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翼の証明Ⅰ ~生命の記憶~  作者: ニンジン
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■第2話:闇への手招き ~ into the darkness ~

New Cast ライオネル=アーサー:ガオン族

ノヴァ 「っつぅ~!!いだだだっ!」

目を覚ましたノヴァは頭に鈍い痛みを感じ、頭を抱えてしばらく耐えていた。痛みが少しひいてくると、ゆっくりと起き上がってあたりを見回した。四方は壁に囲まれており非常に狭く、天井は開いているようだが、ノヴァのいる位置まではほとんど光が届かず、足元は真っ暗であった。

ノヴァ (なんだここは・・・。何かの部屋?一体どうして?)

帰路、何の前ぶれもなくノヴァは気絶されられ、石牢のような狭い場所に入れられたのだ。しだいに意識がはっきりとしてくると、そこは石牢というよりも、どうやら生活用水を貯めておく貯水塔の中であることがわかった。貯水塔は風車と同様にヴェント村のあちこちにある。高さは人間を縦に並べると6人分ぐらいで、石と土で円柱状に固めて造られており、最下部に取り付けられた小さな筒から貯まった水が外に出せる仕組みになっている。雨水を貯めるため天井は空が見えるように開いているものの、普段は転落防止のため鍵付きの鉄格子で閉ざされている。中は非常に狭く、一度中に落ちると翼を広げて飛ぶこともできず、誰かに引っ張り出してもらわないと脱出することができなかった。鉄格子は下から見てもしっかりと閉ざされているように見える。どうやらノヴァを捕まえておくため、気絶している間に貯水塔の上から放りこんだようだ。

空はもう暗くなりかけている。

ゴーン。ゴーン。ゴーン。

聞き覚えのある鐘の音が近くで聞こえた。アカデメシアが定期的に鳴らす鐘の音だ。貯水塔の中では音の反響が大きく、思わず耳をおさえてしまった。

ノヴァ (う・・・。ここはアカデメシア専用の貯水塔?水は完全に抜かれているみたいだけど・・・。そんなことより、とにかくここから出してもらわなきゃ!)

ノヴァ 「おーい!誰かー!」

今のノヴァには、叫び続けて誰かが助けに来てくれるのを待つしかなかった。


あれから何時間たっただろうか-。いつまでたっても誰も助けに来ない状況に疲れ果てて、その場に座り込んだまま寝てしまっていたようだ。

男の声 「小僧、目を覚ませ。」 唐突に野太い声が頭の上から降ってきた。

ノヴァ 「はん?」 ノヴァは目を覚まし、上を見上げると、貯水塔の天井から見たこともない大きな顔がのぞきこんでいた。

顔の回りが長い毛で覆われ、眼光は鋭く、鼻も口も大きく、口の横からは3本ずつ太い髭が生えていた。その男がノヴァに向かって何かを言っている。

男 「お前はノヴァというのか?」

ノヴァは見慣れない大きな顔が急に目の前に現れたことにぎょっとして、しばらく何も答えることができなかった。しだいに、自分に話しかけている人間が、その特徴から噂に聞くガオン族だろうと思い、正体がわかったことで叫ばずにはすんだものの、ひょっとしてこの場で自分を食べようとしているのではないかと身構えてしまった。

ノヴァ 「な、何!?」

男 「ここから、いや、この村から逃げるんだ。」

ノヴァ 「なんで逃げる必要があるって言うの?」

男 「じきに殺されるぞ。理由もなく、こんなところに閉じ込めることがあるか?さっきの鐘の音は、きっと儀式の前の合図ってやつだ。」

ノヴァ 「儀式?なぜ僕が殺されるの?」

男 「その黒い翼さ。『邪神の呪い』だよ。お前の周りの人間は、皆体調が悪く、早死にしているだろう?狂信集団に言わせれば、その黒い翼が呪いの元凶なんだとよ。」

ノヴァ 「の、呪いってなんだよ!?」

男 「・・・俺もそうだった。」 そう言ってガオン族の男は口の中を見せた。

最初に顔を見たときには、ガオン族に生えているという鋭い牙が見えなかったが、口の中をよく見てみると、どうやら折れてしまっているようで、黒い牙の根元が残っていることがわかった。

男 「お前の翼と同じように、俺には黒い牙が生えていたんだがな・・・。神様が根元から折ってくれたのさ。」

ノヴァ 「へ、へぇ・・・。歯の病だったの?荒療治だね。痛かったんじゃない?」

男 「・・・。」

ガオン族の男はノヴァの言葉に思わず力が抜けてしまったが、こんなときでも素直な態度のノヴァに感心して思わず笑みを浮かべた。笑顔で鋭い眼光が隠れると、一瞬だが驚くほど人懐っこい顔に見えた。

男 「話は後だ。どのみちここから出たいだろう?さあ掴め。」 男はそう言ってロープを垂らした。

ノヴァがロープを掴むと、男は力強く引き上げた。ノヴァは引き上げられる途中で、鉄格子が体が通り抜けられるように捻じ曲げられているのに気がついた。

ノヴァ (こ、これを素手で?すごい力だ!)

ノヴァは無事に貯水塔から脱出することができた。久々に外の空気を吸ってほっとしたところで、目の前のガオン族に礼を言おうとした。

ノヴァ 「あ、ありがとう。えっと・・・、」

男 「俺はライオネルだ。ずっと西のミロス村から来たガオン族だ。」

ライオネルと名乗る男の全身を見ると、体の大きさはノヴァの2倍近くある。こんな大男がどうやって貯水塔の天井まで登ったのか不思議だったが、外壁には、よじ登ったと見られる鋭い爪の跡があった。

ノヴァ 「僕はノヴァ。ヴェント村のウィング族。」

ライオネル 「わかった。さて行くか。」

ノヴァ 「行くって、どこへ?」

ライオネル 「己のルーツを探るんだろう?俺も同じだ。なんでこんなデカイ顔・・・は、いいとして、黒い牙をもって生まれて、それが原因でアカデメシアの奴らに殺されなきゃいけないのか、自分のルーツを調べているんだ。と言っても、今はミロス村に現れたアカデメシアの奴らから逃げ回りながら、奴らが持つ情報を集めているだけの情けない状況なんだがな。」

ノヴァ 「ミロス村から逃げてきたの?」

ライオネル 「ああそうだ。俺を助けてくれた友は身代わりになって殺されてな・・・。」 ライオネルは聞き慣れない物騒な言葉を口に出して話を続けた。

ライオネル 「多勢に無勢ってやつさ。思ったよりアカデメシアの勢力は拡大していたのだ。まだ友の弔いも果たせていない・・・。」

ノヴァ 「そ、それで?」

ライオネル 「『訳もわからずここで死ぬわけにはいかないだろう』という友の言葉が、今の俺を突き動かしているのだ。」

ノヴァ 「・・・。」


外は真っ暗だった。

ノヴァ達が貯水塔から離れて5分もしないうちに異常事態を知らせる鐘の音が響いた。アカデメシアの研究員が、ノヴァが逃げたことに気がついたようだ。

声 「漆黒の翼が逃げたぞ!探せーっ!」

貯水塔の方から叫び声が聞こえた。その言葉は、間違いなくノヴァのことを指していた。それを聞いたライオネルがノヴァに向かって言う。

ライオネル 「急ぐぞ!走れるか?」

ノヴァ 「う、うん。」

ノヴァは自分が殺されるかもしれない話など到底信じられず、何かの間違いではないかと思っていた。しかし、ノヴァは数時間前に確かに殴られて気絶させられた。そして長い間貯水塔に閉じ込められ、前を走るライオネルが自分を助けてくれたことは事実であった。ノヴァはライオネルにおいていかれないよう、闇の中をひたすら走っていた。思えば、こんなに必死に地上を走り続けることなど、もう何年もなかった。風の吹く方向でよければ自慢の翼で誰よりも速く飛べる自信はあったのだが、今は翼を広げる気にはなれなかった。この翼が原因で殺されることになる、『邪神の呪い』とまで言われたのだから。

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