表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

蘆薈は知り合いと再会する

 学園生活二日目。蘆薈は学園へ行かなかった。どうせ講義は無しだそうなので、女神が用意していた家で過ごすことにした。


 「なかなか上等な家だな。ひとりで暮らすにはちょっと寂しいくらいだ」


 蘆薈は部屋の中をぐるりと見渡す。木造二階建ての物件はそれなりに広く、ひとりで暮らすには持て余すほどだ。


 「とりあえず勉強だな。魔法についての本でも買って読んでみるか。俺は負けず嫌いだからな」


 蘆薈は乱暴な思考と口調に似合わず、存外に勉強家であった。常に危険と隣り合わせの世界で生き、誰からも教えを乞うことが無かった彼が、生き残ってこれた理由のひとつでもある。


 街の図書館はかなり立派なものだった。本の貸出は行っていないようだったため、一日の大半の時間をかけ勉強に勤しんだ。ちなみに蘆薈は小説は読まない。小説のような無意味な娯楽にかける時間があるならば、技術書を読み込むべきだと考えていたし、そもそも小説に魅力を感じなかった。


 「なるほどな。魔法ってのは面白いな」


 蘆薈は魔法の文献に夢中になっていた。読めば読むほど自身が強くなっていく気がした。事実、彼のインプット能力は凄まじい。それをアウトプットするだけの実力も兼ね揃えているため、読めば読むほど強くなっていく気がすることに齟齬はない。


 「だが、一朝一夕で手に入る代物じゃ無さそうだなこりゃ。時間がいるな」


 蘆薈は魔法の奥深さを理解し、今の自分がアーノルドに勝つためには相当の時間が必要だと気づく。


 「学園の思い通りになるのは癪だが、今は耐える時ってか。こればっかりは教えて貰わねぇとどうしようもない」


 次の日。蘆薈は学園へ来ていた。まだ慣れない校舎を歩き、Gクラスへ入る。途中、すれ違う生徒たちの視線は、侮辱と同情。Gクラスの生徒への扱いが窺えた。しかしそれは、教室内でも同じ。


 「よくものこのこ来れたな。お前のせい昨日は本当に最悪の日だった」


 蘆薈にそう話しかけてきたのは、一昨日、蘆薈に悪態をついた男子生徒だった。


 「お前名前は?」


 「え?」


 「だから名前はって言ってんだよ。学園生活なんてはじめてだからさ。友達のひとりくらい欲しいだろ」


 男子生徒の剣幕などお構い無し。蘆薈は能天気で自分の都合のいい考えが得意だった。今も男子生徒と本気で仲良くなれると思っている。


 「……ライド。ライド・トンプソンだ。って、君は本当に自分勝手な人間だな!」


 「当たり前だろ。結局人間ってのは自分のことしかわからないんだよ。だから自分勝手が一番」


 蘆薈はしたり顔でそう諭した。なんてことは無い、湾曲した持論だ。それを男子生徒が理解するはずもなく。


 「ったく、昨日の奴らも教師に反抗して大変だったって言うのに……なんでこう変な奴ばっかりなんだよ!」


 「昨日の奴ら? 誰だそれ。そんな活きのいいやつら初日にいたっけか?」


 蘆薈は入学初日、アーノルドの恫喝にびびり、縮こまっている生徒の姿を思い出す。それと同時に、穴あきになっていた席があったことも思い出していた。


 「初日には来てなかったんだよ。昨日初めて来た奴らが教師と揉めたんだ」


 蘆薈はそんな奴らならあってみたいと思った。今日は学園に来るだろうか。そんなことを考えていると、教室の後ろのドアが乱暴に開けられた。蘆薈がそちらを見ると、そこには不機嫌そうな女とお人好しそうな男の二人組がいた。


 「あいつらか。昨日の奴らってのは。どんな顔してんだ……って、胡桃(クルミ)鋸草(ノコギリソウ)じゃねぇか!」


 蘆薈が驚き大声をあげる。見た目がかなり若くなっていたが、蘆薈が知る男女であることに間違いはなさそうだった。すると、胡桃と鋸草と呼ばれた男女も驚愕する。


 「蘆薈!? あんた何でここにいるのよ!」


 「蘆薈だって? 俺あの人苦手なんだけど、本当に蘆薈……うわ、本物だ。最悪だ」


 胡桃は蘆薈の席に慌てて駆け寄ってくる。鋸草はその後ろをとぼとぼと、蘆薈に近づくのに躊躇しているかのように歩いてくる。


 「お前らもこの世界来てたのか。勇敢くんと知性ちゃんはいっつも一緒だな。まさか死ぬ時も一緒だったのか?」


 蘆薈は死に際まで一緒の二人の姿を想像し可笑しくなった。そんな蘆薈を見る二人の表情はしらけたものだ。


 「相変わらずあんたと会話するのは苦痛だわ。さすがは蘆薈と言ったところかしら」


 胡桃も負けじと蘆薈の花言葉を用いて嫌味を返す。


 「蘆薈さんも死んだんですね。あなたほどの殺し屋が死ぬなんて。なんだか不思議です。ここは死後の同窓会会場かなにかですか?」


 鋸草は蘆薈と会話するのが億劫そうだった。ちなみにだが、鋸草は生前、蘆薈に殺されかけたことがある。とある大物政治家の殺害を依頼された蘆薈が、同じく大物政治家の警護に雇われた鋸草を半殺しにした。しかし蘆薈は仕事は仕事、プライベートはプライベートと、とことん割り切るタイプなため、半殺しにした相手である鋸草にも、その後普通に話しかけていた。


 「いや全くだ。こんな所で昔の仕事仲間に会えるとはな。こんなに面白い展開はないぜ」


 蘆薈は心底楽しそうに話す。しかし胡桃と鋸草はそうでも無さそうだ。


 「ちなみに仕事仲間じゃないわ。うちのノコを殺そうとしたくせに。よくもまあ、いけしゃあしゃあと」


 「そういう世界だろ。ノコ君だって俺の事殺そうとしてたんだ。俺の方が強かった。それだけだろ?」


 蘆薈は平然と言ってのける。確かに蘆薈の言っていることは正しい。その事は二人も共感しているのだが、当たり前のようにへらへらと話しかけてくる蘆薈の態度に辟易しているようでもあった。


 「そういえば権萃は、いるわけないか。蘆薈がいるから、もしかしてと思ったけど」


 「ああ、俺が死んだ時請け負った仕事はひとりでやってたからな。権萃はまだあっちの世界でピンピンしてるだろ」


 蘆薈はかつての相棒、権萃のことを思い出してそう言った。


 「権萃さんがいないのなら僕は嬉しいですけどね。あの人、蘆薈さんより怖いですし」


 鋸草も権萃のことを思い返し、露骨な溜息をついた。それは安堵の溜息に違いなかった。


 「で、あんたでしょ。初日にアーノルドっていう教師に楯突いたのは。蘆薈なら納得だわ」


 胡桃は、蘆薈なら絶対に楯突くだろうなと、見てもいない初日の光景を頭に思い浮かべ頷く。


 「あいつ化け物だったわ。普通に死にかけたぞ」


 蘆薈は何故か楽しそうに、そしてすぐに不機嫌になった。


 「やっぱりあんたでも勝てないのね。私たちも酷い目にあったわ。あんなの反則でしょ?」


 胡桃も昨日の出来事を思い出し、身震いした。


 「ノコも反抗したのか? そんな風には思えないが」


 「ノコって……まあいいですけど。僕もまあ、あのいい草にはちょっと思うところがありましてね。でも結果は蘆薈さんと同じです。あんなの初めて見ましたよ」


 鋸草も胡桃と同じく、昨日の出来事を思い出し、憂鬱そうに肩を落とした。


 「魔法だぜお前ら。これから俺は魔法使いになって、ラブパワーでアーノルドの野郎を殺してやろうと思ってる。楽しくなるぞ。これから」


 「なんだっけそれ。超絶魔法乙女ララだっけ?」


 「違ぇよ! 絶対魔法少女リリーだ! あれさえ見てれば、この世界の全ての答えがわかる。お前たちも見るべきだ」


 蘆薈は食い気味に胡桃の間違いを訂正する。少女アニメを語っているにしては、迫力があり過ぎる蘆薈の態度に、胡桃と鋸草はドン引きだった。


 「見るべきって言われても、もう見れないでしょ」


 胡桃は蘆薈と関わるのが面倒くさくなったのか、感情のこもっていない平坦な声でこたえた。


 「……あ。まじか。もう絶対魔法少女リリー見れねぇじゃねぇか」


 蘆薈は本気でショックを受けたらしく、その後黙りこくってしまった。それを見ていた二人は、この男の始末をどうつけるか本気で悩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ