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翼の証明Ⅰ ~生命の記憶~  作者: ニンジン
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■第6話:名探偵は語る ~ excellent detective ~

ゴソゴソ-。暗闇で動く『何か』の存在があった。

長時間にわたる逃亡でノヴァとライオネルの2人はあまりにも疲れ、また、久々に安全な状態で寝られるという安堵感によって熟睡しており、その存在に気がつかなかった。

(ふんふん・・・。)

何者かが彼らの荷物を漁っていた。

(これは何かの記録?『アカデメシア』と書いてあるな・・・。)

そのまま30分ほど経過しただろうか-。

ガタッ!!バサッ!!

大きな物音がしてライオネルは目を覚ました。

ライオネル 「む、あれは・・・?」 ライオネルが目を開けると、遠くのほうへ走り去っていくノーム族の背中が見えた気がした。

足元を見ると、アカデメシアの記録が床中にひっくり返っていた。

ライオネル 「これは・・・。」

ノヴァ 「うーん。あ、ライオネル、起きてたの?」 ノヴァも目を覚ました。

ライオネル 「ノヴァ、早めにこの村を出るぞ。」

ノヴァ 「ええっ?どうしたの?」

夜明けまではもう少し時間があった。


夜が明けると、ノヴァとライオネルは支度を整え、ガトーに世話になった礼を言った。

ガトー 「なんじゃ、もう行ってしまうのか?ゆっくりしていけばよいのに。」

ライオネル 「いや、もう十分だ・・・。本当に。」 ライオネルはガトーの配慮に感謝しつつ言葉少なげに答えた。

ガトー 「まぁまぁ、そう言わずに。村の者も久々の客人がきて喜んどるんじゃし・・・。」

ノヴァ 「ガトー長老、本当にありがとう。でも僕達、先を急いでるんだ。」 ノヴァもこれまでの厚意に感謝しつつ長居する気がないことを伝えた。

ガトー 「そうか、仕方ないな。ただ、1つお願いがあるのじゃが・・・。」

そのとき-。

「な、な、なんてことだっ!皆、来てくれ!」 少し離れたところで男の叫び声がした。

近くまで行くと、倉庫番のケルンが茫然として立っていた。地中ドーリアを保管している食糧庫の扉が壊されており、食糧庫の中を見ると空っぽであった。

村人 「ケルン、ドーリアを盗まれたのか!?」 叫び声を聞きつけ、駆けつけてきた村人の1人が口を開いた。

別の村人 「盗むと言ったって、食糧庫のドーリアを全て運び出すにはかなりの時間がいるだろう。昨日の夜から朝までの時間だとしても、数時間はかかるんじゃないか?一体誰がこんなことを?」

ケルン 「村の人間がこんなことをするわけがないし・・・。まさか、お前らじゃないよな?」 頭を抱えていたケルンが顔を上げて言った。

ノヴァ達はギクリとした。自分達が『よそ者』であることで、真っ先に疑われることは明白であった。また、昨晩は長老の厚意によって2人には専用の部屋が与えられており、それを見張る者などいなかった。アリバイが無い。何より、急いで村を出ていこうとしたことがどうも怪しい。

ガトー 「これケルン!証拠もないのに疑うんじゃない。ノームの神のバチがあたるぞい!」 2人をかばうように長老が言った。

ガトーの言葉に合わせて2人は、『自分達ではない』という意味で首を大きく横に振ったが、周りの人間の疑いの眼差しと戸惑いの表情は無くならず、そこには一種の緊張感が漂っていた。温厚で優しいノーム族といえど、生きるのに必要な貴重なドーリアを全て奪われれば、さすがにどのような対応をとるかわからない。ライオネルは、視線の動きがばれないよう気をつけながら、逃げ道を探し始めた。しかし、ここは地形の入り組んだ谷底の世界。いざ追われればノーム族の機動力から逃げきれる自信が無かった。朝からの騒ぎに、食糧庫の前には村人のほとんどが集まってきていた。

ホープ 「長老、オイラに任せといてよ!」 突然、集団の中にいたホープが得意気に進み出て言った。

ガトー 「なんじゃホープ?」

ホープ 「まぁまぁまぁ。皆さん落ち着いて。『名探偵ホープ』が犯人をズバリ当ててやろうじゃないか。」 ホープが言葉を続ける。

村人達 「め、名探偵?」「ホープは何を言っているんだ?」 村人達はキョトンとしている。

ガトー 「まぁ、確かにホープは若いが、村で一番頭がいいからのぉ。意見を聞こうじゃないか。」 ガトーがそう言うと、村人達も納得してホープの言葉を待った。

ホープ 「そうそう。任しといてよ。」

ガトー 「して、誰が?」

ホープ 「それは・・・・。」

村人達 「それは?」 村人は皆ゴクリと唾を飲み込む。

ホープ 「うん。状況からいって、この2人が犯人に間違いないね!」 ホープがノヴァとライオネルの方を指さして大きな声で断言した。

ケルン 「やっぱりか!」 ケルンも2人を睨みつける。

ホープ 「やいこら、ドーリアをどこへやったんだ!早く自首しちゃいなよ。ノーム族にとって盗みは最も重い罪なんだ。」 ホープはさらに2人を責め立てる。

ライオネル 「ちょっと待ってくれ、俺らは何も知らんぞ。なぁノヴァ。」 ライオネルは慌てることで余計に怪しまれないように気をつけながら言った。

ノヴァ 「そ、そうさ、僕らはここの村の地形に詳しくないし、ここにドーリアが沢山しまってあったのだって、今初めて知ったのに。」 ノヴァも続けて言う。

ホープ 「む・・・、反論するね。じゃあ聞くよ?皆が寝ている時間、どこで何をしていたの?」 ホープは容赦なく2人を追及する。

ライオネル 「俺達も寝ていたさ。知らんと言っているだろう。」 ライオネルはホープの問いに答えながらも、逃げ道を探すように視線を動かす。

しかし、これだけのノームの民に囲まれては、なかなか逃げ道が見つからなかった。

ホープ 「強情な!どこへ運んだんだよ。その怪力で扉を壊し、その自慢の翼で遠くへ持っていったんだ!他にできる人間がいるわけないでしょう?」

村人達は固唾をのんで彼らのやりとりを見守っている。

もとより、村人達が共有しているドーリアを、その村人がわざわざ盗むわけがないのだ。しかし、ノヴァとライオネルは否定を続ける。

ライオネル 「さっぱり話が見えないんだがな。そんなに疑うのなら納得いくまで調べたらいい。言っておくが拷問などでは俺は屈しないぞ。」

ノヴァ 「僕だって、やってもいない罪を認めないからね。」

ホープ 「な、なにを~。状況からいって君達しかいないに決まっているでしょ!村人が自分達の大事な食糧を盗んで、一体なんの得になるっていうの?村の外に運び出すなんてのは、君達以外に誰がやるってんだい!」

ノヴァ 「違うってば!もう、信じてよ!」 ノヴァは興奮して叫びだした。

ホープ 「いーや、君達だね。2人いれば簡単に運び出せるだろうし。ただ、名探偵として納得いかないのが、隠し場所がわからないということだよ。確かに君達はここらへんの地形に詳しくない。どこへ隠したのか正直に言ってよね!」

ノヴァ 「知らないってば!」

しばらくホープとノヴァのやりとりが続いた。ほとんど2人の口喧嘩のようになっていたところで、ライオネルがふと何かを思いついたように、ホープに向かって逆に質問した。

ライオネル 「ところで食糧庫には、一体どれだけのドーリアが入っていたのだ?これだけ大きな倉庫が満杯になるほど沢山入っていたら、2人がかりでも一晩で運び出すのは無理だ。逆に、簡単に運び出されるような僅かな量なら、わざわざ盗むこともしないぞ。」

ケルン 「昨日は・・・。」 ライオネルの問いにケルンが答えようとしたが、それを遮って興奮したホープが早口でまくしたてる。

ホープ 「確かにいつもは50束以上は入れておく村一番の大きな倉庫だけど、昨日はいつもより少なく5束しか入っていなかったんだ。でも5束といえ、君達2人がしばらく食べていくには多すぎるぐらいだよ。何より貴重な地中ドーリアだ。この村に来たときから目をつけていたって不思議じゃない。」

ケルン 「ん?」 ケルンが何かを疑問に思うように、首をかしげた。

ノヴァ 「5束ってどれくらいなんだよ?わかんないよ!」 ノヴァがホープに向かって言う。

ホープ 「ノーム族10人前さ。それぐらいなら運べるよね!」

ライオネル 「それでは普段は100人前もあって、昨日はたまたま10人前だったということか?」 ライオネルは話を整理するように言った。

ケルン 「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・。」 倉庫番のケルンが割って入った。

ホープ 「ん?なんだいケルン?」

ケルン 「昨日の夜、食糧庫にドーリアが5束しかないってことは誰も知らないはずなんだけどな。ドーリアの供給係の戻りが遅くなっていて、昨日たまたま極端に少なくなってしまっていてね。でも、この鍵で食糧庫の中に入って直接見ないと正確な数までは・・・。」 ケルンは村の皆に聞こえるように言った。

ライオネル 「見なければ、『正確な数はわからない』というのだな?」 ライオネルが目を細めて言った。

村人達 「・・・。」

ライオネル 「ホープ、なぜ5束だとわかったのだ?」 ライオネルはホープに質問をぶつけた。

ノヴァ 「なぜだいホープ?」 ノヴァも何かを閃いたかのように重ねて言った。

ホープ 「え?いや、ええと、か、勘だよ。」 ホープは初めて言葉に詰まった。

皆が不思議そうな目でホープを見る。

ホープ 「いやいやいや!君達が来て、沢山振舞ったから減ったかもなって、普通に思うじゃない?だから多分、あと5束ぐらいと思ってさ!」

村人達 「んん・・・。まぁ、そうだよな・・・。」「そうか・・・。」 村人達もホープの言葉になんとなくではあるが納得したようであった。

その様子に、一瞬慌てたホープが落ち着きを取り戻して言葉を付け足した。

ホープ 「そうそうそう。そんなわけがないでしょう?50束もあったら、『東の岩山の裏』になんか、1人じゃさすがに運べないよ。」

時間が止まった。

ホープ 「え・・・!?あ、あうっ!!」 ホープは思わず変な声で叫んでしまった。

ガトー 「ケルン、東の岩山の裏を見てくるんじゃ。」


しばらくするとケルンが東の岩山から戻ってきた。

ケルン 「長老!ありました!」

東の岩山の裏にキッチリ『5束』のドーリアがあったのだ。村人達は静まりかえっていた。ホープはその場でずっと下を向いている。

ケルン 「ホープ、これは一体どういうことだ。説明してくれよ。」 ケルンがホープに向かって声をかける。

ホープ 「・・・あーあ。」 ホープはやれやれといった感じで声を漏らした。

ガトー 「ホープ、なぜじゃ?」 ガトーも問いただす。

ホープ 「なぜって?簡単じゃないか。この退屈な村からおさらばする気だったんだよ。」

ホープの告白に村人達がザワザワと声をあげはじめた。

ホープ 「1週間前にアカデメシアの連中と会ってさ。この村にある地中ドーリアをアカデメシアに渡すかわりに、オイラには新しい知識や研究に専念できる環境を用意してもらうって約束をしたのさ。アカデメシアはオイラの頭脳を必要としてくれたんだよ!」 ホープは吐き捨てるように言った。

ホープ 「馬鹿な村人なんて騙すのはチョロいと思ったのさ。」 さらにホープは毒づいた。

ケルン 「そ、そんな。ホープ、嘘だろう。あんなに優しいお前が・・・。」 ケルンが泣きそうな声で言った。

ホープ 「ふん。みんな甘いんだよ。」

ホープの言葉に村人達は『信じられない』といったように愕然としていた。ある者は怒り、またある者はがっくりと肩を落とした。

皆が静かになると、長老がゆっくりと言った。

ガトー 「ホープ、お前はこの村にはおいておけん。」

ホープ 「・・・。」

ガトー 「ワシらは暴力は嫌いじゃ。しかし、このままお前を許すことはできん。自ら出ていってくれることを願うのじゃが。」

ホープ 「・・・ふん。こっちから願いさげだよ。」

幸いにも、5束とはいえ村にとって貴重な地中ドーリアは取り戻された。そして長老の宣告によって追放の身となったホープは、最後まで悪態をつきつつ、逃げるようにその場を去っていった。

ノヴァとライオネルは長時間の疑いの目からようやく解放され、ガトーが代表して2人に謝罪した。そしてお詫びのしるしとして地中ドーリアを2束持たされ、村人総出で出発を見送られるのだった。

ケルン 「2人とも、今朝は疑ってしまって本当にすまなかったね・・・。」 村の出口の先まで見送りについてきたケルンが2人に向かって言った。

ノヴァ 「も、もういいよ。僕らはあんなにご馳走してもらったし、本当に感謝しているんだ。」 ノヴァが答える。

ケルン 「そうか・・・。申し訳ないな。それじゃあライオネル、これを受け取ってくれよ。その大きな体でも、丸腰じゃあ心もとないだろう。」

ライオネル 「これは?」

ケルン 「ノーム族用の短刀さ。護身用に持っていたんだが、争いを好まない俺達には本来必要ないものなんだ。お詫びのしるしに持っていってくれよ。」

ライオネル 「ありがたく使わせてもらおう。」

ケルン 「誰かを傷つけるためじゃなくて、身を守るために使ってくれよ。」

ライオネル 「わかった。」

ノヴァとライオネルは村人達に見送られ、谷底から地上につながる道を歩いていった。


地上に出て10分ほど歩いたところで、ノヴァとライオネルの2人は1人のノーム族の姿を見かけた。

そのノーム族は2人に近づいて声をかけた。

ノーム族 「ノヴァ、ライオネル、2人ともありがとう。」

ノヴァ 「ひやひやしたよ。」

ライオネル 「これでよかったのか?」

ノーム族 「うん、長老達は甘いからな。」

ライオネル 「やれやれ・・・。本当に旅立つ覚悟はあるんだろうな?」

ノヴァ 「これから大変だよホープ?」

そのノーム族はホープであった。

ホープ 「うん。2人とも、連れていってくれるかい?」

ノヴァ 「勿論さ。黒き特質に悩む人間は、他人に思えないからね。」

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