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いじめ  作者: 有木 李真
唯一無二の君
4/15

人気者。そして、過去。

永村君は人気者だ。

もし美桜に、永村君が助けたのが私だとばれてしまえば、今までのなんて比べ物にならないくらい、酷い目に・・・


私は痛む足を引きずりながら歩く。

廊下にはほとんど人がいない。

一人二人は居るけど、誰も私を気にしない。見て見ぬふりをする。美桜に睨まれないためにはそれが正解。

私は誰かが美桜の餌食になる姿を見たくない。


そしてまた一人、すれ違った。

けれどその人は他の人と違って通りすぎず、私の横に立ち止まった。

「夏実ちゃん」

あ・・・

「永村・・・君」

よりにもよって、一番会いたくない人に・・・

「夏実ちゃん、どうしたの?なんか・・・汚れてる?ボロボロだし、どうかした?」

心配してくれるのはありがたいけど、今の私には・・・話しかけないでほしい。

「・・・何でもないよ。」

「そんなことないよね?何かあったの?」

「なにもないって「なーつーみぃ!」

この声は美桜だ。

駆け寄ってきてわざとらしく言う。

「あーれぇ?奏太君もいる~!夏実、なんで奏太君といるの?」

「えっと・・・たまたま」

美桜は、永村君に分からないようにこっちを睨んでいる。

「そぉなの?」

「うん・・・。」

・・・やばい。

やばいやばいやばいやばいやばい。

私・・・殺されるかも。

「奏太君、こんどさぁ、美桜達と遊ばない?瑞季君達もさそってさー」

「ああ、瑞季も行くかな?」

私を無視して、美桜は永村君と話し始めた。

・・・私、死ぬかも。大げさじゃなくて、本当に。実際、彼女は人を一人殺している。

小学校の時、一人の少女を・・・




小学校から私は美桜にいじめられていた。その時、私と一緒にいじめられている子がいた。

名前は、伏野(フシノ) (スイ)

私達は友達で、お互いいじめられてる同士、仲良くしていた。彗ちゃんもあまり喋るタイプじゃなかったから、私達は美桜達にされるがまま。まわりも誰も助けない。それは今も同じだけど。

彗ちゃんも私も毎日美桜と柚花と麻里と襟川さんと水瀬さんと他のクラスメートからいじめられていた。けど、私よりも、彗ちゃんのいじめの方が酷かった。

彗ちゃんは、普通とは違う見た目をしていた。大きな目に、長いまつ毛。顔も小さくて、美少女だった。肌も白くて、髪と目が茶色っぽいこともあって、まるで天使のように見えた。

美桜達は、それが気に入らなかったんだ。

彗ちゃんはいじめで何度も死にかけた。

カッターで切られたり、階段から落とされたり、給食に異物を入れられたりもしていた。

彼女はそれでも、私の前では笑っていた。

私は悔しかった、何より、目の前の彼女を救えないことが。私にはなにもすることが出来なかった。先生達はとりあってくれないし、クラスメートは全員無視。子供である私達に逃げ場はなかった。

彗ちゃんは、心も体もボロボロだった。


あの日も彼女は、美桜達のせいで骨が折れた右足に包帯を巻いて松葉杖で来ていた。そして私の所へ来て話した。

「夏実ちゃん、私、遠いところに行くの。」

引っ越しが決まったらしい。

美桜達から逃げられる。彼女にとって、すごく嬉しいことのはずだった。なのに、彼女は私に申し訳なさそうな、悲しそうな顔をしていた。

私は笑って言った。

「良かったね!彗ちゃん!」

彼女は驚いた。

そして、もっと悲しそうな顔をした。

「私は、夏実ちゃんだけ置いて行っちゃうんだよ?私がいなくなったら、夏実ちゃんがいじめられちゃう!!」

「彗ちゃん、私は大丈夫だよ?安心して。」

「夏実ちゃ・・・ごめ・・グスッ・・ごめんね・・・」

「いいって。ね?」

「ごめんね・・・。」

彼女は泣いてた。どれだけ優しい子なのだろうと思った。彼女もいじめられていたのに。

何よりもまず、私のことを考えてくれる。そんな優しい彼女が、私は大好きだった。


その翌日、美桜達が言った。

笑いながら、嬉しいことのように

「伏野 彗が死んだんだって!自殺らしいよぉ!あははっ!」

「ま、まじで?やっと?」

「うわぁ・・・今までよく生きてたね~。やっと死んだか。」

「でもさぁ、オモチャがいなくなんのはつまんないかもぉ?」

「たしかに!」


『私、遠いところに行くの』

『ごめんね・・・。』


・・・自殺・・?

嘘、嘘・・・!

彗ちゃんが、自殺なんて・・・


彼女達は、悪魔だ。

人が死んだ。それもクラスメートが。なのに、なのに彼女達は笑っている。人を殺して、平気で笑っている。

やっと死んだ・・・?

本気で、彼女達は彗ちゃんを・・・殺そうとしていたの?彗ちゃんを何だと思ってるの?

ふざけるな・・・

彗ちゃんを殺した、のは

佐倉 美桜、片山 柚花、東 麻里。クラスメート・・・

そして、止められなかった私。


私は周りを見渡した。


彗ちゃんの死に、悲しそうな顔をする人

『今さらそんな顔したって、彗ちゃんは戻らない。』


どうでも良さそうな顔をする人

『見て見ぬふりも同罪なんだよ。』


美桜達と一緒に喜ぶ人

『救いようの無いクズだね。』


自分が責められるんじゃないかと怯える人

『やっと自分のしてきた事を理解したの?』


全員、人殺しだ。


人殺し。それが今も普通に生きている。

あれから彗ちゃんは学校に来ることはなく、先生もなにも言わなかった。そう、何も言わなかった。

もしかしたら、美桜が言った事は嘘かもしれない。

彗ちゃんは生きてるかもしれない。

そう思って彗ちゃんの家を訪ねると、そこに伏野の文字は無かった。誰も住んでいなかった。

そこで私は初めて、彗ちゃんの死を理解した。

電話も出ない。連絡もこない。それは、そういうことだ。

実感がわかなかった。いつも二人で笑っていたのに、私の隣にはもう誰も居ない。それをこの時、理解した。

謝っても謝りきれない。溢れ出る涙を拭ってくれる人も居ない。

行き場の無い怒りが、涙と共に沸き上がった。


美桜達は罰せられない。おそらく、親の権力があるからだろう。美桜の親は会社の社長だから。

どうして世の中はこんなに理不尽なのだろう。

どうして優しい彗ちゃんだけが死んで、人殺しが普通に生きているのだろう。






「夏実ちゃん、聞いてる?」

・・・ん?

あ、永村君が話しかけてたのか。その後ろには私をにらむ美桜。

出来るなら美桜に、彗ちゃんと同じ目に、いや。もっと酷い目にあわせてやりたい。

でも私には、そんな力もなければ、立ち向かう勇気もない。

結局、何もできないままなんだ・・・

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