転校生
教室に戻って椅子に座る。
少しして先生がやってきて言った。
「今日、転校生が来ました!」
クラスの皆がはしゃぐ。
「え、転校生?女子かな?」
「女子がいいなー」
「あたしも女子がいいなぁ♪」
そう言うのは美桜達。
転校生を新たないじめの標的にするつもりかもしれない。
あの声は女子だったし・・・
気の弱い子なら、彗ちゃんみたいに・・・
そう心配していたら、先生が転校生を呼んだ。
「どうぞ、入って。」
ドアから入ってきたのは・・・
背は高めで、手足は細くて、キリッとした目が綺麗。ツヤのある黒髪をポニーテールにしている。
テレビに出てそうな容姿。
モデルみたいな体型。
綺麗な髪をサラサラ揺らしながら歩く姿に、教室の生徒全員が目を奪われた。
「篠崎さん、挨拶して」
「はい。」
前を向きなおした少女。
堂々として、すごいなと思った。
その姿は、いじめに屈しない彗ちゃんに似ていて、少しだけ、思い出してしまった。
「はじめまして。転校生してきました、篠崎 唯です。」
篠崎 唯さん・・・美人な転校生。美桜が嫌いそうなタイプだ。
美桜にいじめられないといいけど・・・
「じゃあ、篠崎さんは・・・上原さんの隣かな?」
え!?私!?
たしかに、私の隣だけだれも座ってなかったけど。
私の隣に篠崎さんが座る。
「よろしくね、上原・・・夏実さん?」
「う、うん。よろしく」
よろしく・・・思わずそう言ってしまったけど。
私がいじめられている所を見られる訳にはいかない。
美桜に目をつけられたらだめだ。
篠崎さんはきっといい人だから・・・巻き込むわけにはいかない。篠崎さんとは仲良くできない。
「篠崎さん美人だね、芸能人じゃない?」
「どこからきたの?都会っぽいよね~」
休み時間になると、篠崎さんの席のまわりには、沢山のクラスメートが集まった。・・・私の席は綺麗に避けられているけれど。
そのとき。
集まっていた皆の間に、突然道が出来た。
「篠崎・・・唯さん、だっけ?」
皆が下がった。
謎の存在感。自分が女王だと言うようなその態度。
そして側にいる二人の取り巻き。
そう、美桜だ。
・・・なんだか文にしてみるとアホみたい。
「あたし、佐倉 美桜。美桜って呼んでいいからね!
唯ちゃんって呼んでもいいかな?」
「うん、いいよ」
「良かった~」
それを聞いて、まわりの子達が安心した顔をしてる。
何も知らない篠崎さんが、美桜に嫌われないか心配してたんだろうね。美桜に目をつけられたら終わりだから。
「あ、私は柚花」
「ねぇ、今あたしが喋ってるんだけど?
なんであんたがさえぎんの?」
柚花が自己紹介しようとしたのを、美桜が止めた。
ほっとしていたクラスメート達も、ヤバイって顔をしている。
「あ・・・えっと。」
「いい?順番ってものがあるでしょ?まずはあたし優先っていう順番が!」
ここにいる全員が思っただろう。
(そんな順番ありません!)
って。
というか、柚花と美桜の関係、かなり悪くなってる・・・
「とにかく唯ちゃん、夏実とは話さないでね!」
何がとにかくなんだ・・・美桜ってもしかして・・・
「アホなの?」
わあ、篠崎さんが私の心を代弁してくれたー
・・・!!
案の定、美桜は無茶苦茶キレてる・・・
「誰がアホ、ですって?」
「あなた以外いないでしょう?」
そう言って首を傾げる篠崎さんは可愛いけど・・・そうじゃなくて!
「・・・ね?自分が何言ってるかわかってる?」
「あなたと違って分かってますよ?」
はい、篠崎さん終了のお知らせー!!
ちょっと、篠崎さん!何言ってるの!?
まわりの皆もマズイ!!って顔してる。
篠崎さんって以外とズバズバ言っちゃうタイプだったのかな!?
美桜はマジギレだよ・・・
「は!?ちょ、マジあり得ないし!」
いや、あり得ないのはそっちだわ!とか言えたらなぁ・・・
「いや、あり得ないのはそっち」
「まてまてまてまてまて!!!」
また私の心を代弁してくれる篠崎さんを、クラスメートが必死で止めてるけど・・・
どうしよう。
どんどん悪くなっていく状況に、冷や汗が出てきた。
クラスメート達が必死で篠崎さんを庇おうとする中、何も言わなかった麻里が前に出て言った。
「ねぇ、もうこれ、決定じゃない?最近、夏実つまんなかったから・・・そろそろ新しい≪オモチャ≫、要るんじゃない?美桜さん!」
それが引き金だった。
美桜はニヤリ、と顔を歪めた。
まるで新しいオモチャを見つけた女王。
美桜はその顔のまま、気持ち悪いくらいに高く、声をあげた。
「そぉ~よね!麻里ったら、いいこと言うじゃない!
篠崎 唯、あたしが 教育 してあげる。
あたしに逆らったこと、後悔させてやるから!」
オモチャ、変更―――――――――――――――