たちは肩を落とした。本当にいないのか。それとも小さすぎて見つからないのか。どちらかわからないけど、やはり捜索は一筋縄じゃいかなそうだ。


 ちなみに響紀さんとコン吉先輩は、あやかし縁日の見回りをしているらしい。なんでも、お祭りで羽目を外し、勢いそのまま現世になだれ込む妖怪が毎年何人かでるそうだ。それで陰陽師の家柄が代表者を出して、警戒にあたるという。


「それでいったら、ヌエ。お前も昔、先代にこってりしぼられた口だったよなあ?」


「はて。どうでしたやろ。わて、過去は振り返らない主義やからなあ」


「とぼけんな! お前がノリと勢いで百鬼夜行ひらくから、爺さん毎回頭の血管ブチ切れそうで大変だったんだぞ!」


 ぎゃあぎゃあ怒るコン吉先輩に、ヌエさんがへらりと笑う。――飄々としているけれど、ヌエさんは比較的まともそうに見えるので、なんというか意外だ。まあ、仲の良い妖怪のひとりにトラブルメーカー・ニャン吾郎さんがいるので、その時点でお察しかもしれないけど。


「すまない、想太。俺たちがもっと注意深く、小さき妖怪たちにも気を配っていれば……」


「いや。騒ぎを起こすのは大抵、たぬきか化け猫、あとはハグレ天狗だけだもの。響紀たちのせいじゃないよ」


「だけど、どうすんだ? こんなちっこい妖怪、この広い縁日で地道に探すのか?」


「うーん」


「きゅう……」


 私たちは再び、天を仰いで考え込む。その時、わあああと歓声が上がるのをBGMに、ヌムヌムがぽそりと呟いた。


「ワタクシが雄々しき大妖怪なら、相撲大会に出場して注目を集め、我が愛しきマイマイに呼びかけるんですがなあ」


「…………」


 みんな一様に黙り込む。一拍置いて、私と狐月さん以外の全員が「それだ(や)!」と手を打った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ