どうしようもない
嬉しい事を共に分かち合え、
一緒に笑ってくれる人。
悲しさを理解してくれて、
涙を拭ってくれる人。
そんな人が側にいれば、どんなに苦しくても、乗り越えられると思うんだ。
もし、そんな人が側に一人もいなくても。
助けてくれる人は、
どこかにきっといるはずだから。
共感して、泣いてくれる人がいるはずだから。
私は、誰かのそんな人になりたいと願う。
保健室に入ると、先生は居なかった。
「居ないね、とりあえず血を拭こうか。」
「うん。」
蹴られて転んで擦りむいた膝と肘からは血が出ていた。篠崎さんはテキパキと処置してくれた。
私の痣は多くて、篠崎さんは見るたびに、まるで自分の事のように悲しそうにしていた。
「篠崎さん、ありがとう。」
「唯でいいよ。夏実。」
「わ、私なんかが、呼んでいいの?」
「私なんかって・・・もう夏実と私は、友達でしょ?」
友達・・・
もう、一生出来ないと思っていた。
私が篠崎さん、いや、
唯の、友達・・・
嬉しい。
そう思うと、涙が出てきた。
「あり・・がと・・・唯・・・。」
きっと私は、幸せ者だ。
美桜にも、こんな人がいれば、もっとまっすぐ育ったのだろうな。
「夏実、ベッドで寝てなよ。
痣は酷いし、痛いでしょ?授業なんて無理だよ。」
「え、それじゃあ、唯が一人になるよ。」
私だけ安全な所にいるなんて出来ない。
私が居なければ、きっと美桜は唯ちゃんを殴るだろう。
「大丈夫、心配しないで。寝てなよ、ね?」
「そう・・・?」
実は、ずっと殴られた所と蹴られた所がズキズキ痛んでいる。
ここはもう休もうかな。
「分かった。」
「じゃあ私は授業始まるから戻るね。
次の休み時間も来るから。」
パタン。
唯ちゃんが居なくなった保健室は、とても静かで少し寂しかった。
眠れないな、これじゃ。
ガラッ
保健室の扉が開く音がした。
先生かな?
その人はこっちへ向かってきて、カーテンを開けた。
その人の顔を見て、私は思わず息を止めた。
「なん・・・で、」
私と同じ制服を着たその人は、
「久しぶりだね」
彗ちゃん、だった。
茶色の髪、小さな顔に大きな瞳、長い睫毛。
童話から出てきたような美少女。
伏野 彗だ・・・。
「どうして?彗ちゃん・・・」
「夏実ちゃん、忘れてない?美桜達への怒りを。」
彗ちゃんは暗い顔で言った。
「夏実ちゃんが忘れたら、誰が覚えていてくれるの?あんな奴に同情なんか、しちゃダメだよ。」
「す、彗ちゃん?」
彗ちゃんは生きていたの?
「あのね、私怒ってるの。夏実ちゃんが私の事忘れそうだから。」
「忘れる訳ないよ!」
「そう・・・?
ならちゃんと美桜を恨んでよ。
憎んでよ。叩いてよ。私の代わりに!
そうじゃなきゃ・・・
殺された私が、報われないでしょ!?」
「・・・っ!!ゆ、夢・・・?」
いつの間にか寝ていたみたいだ。
もちろん彗ちゃんは居ない。
夢にしては、凄くリアルだった。
私は大切な事を忘れていたんだ。
彗ちゃんは美桜に殺された。それを私はちゃんと覚えていてあげないといけなかった。そして、
復讐しないといけなかったんだ。
私は何も分かってなかった。
彗ちゃんの痛みを理解していたつもりでいたけど、実は何も理解していなかった。
一緒に戦ってきた私が一番分かってないといけなかったのに。
私は本当に、どうしようもないな。