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いじめ  作者: 有木 李真
唯一無二の君
7/15

戻れない、戻らない。

大変な事になった。

篠崎さんが美桜のオモチャになってしまった。

美桜は楽しそうに篠崎をいじめている。

そのおかげか、私には何もしてこないようになった。

篠崎さんは泣いたりせず、冷静に対応している。


上履きを隠されたらなぜかスペアを持っている。

ノートをボロボロにされたらノート無しで授業して、しかもその後先生に当てられても完璧に答える。

あと、悪口は言えないみたい。篠崎さんは完璧だから。

教科書を盗まれたら私が貸せばいい話。

クラスメートは美桜が怖くて助けてあげられないけど、私はどっちでも同じ。いじめられるのは慣れている。

むしろ篠崎さんが代わりになるなんて申し訳ないから、罪滅ぼしじゃないけど、篠崎さんの味方でいたい。篠崎さんはとてもいい人だし。

篠崎さんとはかなり仲良くなった。

いつも一緒にいて私が気を配れば、防げるいじめもあったから、私達はずっとくっついていた。

彗ちゃんを思い出して悲しくなるときもあるけど、彗ちゃんと篠崎さんは違うって、ちゃんと分かってるから。大丈夫。

篠崎さんは、絶対に守ってみせる。


その日も、美桜は篠崎さんに向かって色々と言っていた。

「なんなの、あんた!気味悪いわ!

ここまでしてるのに、心折れないの!?」

「はい。」

篠崎さんは強くて、美桜にも負けなかった。

そんな姿を見て、クラスメートもだんだん味方してくれるようになってきた。

それにますます苛立ってきた美桜は、柚花と麻里と一緒に篠崎さんに直接言いにきた。

「あーもう、夏実!」

え?私?

「なんかさ、あんたも調子乗ってるよね。

今は篠崎唯を教育してるけど、あんたがあたしらのオモチャなのは変わらないんだから。

篠崎の味方なんかしてるけどさ、あんた、自分の立場分かってる?伏野彗のこと、忘れた訳じゃないよね?」

忘れる訳が無い。あんな恐ろしい事。

クラスメートをいじめて、死に追いやるなんて、忘れる訳がない。

ニヤニヤと気持ち悪く笑う美桜は


人殺しだ。


「忘れて、無いです。」

私はすぐにそう応えた。

今すぐにでも美桜を殴り倒したい衝動にかられる。けどそれをした所で、どうにもならない。

責められてしまうのは私だ。

「そう?ならあたしに歯向かうなよ。

あたしのオモチャ。じゃ、命令ね。」

美桜は歪んだ顔をもっと歪ませた。


「夏実、伏野彗みたいに死にたくないんなら、

篠崎唯を殴って、ボッコボコにしてよ。」


静かな教室に、誰かの唾を飲む音が響いた。

美桜は残酷に、極悪に、笑みを浮かべながら机を蹴る。転がった私の机から教科書とノートが散らばった。

美桜は続ける。

「これは嘘なんかじゃないわよ、夏実ならそれが分かるでしょ?あたしに逆らい続けた伏野彗がどうなったか。」

分かってる。優しい彗ちゃんがどうなったか。

分かってるからこそ、こんなに怒りがおさまらない。

美桜は相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべている。麻里と柚花もそれに合わせて笑っている。

篠崎さんは特に表情は変えない。

彼女は私がここで殴り倒しても、何も言わないだろう。仕方ないって、許してくれるだろう。それより、私が無事で良かったと安心してくれる。

彼女はそんな人だ。私はこの数日でそれを知ってしまった。

だからこそ、

篠崎さんを殴るなんて、絶対に出来ない。


「嫌です。」

私は拒否した。

美桜は怒るかと思いきや、もっと楽しそうな顔になった。

「そぉー。美しい友情ね!

じゃ、夏実フルボッコね、決定!麻里、柚花!」

その瞬間、美桜に頬を思い切り殴られた。

私は思わず頬を押さえる。口の中が鉄の味がした。

切れたな・・・

次に美桜は私の腹を蹴り、そのまま後ろに倒れた私の足を踏みつけた。

痛いと思う間もない。

これが美桜の本性だ。

「美桜!やめろ!」

篠崎さんが私から美桜を放そうとしたけど、構わず美桜は突き飛ばした。

少しよろけただけで倒れなかった篠崎さんは叫ぶ。

「なんでそんな事をするの!!」

「決まってるでしょ、楽しいからよ!」

さも当たり前だというように返す美桜。

麻里と柚花は止めることも参加することもせず、ただただ見ているだけだ。

彼女達もこれには引いているのだろうか。今まで同じ事をしてきたのに。

「馬鹿だね、あんたは馬鹿だよ!

こんなことしか楽しめないなんて!!

もっと楽しいことなんて沢山あるでしょ!?

こんなことで楽しいと感じるなんて、人間としてクズよ!あんたは!」

篠崎さんの言葉に、美桜の手が止まった。

「楽しいこと・・・?そんなもの、あたしには無かったわ。誰もくれなかった!!

生意気言いやがって!あんたみたいに愛されて、幸せに生きてる奴が一番嫌いなのよ!!」

美桜が悲しそうな顔をした。

けど、それは一瞬だけ。

すぐに歪んだ笑みに戻った。

「美桜、今ならまだ間に合う。

こんなことはやめよう?

こんなこと続けてたら、本当に誰にも相手されなくなる。」

「うるさいわね!!」

今ならまだ間に合う・・・?

これがもし、最初のいじめならそうだったかもしれない。

謝って、転校して、やり直す。

それが出来たかもしれない。

けど、もう美桜は戻れない。

彗ちゃんは戻らない。

一人の少女を死なせた罪は、消えない。

たとえ美桜が忘れたって、私がずっと覚えてる。


けれど、まずはこの状況をどうにかしないと。

このままじゃ美桜は止まらない。

そう思ってふと、時計を見た。

時計は丁度、休み時間が終わりの時刻をさしていた。

キーンコーンカーンコーン

鐘が鳴った。

「つまんないわ。」

そう言って美桜は教室から出て行った。

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