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12.

「よーお。コン吉さんよーお」


 赤い顔に、枝の様な長い鼻。一般的によく知られる天狗の()()をつけた、作務衣姿にカラスのような羽を生やした謎の人物が、いきなり空から降ってきた。


 私は突然のことに仰天するけれど、どうやらコン吉先輩は知り合いらしい。毛を逆立てた先輩は、私を庇うみたいに前に出て、肉球を突き出した。


「お前、三郎太! やっぱり寺川に来てやがったな!」


「ほほほい、ほい。おいらがどこにいようと、勝手じゃほい。お前も相変わらず、ちんちくりんのちび助だなあ、ほーい」


「コン吉パイセン、こちらの方は?」


 特徴的な喋り方をするひとだなあ。それぐらいに呑気にかまえて問いかけると、コン吉先輩はピンと耳を立てて通せんぼするみたいに前足を広げた。


「こいつは三郎太! 俺とひびきが前に追っていた、高尾一門のところの見習い天狗だ!」


(なるほど。だから天狗のお面を……)


 ぼんやり考えたところで、はたと思い出した。


 そういえば響紀さんが話していたではないか。響紀さんとコン吉先輩がバディを解消するきっかけになったのは、天狗を追っている時にコン吉先輩が大怪我したことだって。


「え!? じゃあ、コン吉先輩に雷落としたのって」


「そうじゃほい。おいらがコン吉のちんちくりんを、こんがり焼けきつねにしてやった天狗だほーいっ」


「だまれ! あんときは卑怯な手を使いやがって!」


 やーいやーいと小学生のごとく囃し立てる三郎太天狗に、コン吉先輩が前足を上げて抗議する。


 私がどうしたものかと悩んでいると、コン吉先輩はぷんぷんと怒りながら三郎太を指さした。


「この三郎太はな! 下っ端とはいえ名門の高尾一門のくせに、人間や高尾山のほかの妖怪たちに悪さばかりする阿呆天狗なんだ!」


 いわく、高尾山のふもとの温泉で女湯をのぞいたり。いわく、茶屋で休む参拝客が景色に見とれている間に、勝手におそばやおでんを食べてしまったり。いわく、どんぐりやら木の実やらを拾っては、妖怪たちのうえに雨の様に降らして遊んだり。


「なんとまあ。悪さのレベルがみみっちいというか、スケールが小さいというか……」


「そういうところも含めて、阿呆天狗なんだ!」


 私が呆れて肩を落とすと、コン吉先輩は我慢がならないと言った様子でぎりぎりと歯をならした。


 三郎太は好き放題に遊びまわっていたが、ついにほかの天狗たちが、三郎太のふざけようは目が余るとして大天狗に言いつけた。


 途端、怒った大天狗から逃れるために、三郎太は高尾山からのトンズラを決め込んだのである。


「それで響紀さんとコン吉先輩が、大天狗のかわりに三郎太を追いかけていたのね」


「大天狗はよほどのことがないと高尾山を離れられないし、こいつはちょこまかとすばしっこいからな。だけど、逃げ回れるのももうおしまいだ! 今日という今日は、お前を大天狗の前に連れてって、たっぷりお灸を据えてもらうぞ!」


「ほほーい。それはどうかなあ……ほい!」


「き、消えた……わっ!?」


 目の前から三郎太が消えて私は目をみはったが、次の瞬間、私の体は空中に浮いていた。まるで荷物の様に、三郎太天狗に抱えられていたのだ。


 お腹を抱えられた私は、情けなく両手両足をぶらぶらさせる。逃げたくとも、落とされるのが怖くて抵抗できない私に、コン吉先輩が「スズ!」と叫んで目を吊り上げた。

 

「てっめー、三郎太! スズを下ろせ! いますぐ降りてきて、俺と正々堂々戦いやがれ!」


「やだほーい。おいらはお前さんのしょぼくれ顔が見えたから、ちょっと挨拶がてら顔を出してみただけだほい」


「なんでもいいから私は降ろしなさいよ! 私とあなたは初対面のはずでしょ!」


 落とされない程度に、私はもじもじと下ろせアピールをする。すると三郎太が、天狗の面の下で「ほほほほい」と気持ち悪い笑い方をした。


「おまえさんは連れてくほい。うまそうな妖気をしているし、何より顔と体が好みだほいっ」


「ひっ!?」


「この助平天狗め!!」


「ほほーい!」


「待てー!」と。背後でコン吉先輩の怒った声が響くけど、三郎太天狗に抱えられたまま、私の体はぐんぐん上昇していく。


そうして私は寺川の街のはるか上、ビルで換算すると10階くらいの高さのところで、三郎太天狗にぶらんと抱えられていた。


 このまま三郎太に連れて行かれたら、何をされるかわかったもんじゃない。私は慣れない高さに「ひゅっ」と息を呑みつつも、体を捻って三郎太に抗議した。


「降ろして、降ろしなさいよ! 私に手を出したら、コン吉パイセンや響紀さんが黙ってないわよ!」


「うほーい。怒った顔もかわいいほいっ」


「話を聞け!!」


 天狗の面の奥でうっとりとする三郎太の気配に、私は怒った。すると、どうにか私にしがみついて着いてきてくれたらしいキュウ助が、私の懐から三郎太目掛けて飛び出した。


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