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翼の証明Ⅰ ~生命の記憶~  作者: ニンジン
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■第7話:真実は大地に埋めて ~ to bury the true under the ground ~

ノヴァ、ライオネル、ホープの3人は、長時間の緊張状態から解放され、ほっと一息ついていた。

昨夜、ノヴァ達の荷物を漁っていたのはホープであった。好奇心旺盛なホープは、村の外から客人が来ると、ついつい『いたずら心』で客人の荷物を漁り、荷物の中に自分の知識欲を満たすような書物などがあれば、しばしばそれを読むのに没頭して、そのまま一晩を過ごしてしまうこともあった。そして次の日には、客人しか知らないような書物に載っていた話を披露し、『そんなに若いのになぜ知っているのだ』と、驚かせることを楽しみの1つとしていた。

しかし、昨夜の『いたずら心』は、ホープの人生を大きく変える瞬間を招くこととなった。ノヴァ達の持つアカデメシアの記録を読んだことで、自分の呪われた運命を知ってしまったのだ。一度は現実を直視できずにその場から逃げ出してしまったのだが、ノーム族で最も賢く聡明なホープはすぐに思い留まり、2つのことを考えた。1つ目に、ノヴァ達がなぜアカデメシアに追われ、旅をしているのかを考えた。2つ目に、ノームの村人の健康について考えた。ホープの両親は、ホープがもっと小さい頃に亡くなっていた。導きだされたホープの選択は、ノヴァ達とともに村を出ていくことだった。あの後、ホープはノヴァ達のところに戻り、荷物を勝手に漁ったことを詫び、真剣な面持ちで黒き特質の話を聞いたのだった。


ノーム族で最も賢く聡明なホープは再び考えた。心の優しい村人達がこの事実を知ったら、きっと自分のことを憐れみ、村から追い出すようなことはできずにホープが村に留まることを望んでしまうだろう。しかし、仮に本当のことは言わずに適当な理由をつけて出ていったとしても、彼らはホープの身を心配し続け、いつか真実がもたらされた時に、『ホープは自分達のために1人で悩みながら出ていったのだ』と、心を痛めるような思いをさせてしまうだろう。

ホープはそんな優しい村人達に少しでも辛い思いをさせたくなかった。それなら手っ取り早く、自分のことを思い出すことがないように、村中から嫌われ、追放されてしまおうと思ったのだ。ノーム族は、仲間や礼節をわきまえた客人には常に優しく情に厚い反面、人を傷つけるような乱暴者や一度追放した罪人には特に無関心であり、その人間が不幸な目にあっても心を痛めることもないという、極端な2面性をもっていた。

それに、これはノヴァとライオネルには言わなかったのだが、ホープ自身が優しい村人達の顔を見て、旅立つ決意が揺らがないよう『退路』を断ちたかったのだ。ノーム族で最も賢く聡明なホープは、たった一晩でこれらの考えをまとめ、大きな決断をしてみせた。そしてノヴァ達に一緒に連れていって欲しいことを伝え、今回の協力、すなわち『芝居』を頼んだ。ライオネルは無用の争いを避けるため、一度は協力を渋ったが、ホープの決意を汲み取ったノヴァの説得により、協力することを決めたのだった。そう、盗まれたドーリアは後で簡単に発見されるよう、3人で協力して東の岩山の裏に隠しただけであった。


ホープの去った後のノームの村で-。

ケルン 「ガトー長老、本当にこれでよかったのでしょうか?」 ケルンは全てのドーリアを食糧庫に戻す作業を終えると、ガトーにあらためて話しかけた。

ガトー 「うむ・・・。あの者達なら信じられる。苦難に立ち向かう強い決意と、仲間のために涙を流す優しさ、その両方を感じさせる目をもっておった。」

ケルン 「たしかに、今まで訪れた客人とは少し違いましたね。」

ガトー 「呪われた子か・・・。いや、やはり希望の子じゃな。ワシらの『希望』が、自分が背負っている運命を呪わずに、仲間と一緒に運命と闘ってくれるのなら、『真実など大地に埋めておけ』じゃな。ふぉっふぉっふぉっ。ゴホッ、ゴホッ。」

ケルン 「ふふ。そうですねぇ。」

ガトー 「それにな・・・、もはや『黒き爪』なんぞ無関係なほど、ワシらの生命力は弱くなってしまっている。それをあの子1人に背負わせて罪の意識で苦しめてしまうことなんぞ、ノームの神に誓ってできるものか。」

ケルン 「それもそうですねぇ。」

ガトー 「しかし・・・、あの『演技』は3人とも絶望的に下手くそじゃったな。おかしくて涙が出てしもうたわ。」

ケルン 「夜中に食糧庫でガサゴソと大きな音をたてて、私が気がつかないとでも思ったのでしょうかね。倉庫番を馬鹿にしないでもらいたいもんですよ。中にホープがいたから、騒がずに様子を見ていましたけどね。」

ガトー 「急に演技の下手な役者が3人も現れたからのぉ。何を言い出すのかと様子を見ていたが、ついつい面白くなってしまって、村人達も全員彼らに付き合ってしまったな。ふぉっふぉっふぉっ。」

ケルン 「ですねぇ。私も『名探偵ホープ』とやらの演技に、つい乗っかってしまいましたよ。『5束しかないってことは誰も知らないはずなんだけどな』ってのは我ながら良い台詞でしたよ。うぷぷっ!」

ガトー 「ホープは村で一番頭が良いが、嘘は下手くそじゃな。それでこそ誇り高きノーム族の希望じゃわい。」

ケルン 「ですねぇ。でも、あの2人なら、何も言わずにホープの願いを聞き、協力してくれた彼らなら、きっと信じられますね。」

ガトー 「うむ。今回はネタばらしをすると、あの子の決意に水をさすからのう。お互いに『騙した』という罪悪感だけ、分かち合おうじゃないか。」

ケルン 「ええ・・・。」


実は、黒き爪が毒を放つであろうことは、もう何年も前から『ホープを除く村人全員』が知っていた。

好奇心旺盛なホープは、小さな頃から村中を駆け回り、村人達に『なんで?なんで?』と質問ばかりして彼らをよく困らせていたが、早くに親を亡くしたホープが子供らしく元気な姿を見せていることは、村人達を幸せな気持ちにさせるものでもあった。村中の人間が天真爛漫なホープを見て、自然と笑顔になるのだ。彼は名前のとおり『希望の子』として村人達から愛されていた。

しかし、彼の親の死後、代わりに世話をしていた者が徐々に体調を崩し、また別の者が世話をしても同じように体調を崩してしまうということがあった。体調を崩す理由は村人達には全くわからなかったが、長い時間ホープと一緒にいた者だけが体調を崩してしまうということは、なんとなく不思議に思われていた。そのような折、今から数年ほど前だったが、村人の1人がアカデメシア本部から偶然やってきた研究員から『黒き特質』の話を聞いてしまったのだ。その話に信憑性があったかどうかはわからないが、基本的には『良い人間だ』と思えば、その人間の言うことを信じるノームの村人が、アカデメシア本部からやってきたその人間が全くの嘘をついているとは思わなかった。

ある晩、成人した男女が長老の家に集まり、ホープの黒き爪について話し合った。しかし、それはアカデメシアの話が真実かどうかの話し合いではなかった。この黒き爪を深く調べること自体が彼を傷つけてしまうことになる。どうしたら彼を傷つけることがないか、どうしたら皆が幸せなままでいられるのか、ただそれだけを話し合ったのだ。結論は1つ、『何も聞かなかったことにする』ということだった。事実は確かめない。そして本人にはこの話を一切知られないようにし、村人共有の秘密として守りぬく。彼1人に起きた不幸が、もしも事実であったとしても、『これは村人全員に起きた不幸として背負えばよいのだ』という結論だった。ノーム族は優しく、心の美しさをもっている。そして滅多に見かけないことから、しばしば精霊として例えられた。

ノヴァ達が村を去ってから、ノーム族を見た人間は誰1人いなかったという。


ホープ 「2人とも、早く早く~!おいてっちゃうよっ!」

ノヴァ 「待ってよ、ホープ!」

ライオネル 「あまり先を急ぐとバテるぞ。」

ホープ (んもう、まったく2人ともノロマなんだから。う・・・、それにしても地上は眩しいもんだね。これからは地上の生活にも慣れなきゃな・・・。)

その日、大地を照らすディアの光はそれほど強くなかったが、ノーム族で最も賢く聡明な彼の目には涙が浮かんでいた。

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