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「主文。被告人を死刑に処す。」
その判決文を聞いた瞬間俺は膝から崩れ落ち嗚咽を漏らしていた。
抗うことの出来ない死への恐怖、死をもって遺族に償えること、そしてようやく俺の人生を終えられること
「……亮太起きて、亮太ってば」
「ハアァァ!!!!」
「ねえ亮太大丈夫なの?なんだかすごいうなされてたみたいだけれども。」
言われて気がついたが俺の体は全身汗だくたった。
「ああ……広美起こしてくれてありがとう。思い出せないけど何か悪い夢でも見ていた気がするな。汗もすごいしシャワーを浴びてくるよ。」
俺の名前は新木亮太32歳しがないサラリーマンである。世間一般で言うところのまあまあの大学を卒業してまあまあの有名小売企業に入社したまあまあの男だ。周りからは特徴がなくまあまあの男と言われるのが唯一の特徴というよく分からない紹介をされる。俺としてはそんなことないんだけどな。
そんな周りからはまあまあな人生を送っていると思われがちだが、俺自身この生活には満足していたりする。まあまあの有名企業とは言ったが自分の年齢の平均年収より少し上くらいの給料はもらっているし、仕事にはやりがいもあるし満足している。
そして何より最愛の妻広美がいる。これに関しては失礼な話だが俺の妻に対しても周りはまあまあの奥さんだと言ってくる。良く言えばお似合いだとも言われるがその言葉には悪意を感じる。
まあ周りの事なんか気にするまでもないが、とにかく俺はほどほどの幸せを感じているし何より今の生活には充実感がある。
俺がシャワーを浴び終わってリビングに向かうと広美がコップにお茶を注いでいくれていた。
「はい、お茶飲んでね。すごいうなされてたけど一体どんな夢を見ていたの?」
「お茶ありがとう。こんな夜に起こしてごめんね。しかし全く思い出せないんだ。何かすごい辛い夢を見ていた気がするんだけど。まあとにかく寝ようか広美も明日早いんだろ?」
「そうね、でもまた悪い夢を見ないか心配よ」
「まあ……大丈夫だろ」
そうして俺たちは再び眠りについた。
今になって考えるとこの夢を見た時点が全ての悪夢のような出来事の始まりだったのかもしれない。