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翼の証明Ⅰ ~生命の記憶~  作者: ニンジン
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■第8話:渇きの地に ~ desert thieves ~

New Cast ミラ=アルテミス:リース族 ゴン=テネシス:リース族 ウル=スタンディ:リース族

ノヴァ、ライオネル、ホープの3人はノームの村から少し南に位置する場所で休憩をとっていた。

ライオネル 「アカデメシアの記録のことだがな。」 ライオネルがノヴァに向かってぽつりと言った。

ノヴァ 「うん。」 ノヴァはライオネルの言葉を拾うように相槌をうつ。

ライオネル 「俺はアカデメシア本部に毒光ゾークに関する情報が集約されているのではないかとふんでいる。」

アカデメシア本部-。ノヴァはアカデメシアに本部があることなど考えたこともなかった。

ライオネル 「アカデメシア本部は、毒光や黒き特質に関する情報を密かに収集し、また、各地の村のアカデメシア研究員とも情報交換を行っているはずだ。」

ノヴァ 「彼らの目的は、一体何なの?」

ライオネル 「研究員1人1人の純粋な知識欲もあるかもしれないが、真の目的は俺にもわからん。だが、どんな目的があろうとも、人間の死体を解剖してまで研究するなんぞ、俺は好かん。それどころか、正義きどりの台詞を口にして俺達のような黒き特質をもつ者を容赦なく抹殺しようとまでする。」

ノヴァ 「・・・。」

ライオネル 「ノヴァ、また悩んでいるのか。お前は決して『生まれてはいけなかった存在』ではない。少なくともまだ答えは出ていないし、それを確かめに行くと決めたのだろう?」

ノヴァ 「・・・うん、そうだったね。」

ホープ 「よしっ、どうやら目的地は決まったね!アカデメシア本部というと、ここからはずっと南の『中央都市』にあるんだってさ。西に回り込むと湖にぶつかってしまうから、南に広がる南アッシュランドを抜けて行かないとダメだね。」 2人の会話に割って入るかのようにホープが知識を披露した。

以前、ノームの村を訪ねてきた旅人が持っていた書物から得た知識だった。

ライオネル 「うむ。」

ホープ 「南アッシュランドは『アモリス盗賊団』の縄張りらしいから、気をつけないと持ち物は奪われ、下手に抵抗すれば殺されてしまうこともあるんだって。」

ノヴァ 「と、盗賊団って!」 ノヴァが不安そうに言った。

ホープ 「始末の悪いことに、盗賊団は『銃』と呼ばれる武器を使うんだって。筒の中に鉄の弾を仕込んで、火薬と呼ばれる粉に火をつけて筒の中を爆発させ、鉄の弾を敵に向かって飛ばすんだ。障害物でも無い限り、はるか遠くでも命中させるというし、ノヴァみたいなウィング族が近くを飛んでいれば、そのまま撃ち落とされてしまうかもねぇ?」 ホープはノヴァを脅かすように言った。

ノヴァ 「ライオネル!他の道を探そうよ。」 ノヴァはそれまで広げていた翼を慌ててたたんで言った。

ライオネル 「すまんが他の道は無いな。このまま歩いて行くぞ。」

ホープ 「アッシュランドの地面はサラサラで、いざっていうときも掘ることができないらしいから、ちょっと嫌なんだけど、仕方ないね。」

ノヴァ 「はぁ・・・。」 ノヴァは小さくため息をついたのだった。


3人が南に向かって歩くと、徐々に辺りが灰色の砂地へと変わっていった。どうやら南アッシュランドに入ったようである。

そのまましばらく歩いていると、突然遠くの方で『ガウンッ!』という大きな音がした。

ホープ 「これはひょっとして銃の音じゃない?きっとアモリス盗賊団だよ!早く隠れて!」

ノヴァ 「ええっ?隠れるったってどこへさ!」

ライオネル 「いや、ここから急いで離れてしまったほうがいい!身を低くして走るぞ!」


ノヴァ達のいる場所からほんの少し離れた西側で、3人の盗賊団らしき、片手で扱えるほどの大きさの銃を持った者達がいた。

「チッ!ドーリアも持っていないじゃないか。」

近くには死体が2つ転がっている。そのうちの1つは白装束を着ていた。

「弾の無駄だったな。いくぞ、ゴン、ウル。」

「ヘイ、団長。こいつも運が悪いですね~。俺達の縄張りに無断で入ってくるなんて。」

「しかし団長、反撃させる間もなく一発で仕留めてしまいましたね。」

「死者をもてあそぶ白装束の連中が大嫌いでね。『急いで解剖しなきゃいかん』とかなんとか言って、こっちの死体を乱暴に引きずっていたんだ。おおかた、南のアカデメシア本部に運ぼうとしているところだったんだろう。ドーリアもほとんど持っていないし、ハズレもいいとこだ。」

「まったくですね~。」

「よし、もう少し東へ行くとするか。」

盗賊団らしき3人は、足早に東へ進むと、ふと足元の何かに気がついた。

「・・・今日は来客が多いな。見ろ、『足跡』だ。かなり新しいぞ。」

「3人ほどいますね~。」

「ここで向きを変えていますね。」

「こちらの存在に気づいたようだな。だが、簡単に逃げられると思うなよ。すぐに追いついてみせるぞ。」


ライオネル 「・・・まずいな。」 先頭を走っていたライオネルは立ち止まって言った。 

ノヴァ 「追ってきてるの?」

ライオネル 「ああ。ホープも火薬の匂いが近づいてきているのがわかるだろう。」

ホープ 「うん、相当近くまで迫っているみたい。」 ホープは火薬の匂いを嗅ぎながらうなずいた。

ノヴァ 「うう・・・。こうなったら、僕が飛んで囮になるから、ライオネルとホープは先に逃げてよ。」

ライオネル 「ふはは、さっきまで怖がっていたというのに俺達2人を助けようとしてくれるのか。勇敢だなノヴァよ。だが、お前が飛んで囮になっても簡単に狙い撃ちされるかもしれないからやめておくんだ。まぁ、相手が少数なら闘えなくもないが、実は銃とやらは俺も見たことがなくてな。正直不安だ。」

ホープ 「もうっ!早くもピンチだね。」 


そして-。

「そこの者達、止まれ!」

ノヴァ達はあっけなく見つかってしまった。砂の丘の上から3人の盗賊団がノヴァ達を見下ろしている。南アッシュランドの強烈なディアを避けるためか、分厚いフード付きのマントを纏い、腰のところを紐で結び、小さな顔と三角の形をした大きな耳をフードから出している。3人とも背はライオネルほど高くなく、マントや服の上からでも痩せていることがわかるが、ここまで簡単に追いつかれたことといい、いかにも敏捷そうである。中央のリーダーらしき者はフードを深く被り、顔はよく見えないが、こちらに銃を向けて構えている。

ホープ 「ちょちょちょ、待って待って待って!君らの欲しいのはドーリアでしょう!渡すから、命ばかりはとらないでよ。」 ホープが飛び上がって叫んだ。

「ドーリアを持っているのか。」 向かって右側に立っていた者が口を開く。

リーダーらしき中央の人物は警戒を怠らず、こちらに銃をむけてその場から動かない。

「団長~、俺らが行きますよ。おい、お前ら。おかしなそぶりを見せたら体に穴があくぜ。」 向かって左側に立っていた者も脅すように言った。

両端の2人がゆっくりと近寄ってくる。ライオネルは相手に気がつかれないように、ノームの村でケルンからお詫びのしるしに貰っていた短刀に、こっそりと手をかけた。実は、3人は追いつかれた場合にそなえて、それぞれの役割分担について打ち合わせをしていた。小柄のホープが前に出てドーリアを差し出して油断させ、ノヴァはライオネルの手元が相手の死角になるように立つ。そして相手の油断をみてライオネルが襲いかかるという算段であった。

緊張が走る。計画どおり一番前に進み出たホープが、背負っていた地中ドーリアを差し出す。

「おおっ、これは地中ドーリアじゃないか~。お前さん、どうやらノーム族だね~。ん?爪が・・・。」

ノヴァも近づいてきたもう1人にドーリアを差し出す。

「こっちの兄ちゃんもたくさん持っているな。ん、その翼は・・・。」

「・・・だ、団長~!こいつら!」 2人は慌てて後ろを振り返ってリーダーを見た。

「・・・戻ってこいゴン!ウル!行くぞ!」

2人を呼び戻す声がはっきりと聞こえた。それは意外にも女性の声であった。

団長と呼ばれた人物は、終始離れた位置から一歩も動かず、マントを頭から巻きつけるように口まで覆っていたため、顔がよく見えなかった。

早々と立ち去ろうとする3人の姿をみて、ライオネルが大きな声で言った。

ライオネル 「待ってくれ!そのドーリアがないと、砂漠を渡ることができない。少しだけでも残しておいてくれないか。お前達の縄張りを荒らす気も無い。」

予定外の状況にノヴァとホープは冷や冷やした。

団長 「ふん・・・。断る。とっとと引き返せばよいではないか。」 足を止めて団長が言った。

ノヴァ 「でも、こんなところで立ち止まっていられないんだよ。お願いだよ。」 ノヴァは勇気を出して言った。

団長はマントから顔を出し、ノヴァ達3人をゆっくりと見比べながら次のように尋ねた。

団長 「・・・お前達は一体何をしにこの南アッシュランドに来たのだ。見れば3人とも種族が違うではないか。」

団長の顔を見たノヴァ達は一瞬息を飲んだ。団長は美しい顔をした女性だったのだ。少なくとも3人のもっていた盗賊団の武骨なイメージとは違った。

ライオネル 「・・・アカデメシア本部へ行く。理由は言えないが、アカデメシアの集めた情報が欲しいのだ。」 ライオネルは代表して答えた。

団長 (チッ!またアカデメシアかい・・・。) 団長は何かを考えるように目をつむった。

そしてゆっくりと目を開いてノヴァの方を見た。団長は透き通った目をしていた。背中の翼を見てから、またノヴァの方を見た。続いてホープの爪を見た。

団長 「お前達の名は?」

3人 「ノヴァ。」「ライオネルだ。」「ホープだよ。」

団長 「覚えておく。私はミラだ。ウル、ゴン、行くぞ。」 ミラと名乗った団長は、そう言って奪ったドーリアをノヴァの足元に放って去っていった。

ウル・ゴン 「ふん・・・。」「まったく、しょうがないね~。」

盗賊団の姿が見えなくなり、ライオネルはようやく短刀から手を離した。盗賊団からは見えない位置でずっと握っていたのだった。

ライオネル 「あれがアモリス盗賊団か。あの三角の耳と、砂漠でも疾走できる細く長い脚はリース族(有尾人種)だな。噂どおり好戦的で、少々危なかった。隙をみて飛びかかろうと思っていたが、あのミラとかいう団長には、まったく隙が無かった。」

ノヴァ 「うん、でも僕らを見たとき、変な反応だったよね。(綺麗な目をしていたけれど。あんなに綺麗な女の人が盗賊団の団長なんて、どうして?)」

ホープ 「オイラがこの爪で戦ったら、自分達も無事では済まないと思ったんじゃないかな?恐れをなしたってやつだね。(あぁー怖かったぁ。)」

ライオネル 「だといいがな。(奴らはきっと強い。それに・・・。)」

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