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いじめ  作者: 有木 李真
唯一無二の君
8/15

悲しさ、痛み。

「大丈夫だった!?夏実!!」

篠崎さんが私の元へ駆けよってきた。

心配させないように、私は笑った。

「大丈夫だよ。ありがと。」

「大丈夫な訳ないよ!こんなに怪我して・・・すぐ保健室行こ?立てる?」

踏まれた足は痛いけど、我慢できない程じゃない。

「大丈夫だって。行こう?」

「うん・・・」

クラスメート達は心配そうに見てる。けど、麻里と柚花がいる前じゃ行動は出来ないみたいだ。

麻里と柚花は何も言わずに無表情で見てるだけ。

珍しく美桜についていかなかった。

「夏実、立てる?痛くない?」

「大丈夫だよ。」

篠崎さんと一緒に教室を出た。


廊下

「夏実ちゃん!どうしたの、その傷!」

話しかけられた。誰かはすぐに分かった。

「永村君・・・」

永村奏太君。美桜の好きな人。隣のクラスの人気者。篠崎さんには話していた。

美桜の好きな人と仲良くなったことで、いじめが酷くなってしまったこと。

永村君は近づいてくる。

「どうしたの?それ・・・」

「ごめんなさい、通してもらえますか。」

篠崎さんは冷たく言った。

「篠崎さん・・・」

「篠崎さん?一組の転校生だよね?」

永村君は悪くない。悪いのは美桜だ。

だから、私が永村君を避けるのは良くない事だ。

「永村君、ごめんね。」

「その傷どうしたの?」

「永村君」

「何?」


「ごめんね。」


―――――だけど、ごめんなさい。

私だけじゃなくて、篠崎さんまで酷い目に遭ってしまうから。

これ以上、踏み込んで来ないで。

あなたは悪くない、私を嫌ってもいい。

自分を優先する悪い人間でごめんなさい。

だけど、離れて下さい。


永村君は悲しそうな顔をした。

私は嫌われただろう。当たり前だ。

優しい永村君を拒絶したんだから。

もう、話しかけてくれないんだろうな。

自分で関わらないで、と距離を置いたくせに、

少し寂しいって思ってしまう、我儘な私がいた。


私は黙って隣を通りすぎた。

篠崎さんに肩を借りて歩いていく。

保健室までが、とても遠く感じた。



保健室に着いて、入ろうとしたところで私は気になった。

「篠崎さん、ちょっと待って。」

「ん?どうした?」

私は保健室の前の水道に向かって行き、

口にたまっていた血を吐いた。

「・・・え・・・・っ」

篠崎さんが驚いてる。

「嘘、さっきお腹蹴られたから!?

大丈夫!?」

狼狽える篠崎さんに、失礼だけど少し笑ってしまう。

「違う違う、口きれちゃったから!」

殴られたとき口が切れたから、血が口に溜まって気持ち悪かったんだよね。

そう言うと篠崎さんはほっとした顔になった。

「びっくりした・・・死んじゃうかと思った。」

「これくらいじゃ死なないよ。慣れてるし。」

篠崎さんは私の言葉を聞いて、真剣な顔になった。


「慣れちゃ、駄目だよ。こんなことに。」


篠崎さんは、涙を流した。

「私の事、殴ったって良かったのに。

辛かったよね、今までずっとこんな思いしてきて。きっと私が思うよりずっと沢山これ以上痛め付けられてきたんだよね。慣れてしまうくらい、苦しんできたんだよね。優しい夏実が、こんなに傷つけなくちゃいけないの?私を庇って・・・

ごめんね、止められなくて。

ごめん・・・ごめんね・・・。」

篠崎さんの流す涙は、これ以上ないくらいにキレイで、私の汚れた心が、洗い流されていった。

篠崎さんがここまで悲しむ必要はないのに。

とても申し訳ない気持ちになった。

けれど、同時に嬉しかった。

篠崎さんの暖かい涙に感謝しながら、

私は美桜の言葉を思い出していた。


「楽しいこと・・・?そんなもの、あたしには無かった。誰もくれなかったわ!」


美桜もまた、一人で寂しくて、悲しかったんだろう。どこまでも残酷で、非道な彼女だけど。

周りはもっと残酷だったのだろう。

それが彼女をあそこまで歪ませてしまったんだろう。

あの笑みの裏にある悲しみを、理解してあげる人がいれば、彼女はあそこまで歪まなかった。

私は篠崎さんや彗ちゃんほど優しくも強くもないけど。

いつか、彼女が改心することがあれば・・・

その時は


理解して、あげられるかな。

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